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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ


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第14話 ケイティ

活動報告ページにカイルとケイティの人物紹介を書きました。良ければご覧ください。

第14話 ケイティ


「お久しぶりです。お姉さま」


せっかく王都に来たのだからと、カイルがケイティを伴っての茶会を用意してくれていた。

久しぶりの再会に気を利かせたのだろうが、私とケイティは、一般でいう姉妹の絆のようなものはなかった。

ケイティと会うのは、ヴィクトールと婚約が決まったときの顔合わせ以来だ。

あのときに気付いたヴィクトールの気持ちを思い出して、エマは胸が痛むのを感じた。

美しい金髪も、翡翠色の瞳も、穏やかな笑顔も、そのどれもが、エマを憂鬱にさせていた。

とりあえずは王太子への説明が終わり解放感があったはずなのに、彼女と会った瞬間、気持ちが沈む。

最近少し前向きになっていたのに、前の自分に引きずり戻されるようだ。

ヴィクトールも、なぜか浮かない顔をしていた。

ケイティと会えて嬉しいものかと思ったのに…。

もしかしたら先ほどの話で「彼との結婚が嫌だった」という風に取られてしまっていたら…。

失礼な言い方をしていたら申し訳ない。

闇魔法のことを秘匿するため、それ以外は真実を話すようにした。

嘘は真実の中に一匙混ぜると見分けにくくなる。

生きる術として、このことは祖母から教わった。


「ヴィクトールとの結婚準備も順調そうで何よりですね」

「ありがとう、ケイティ」

「そのドレスも、とても素敵。ヴィクトールの瞳の色ね。ヴィクトールのチーフも」

「ケイティ、カフスもなんだ」

「まあ!」


ふふ、とほほ笑むケイティに王太子は囁いた。

悪意のないケイティの言葉が、私には白々しくも思えていた。

神話の女神のような彼女は、いつ見ても美しい。

カイルは、ケイティを目に入れても痛くないという様子で見つめている。

幼少期からケイティはその類まれな才能のために、両親と三人タウンハウスで暮らしていた。

闇魔法を持つ私の存在は、まるで隠されるように領内に閉じ込められたというのに。

今まで私の闇魔法のことを知っていたのは、家族と、限られた使用人、レイヤードくらいか。

ケイティは、血のつながりこそあれ、私の闇魔法のことは知らない。

ケイティには一点の曇りもあってはならないという両親の配慮だ。

聖女の姉が、闇魔法の使い手だなんてケイティにとっても良くない。

光と闇。私はその対比にいつも苦しんだ。

何もかも手にしているケイティ。

それなのに、ヴィクトールの心もケイティにあるのかと思うと、何もしていない彼女を憎らしく思ってしまう。

ケイティは、私に、いえ、誰にもこんな黒い感情は抱かないのだろうけれど…。

どす黒い感情がうずまく中で、ケイティは以前私とヴィクトールの話を続けた。

自分のために、厄介払いされるように急がれた姉の婚約が幸せなものだと確信しているようだ。


「ヴィクトールが王宮の廊下でお姉さまに愛を囁いたというお話も聞きました」


ヒューデル侯爵令嬢の一件がそんな風に伝わっているとは…。


貴族の噂というものは、本当に恐ろしい。カイルが「そんなことがあったのか」と驚いている。

カイルの場合はどこまで信じているのかは分からないが、ヴィクトールを揶揄うネタができたことには喜んでいるようだ。

ヴィクトールを見ると、澄ました顔をしている。否定すると、私に失礼だと思っているに違いない。


「違うの、ケイティ。あれはヴィクトール様が私を気遣ってくださっただけで、そんな甘いお話ではないのよ」


慌てて私が言うと、ケイティとカイルが嬉しそうに目を合わせた。


「やっぱり真実だったのね。貴族の噂なんて、信用ならないと思っていたけど」


否定したにも関わらず、ケイティは嬉しそうに言った。


「だから…――」


カイルが事態を理解していないであろうエマに「ヴィクトールが、女性を気遣うということが事件なんだよ」と言い、軽くウインクをした。


「エメリン嬢はお気づきではないようだが、この男、王都では言い寄る女性たちを眼光一つで凍り付かせていたんだ」


ヴィクトールは、苦笑いをしながらお茶を飲んでいる。ヴィクトールがケイティに向ける視線は、前感じたものとは違った。


「ところが、どうだ。婚約者ができた途端に甲斐甲斐しくなるとは…」


ヴィクトールは、緊張して食べないであろうエマを気遣ってか、スリーティアーズに置かれたお菓子をエマの皿に置いてくれていた。お茶が少なくなったら侍女よりも先に気付き、会話に困りそうだったら助け舟も出してくれていた。

しかも、エマの皿に盛られたお菓子は、どれもエマが好みそうなものばかり。

ノクス領で辺境伯夫人とお茶をしていた際に、好みまで把握されていたのだろうか。

ヴィクトールは気が利く方だとは思っていたが、貴族男性がどういうものなのかよく分かっていないエマは、彼のそのような行動の数々を「よくできた婚約者」という程度の理解に留めていた。


「婚約者を気遣って何が悪い」


カイルやケイティの冷やかしに遭っているヴィクトールは、涼しい顔で言った。


反応するとますます揶揄われると思ったのか、とにかく開き直る作戦なのか、

ヴィクトールは二人の揶揄いに終始そのような対応で切り抜けていた。

三人のやり取りを見ていると、仲の良い幼馴染なのだと改めて納得した。

こうしていると、ヴィクトールやカイルの方がよっぽど家族のようだ。

婚約の挨拶のときに見た視線を、今日はヴィクトールがケイティに向けることはなかった。

カイルがいることで、ヴィクトールは自分の思いに蓋をし続けていたのかもしれない。

エマは人知れず、ヴィクトールの胸中を思いやっていた。

それなのに…。自分の皿に盛られたお菓子を見ると、申し訳がない気持ちになった。

しかし、仲睦まじい様子のカイルやケイティが破談するとは思えず、

私とヴィクトールが破談したところで、ヴィクトールの思いが実るものでもないのだと複雑な状況を理解した。

であるならば、このまま私がヴィクトールと婚姻することが「正解」と言えるのかもしれない。


「カイル殿下、ケイティ殿に、ああ、珍しいな、ヴィクトール殿もいらっしゃるとは…」


一人の男性がカイルたちに声をかけた。

王庭内を、供をつけて散歩できるのだから、高い身分の御方に違いないが、社交下手なエマは彼が誰なのかが分からなかった。


――…もっと、勉強しないとダメね。


彼の姿を見て、全員が恭しく立ち上がって礼をした。


「そんな畏まらないでくれ。楽しくお茶会をされていたところ、邪魔をして悪かった」


背はヴィクトールくらいの高さだろうか。

癖のある肩まで伸びた黒髪を後ろで一つに結んでいる。

ラフな格好であるものの、身に付けているものはどれも一級品だろう。


「そちらのご令嬢は」


榛色の瞳が、エマを捉えてにっと微笑んだ。


「リュクノール侯爵が令嬢。エメリンと申します」

「リュクノール…というと、ケイティ様のごきょうだいか」


「姉でございます」とケイティが告げる。

男性が二人を見比べ、「非常に美しい姉妹だ」と言った。


「エメリン殿。大変失礼ですが、ご結婚はまだでしょうか」


20歳で結婚をしていない高位貴族の令嬢は少ないが、結婚指輪もしていないので、独身だと思われてしまったのか。

エマは戸惑いながら、男性に請われるまま答えた。


「婚約期間中でございます。結婚は、まもなく」


エマはヴィクトールをチラリと見た。

そう、特に何事もなければ、間もなく彼との結婚生活が待っているのだ。

男はエマの答えを聞いて、大輪のような笑顔を浮かべた。


「そうか。ご結婚はまだか」


婚約期間中と言ったことは聞いていなかったのだろうか。

男性はエマの手を優しく、だが強引に取った。

手の甲に口づけをすると、「私が立候補しても、宜しいかな」とエマの瞳を見つめた。

男は自信満々の様子だ。これだけ美しい、しかも身分の高い男性の誘いを断る令嬢はいない、ということか。

しかし、エマにはヴィクトールがいる。

エマはこの謎の男性の戯れに何と答えて良いか戸惑っていると、男に握られたエマの手をヴィクトールが強引に奪い取った。

「エマは私の婚約者です」とヴィクトールは男性に宣戦布告するかのごとく述べた。

彼はカイルの態度を見ても、相当身分が高い方なはずだ。

確かにヴィクトールの言うことは事実だが、そのような不遜な態度を取って良いものなのだろうか。


「ヴィクトール殿がご婚約者だったのか」


男は惚けた様子で言い、改めてエマを見つめた。


「なるほどね。自分の瞳の色のドレスや髪飾りをつけさせて…。

意外だな、ヴィクトール様が女性にそういったことをする方とは」


「最愛の、婚約者ですから」とヴィクトールが言うと、男はそれを鼻で笑った。


「婚約指輪一つ買っていないなんて、ヴィクトール殿ほどのお方が…」


ヴィクトールは痛いところを突かれたという顔をした。


「結婚しているわけでもない。婚約指輪も用意していないわけだから、他の男に求婚されたって仕方がないとは思いませんか?」


男はエマに向き直った。


「美しい髪飾りだ。我が国の工芸品を身に付けてくれているのは嬉しいよ。

銀細工は我が国でも人気の高い工芸品だ。婚約指輪も、結婚指輪も、君が気に入ったものを作らせよう」


ベルディア帝国制の銀細工を、我が国と呼ぶということは…――。

王太子であるカイルを前にしてこんな態度を取れるということは…。


まさか、この人…。


男が連れ立つ供の服には隣国の紋章が刻まれていた。

つまり、男はベルディア帝国の皇太子、というわけか。

ようやくエマは、男の正体に気が付いた。

ヴィクトールはエマの手をぎゅっと握りながら、皇太子を睨みつけていた。

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