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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ


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第18話 揺れる思い

第18話 揺れる思い


ヴィクトールがエマと話したがっていることは、分かっていた。

でも、エマはヴィクトールといまは冷静に話しができない。

だから、ルシアンのお茶会が終わった後、何度も声をかけてきたヴィクトールと、目も合わせることができなかった。

ヴィクトールは話を聞こうとしないエマの手に触れようとしたが、思わず払ってしまった。反射的なものだった。


ヴィクトールの、あの、傷ついた瞳を忘れることができない。


失礼なことをしてしまった。沈んだ様子で部屋に戻ったナタリーが心配していたが、何も話すことができなかった。

どこにいても、ルシアンから贈られた花が目に入る。

部屋中が花の甘い香りに包まれていた。ルシアンの花は、エマを癒すどころか、疲れさせていた。

ヴィクトールから花を贈られたときはこんな思いはしなかったのに…――。

夕食を断り、一人ベッドに籠り、エマは考えこんでいた。

ルシアンの話には一理あったし、ルシアンが話していることはそれなりに裏付けのあることのように思えた。

あれだけのことに裏付けがあるということは、かなり前からケイティの姉である私は、見張られていたのかもしれない。


改めて、聖女という存在の大きさを感じさせられる。


「氷の貴公子」と「不気味令嬢」の婚約は、自分たちが思う以上に多くの人間の耳目を集めていたのだろう。

ただし、ヴィクトールの思いに気付く人間はそういないだろうから、あの推察はルシアン自身が感じたことなのかもしれない。

やはり、油断できない相手だ。祖父の警告が身に染みていた。


闇魔法のことも、知っているのだろうか。


あれだけの情報を知っている人だ。闇魔法のことは知られていないと安心して良いものだろうか。

ルシアンは、エマの銀髪にも紫の瞳にも偏見がない。

ベルディア帝国は、ルーク王国と異なり革新的、開放的なお国柄だ。

複数の文化が混じり合い成立しているため、違いに寛容とも言える。

ルシアンが言うように、エマがベルディアに輿入れすることは、エマにとってもマイナス要素ばかりではない気がしていた。

それに、ルシアンは、エマの求婚は個人的なものだと口にしていた。

このことで、外交カードを切るつもりはないということの表れか。

私に、逃げ場を用意してくれているのか。

そう考えると、ルシアンは強引ではあるが、悪い人間ではない気もする。

あの合理的な考えも、エマにとっては嫌ではなかった。


でも…――。ヴィクトールの本音は、どこにあるのだろう。


ヴィクトールのことを思うと、胸が痛んだ。

不気味令嬢といわれる私との婚約をあっさりと受け入れたヴィクトール。

ノクス領での日々。私の闇魔法のことを知っても、態度は変わらなかった。

それどころか、これまでどれほどヴィクトールに支えられたか。

この難局に当たって、ヴィクトールとは何度も相談を重ねた。

彼はいつだって私を気にかけ、私の意思を無視することはなかった。

この婚約が、彼にとって本意ではなかったとしても…。

ルシアンはヴィクトールとの婚姻がエマにとって「ケイティ」という呪縛から逃れられないものであると示唆していたが、

それはヴィクトールとて同じではないのか…。

私と結婚することで、忘れようとしている思い人と離れられなくなる。

新たなスタートを切ろうにも、私という存在が振り出しに戻してしまう。

だとしたら、ここで私が身を引くというのも……。

ルシアンとの婚姻であれば、婚約を破棄したとしてもヴィクトールの立場を傷つけず穏便に事を進めることもできる。

ルシアンは、私にとって最も痛いところを指摘した。

さすがの洞察力だ。

彼との生活も、刺激的で楽しいものかもしれない。

そう思いながらも、エマはヴィクトールとの幸せな日々を思い返していた。


彼の笑顔、揶揄い、気遣い、心配…。

そして、エマを見つめるヴィクトールのアイスブルーの瞳を思い出した。

エマの髪や、指や、手の甲に口付けた唇。優しい抱擁。柔らかな口づけ。厚い胸板…――。


ヴィクトールのことを思い出すと、身体が自然と熱くなった。


エマがどうしたいのか、この事態をどう解決したいのか、考えても考えても、同じ道を低回し、結局ヴィクトールが邪魔をする。


気がついたら、夜が明けていた。


一人になりたいと言った私を気遣ってか、辺りは誰もおらず、静かだった。


外の空気を吸いたい。


軽い身支度を自分でして静かに戸を開けた。

王室に来てからは、王宮の護衛もいるわけだし、レイヤードには少し離れて控えるよう伝えていた。

いつもそばにいるナタリーも、レイヤードも、いないようだった。

声をかけて行くべきか迷ったが、早朝の静かな王庭に出るのに、わざわざ二人の手を煩わすのは申し訳なかった。


隣の部屋の扉の前に立った。


静かだった。


ヴィクトールは、どんな思いでこの夜を過ごしただろう。彼と相談したかったが、まとまらない考えの中で話しても仕方がない。

使用人を起こさないよう、そっと王宮の庭に出た。

通りかかった使用人に「供をお連れします」と声をかけられたが、「少し、お庭に行くだけだから」と言って断った。

外に出ると、空気が冷んやりとしていた。

ノクス家の庭も美しいが、王庭は別格だ。

初めて見る植物もあるだろう。植物を見ることは、気分転換にもなる。


珍しい庭の花々を見ていると、背後から「エメリン様」と呼びかけられた。

聞き慣れない声だった。王宮の使用人が護衛のために来てくれたのか。振り返ると、見知らぬ黒づくめの男が立っていた。


護衛とはとても思えない男は、静かな王庭でエマを捉えようと襲いかかった。


「いやっ…」


そうエマが叫んだ瞬間、とんでもない突風が吹きエマを襲おうとした男を跳ね飛ばした。

男が怯んだ瞬間、エマは全力で走った。静かな犯行ということは、相手は目立ちたくないはずだ。

仲間はいたとしても、少ない。パッと見て、あの男以外の者は見えなかった。

とりあえず、この前にお茶をした東屋に向かって走った。


「エマ!」 聞き慣れた声だった。


エマの耳によく馴染んだ、低い声。ヴィクトール、だ。


走るエマを追ってきたのは、ヴィクトールだった。

エマは走る足を止めた。慣れない全力疾走に、足が笑う。

ふらっと倒れそうになる瞬間、ヴィクトールの手がエマの身体を受け止めた。

ヴィクトールの瞳が、近い。

先程から何度も彼のことを思い出していたことを思い出し、身体が熱くなった。

思わずパッと目を逸らしてしまうと、エマの身体を起こしたヴィクトールは申し訳なさそうにエマから身体を離した。


「失礼。勝手に、触れた」


昨日のことが尾を引いているのか、ヴィクトールは私と距離を置いた。


「いえ、助けていただいて…。ありがとう、ございます。ヴィクトール様、どうしてここに」


胸のボタンを開いた、ラフな格好のヴィクトールが立っていた。ブラウスから厚い胸板が見える。

髪も乱れ、額からも汗が滴っている。

ヴィクトールの美しさは、本当に目の毒だ。つい、目を逸らしてしまう。

ヴィクトールの熱い視線を感じたが、見返すことができなかった。


「君の、髪飾りから魔力が使われたのを感じて。

私の魔力を込めているから、君の場所が検知しやすくなっている」

「そういうもの、なんですね」


あの突風は髪飾りの魔力だったのか。

魔道具には詳しくないエマは、感心したように言ったが、ヴィクトールはエマの言葉を誤解したようだった。


「その…気持ちが悪いかもしれないが…。魔力が使われたとき以外に君の居場所を検知することはないから…」


ヴィクトールは何か言い訳するように、エマに告げた。

そんなこと、気にしていないのに。どうしたのだろうか。

今だって、エマの居場所が分かったから飛んできてくれたのだろう。


「ヴィクトール様、ありがとうございます。助かりました」

「あ、ああ。とりあえずは何事もなく良かったが…一体何が」

「それが……」


口に出す前に辺りを見回した。

まだ暴漢がいるかもしれない。

私の視線の意味を理解したヴィクトールが「部屋に戻ろう」と声をかけた。

そして、遠慮深気に「エマ…手に触れても、良いだろうか」と慎重に声をかけてきた。

昨日のことを、早くヴィクトールに謝らなければ…。

エマは「もちろんです」と頷くと、ヴィクトールの大きな手を取った。

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