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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ


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第16話 指輪

第16話 指輪


「どれもお似合いです」


翌日、エマはヴィクトールに王室御用達の宝石店へ引きずられて行った。

さすがに結婚のことは少し冷静になったようだが、婚約指輪はすぐに買うと言って聞かなかった。

エマは、むしろ無くても大丈夫だと思っていたが、ヴィクトールの圧に逆らうことができなかった。

今日のお忍びではエマは帽子をかぶることにした。

いつもはフードで全て隠していたが、帽子で充分な気がした。

ヴィクトールも、エマの髪色を気にしていないし、ノクス家の人々に触れ、

自分が過剰に様々なことを気にしていただけのような気もしたのだ。

実際、接客業だからかもしれないが、店主はエマの髪色のことなど気にしているようには見えない。

宝石店の奥の商談室に通され、次々店頭に並んでいない品が出された。

店主は得意そうに「これはベルディア帝国の細工でして」と説明しようとしたところ、ヴィクトールの表情が固まった。


「ベルディア?」


ヴィクトールがそうつぶやくと、空気が急に冷えたのを感じた。

ベルディアはルーク王国とは友好国だが、いまの彼には禁句だった。

店主が戸惑っていると、ヴィクトールは低い声で「ベルディア帝国のものは、やめてくれ」と店主に告げた。


◇◇◇


ヴィクトールがくれた髪飾りと揃いの、ピンクのベルライトの指輪も、ヴィクトールの瞳と同じサファイヤの指輪も、どれもため息が出るほど美しかった。

ヴィクトールはどれでもエマが気に入ったものを張り切ってくれていたが、どの指輪もエマには贅沢すぎるもののように感じられていた。

ヴィクトールには散々贈り物をいただいている。

これ以上何かいただくのは心苦しいのが本音だったが、今回の指輪は経緯が経緯であるので、有難く作っていただくのが最良の答えのような気がしていた。

「どれもエマに似合うよ」と、ヴィクトールは甘くささやく。

ルシアンの登場以降、ヴィクトールの距離が近づいたことに気が付いていた。

ヴィクトールとエマの距離は近づいてきていたが、ずっと手を重ねているようなことはなかった。

ルシアンへの牽制か、仲の良い婚約者アピールをしたいのかと、エマも黙ってヴィクトールに従った。

ただ、ヴィクトールが触れる度にエマはいつも身体の熱や鼓動の早さを感じていた。

いつまでも、慣れないわ…。

と思いながら、ルシアンに手を取られたときを思い返していた。

あのときは驚きはしたが、こんな風に胸が苦しくなるようなことはなかった。

店主は難航する様子の指輪選びに、新たな指輪を出してきた。

これ以上迷わせないで、と思ったが、店主が出してきた指輪に一目で目を奪われた。

青と紫。角度によって、その色がほんの少し変わるのが分かった。


「こちらのタンザナイトは、他のものと比べて紫がかった色が特徴です。

お二人の瞳の色をかけ合わせたようにも見えますし、お嬢様にも非常にお似合いになるのではないかと思います」

「美しいな」


ヴィクトールのつぶやきに、エマは大きく頷く。

二人の瞳が混ざり合うような石。


「ヴィクトール様、こちらのものでも宜しいでしょうか」

「エマ、私もこれが良いと思っていたよ」

「それではお決まりですね。刻印もお入れしましょうか」


ヴィクトールは刻印の文言例を見ながら、ヴィクトールは「どれもいい」と言っていたが、「永遠の愛を」や「あなたは私の全て」などというロマンス小説のような、甘い言葉を入れるのは、エマとしてはまだ受け入れにくい。

私たちの関係を誤解してしまいそうになる。

しかし、この調子だとヴィクトールは間違いなく甘ったるい愛の言葉を刻印するだろう。


「ヴィクトール様」

「どうした?」

「あの…、私、お名前を入れていただきたいです、ヴィクトール様の」


愛の言葉よりは、贈り主の名前を入れていただく方が良い。

私の提案がヴィクトールの自尊心を満足させたのか、思いのほか喜んでくれた。

店主も私の提案に微笑みながら同意した。

指輪は五日ほどで仕上がる。王都は間もなく後にするので、完成した指輪はリュクノール領に送られることになった。

王都でもう少しのんびりしても良いのだが、ルシアンの登場でヴィクトールが一日でも早くこの地を去りたがった。

王宮に向かう馬車の中から、以前はあまり眺めることのなかったアステリアの街を眺めた。

大きな、歴史的な建造物が目に入った。


「あの建物はなんですか?」

「ああ、あれは王立図書館だ。蔵書量は王国一の図書館だよ」


エマの目が輝くのをヴィクトールは見逃さなかった。


「今度王都に来たときは、行ってみようか」とほほ笑んだ。

もちろん私は二つ返事で答えた。


「ヴィクトール様、指輪、ありがとうございます」

「遅くなって、申し訳がなかった。エマ」


エマとヴィクトールは見つめ合って微笑みを浮かべた。

王都に着いて初めて穏やかな時間を過ごせている気がした。しかし、それも長くは続かなかった。


◇◇◇


「エマ…――」


部屋の前に立っていたレイヤードが、エマのもとへ駆けて来た。

いつもの様子ではないのは一目で分かった。


「どうしたの? レイヤード」

「それが……」


レイヤードの様子に、隣に立っていたヴィクトールは不審そうに眼をすがめた。

エマの部屋を開けると、部屋中が花で埋まるのではないかと思う量の花が飾られていた。

飾る場所に困っているナタリーが、「お嬢様、お帰りなさいませ」と呼び掛けた。


「ナタリー、これ……」


ナタリーは、黙って頷いた。


「ルシアン様から、届きました」


ヴィクトールに配慮してか、贈り主の名前を小さく呟いた。


「エマ、それと…一緒にお供も現れて…」


嫌な、予感がする。


「戻ったら、ぜひお茶をと」


深刻な事態と受け止めているレイヤードが青ざめていた。

ヴィクトールは、花で埋め尽くされている部屋を忌々し気に見て、「行かなくていい!」と苛立ちの声を上げた。

ヴィクトールの突然の大きな声に、エマがビクッと身を縮めた。

苛立ちを隠さないヴィクトールを、エマは怯えたような瞳で見た。

エマの瞳を見て、ヴィクトールは正気に戻ったようだった。


「エマ……すまない」


ヴィクトールの心許なげな瞳が、エマを捉える。

ヴィクトールはエマを腕の中にぎゅっと閉じ込めた。


「君は何も悪くないのに……。感情的になってしまった」

「いえ、私の方こそ。少し、驚いてしまって……。失礼いたしました」

「いや、いまのは私が悪い。嫉妬が抑えられなかった。

情けないことに、平静でいられないんだ。君を奪われるかと思うと……」


いつも冷静なヴィクトールが、エマを抱きしめる手に力を込めた。


苦しくなるほどの抱擁だった。

活動報告にルシアンの紹介も書きました。あわせてご覧ください。ら

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