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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ


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第13話 噂の真相

第13話 噂の真相


エマの瞳が変化したのを見て、カイルは興味深そうに右眉を上げた。


「私が聞いた噂はね、ノクス領の聖女のことなんだ」

「どういった、ことでしょうか…」


落ち着いた様子で、私はカイルに向き合った。ヴィクトールは、カイルの様子を観察している。

ヴィクトールが、私を信頼して任せてくれていると分かった。彼の期待に、応えたい。


「ノクス領で、聖女に似た力を発する者が現れたというんだ。

回復不可能だと思われた騎士たちが奇跡的に回復したこと、魔物の出現率も減ったと聞いている」


カイルはヴィクトールを一瞥した。ヴィクトールはカイルに首肯する。


「ここ一カ月ほど、魔物の出現は減ったし、一命を取り留めた騎士がいるのも事実だ」

「やはり、ノクス領に聖女が現れたと見ていい、ということか」


カイルは、今度はエマをちらっと見た。

当たり前ではあるが、カイルは噂の真相がどういうものか、当たりをつけて聞いている。

どこまで知っているのかを、見極める必要がある。


「私がノクス領で献身を捧げた成果だとは思わないのか」

「ヴィクトール、君が優秀なのは百も承知だが、君に聖女のような純粋さがないのも分かっている」


カイルは聖女ケイティの純粋さを思い出していた。


「一方で、エメリン嬢は非常に純粋そうなお人柄だ。さすがは、ケイティの姉上」


何かとケイティのことを持ち出されるのが嫌だった。

先ほどまでのヴィクトールとの婚約話は、エマの性質を見極めるものだったのか。


「殿下、私には過ぎたお言葉です」

「単刀直入に聞くが、君が診療所で騎士を回復させたのは事実か」


診療所での話を、どこまで子細に知っているのか。

老医師や騎士だって、王家に問われれば隠し立てすることはできない。


でも…――。


「事実かと問われれば、そのお話は私にとっては事実とは言えません」

「面白い言い方をするな、エメリン嬢」

「僭越ながら…。物事の見方は、人によって千差万別と申します。

同じデータを見ても、見えるものが違うと私の祖父はよく申しておりました。

どちらかが誤っている、というわけではございません。ただ、見え方の問題なのです」

「トレラー侯爵か。彼も実に優秀な薬師として名を馳せた御仁だ」

「陛下にそう言っていただけるとは、祖父も薬師冥利に尽きるというものです」

「君はケイティとは離れてカントリーハウスで過ごしていたね」

「はい。ケイティは幼い頃から光魔法に長けておりましたから、聖女認定に向け、両親を伴ってタウンハウスで。私と弟のエドワードは、祖父母と共にリュクノール領で。

私は生家で祖父にずっと薬師としての道を究めるよう指導を受けておりました」

「薬師として…。高位貴族のご令嬢としてずいぶん珍しい生育歴だね」


エマはにこりと微笑んだ。


「陛下もご承知のことと思いますが、私は銀の髪に、紫の目。

ルーク王国においては多くの方に忌避される容姿をしております。

祖父は私の容姿を見たときに、私を侯爵令嬢としてではなく、薬師として一人前にすることを決意したと申しておりました。それが、私の幸せであると」


ヴィクトールにも話していないことだった。


驚いたように、ヴィクトールが私を見た。


「もちろん、こうして良縁をいただけたことは私の人生においては、非常に予想外の、素晴らしい誤算であったと思っております」


ヴィクトールやノクス家の方々に失礼にならないよう、配慮していた。

私はいまヴィクトールとの婚姻には前向きな思いを持っている。

諦めていた侯爵令嬢としての役割を担うことができたことも誇らしい。


「祖父とはずっと研究に明け暮れておりました。

アカデミーに行かず、領地で学ぶことを選んだ最も大きな理由は、薬師の道を究めるためです。

嫁ぐ予定のない私に、一般的なご令嬢の教養は不要でしたから」


カイルも、ヴィクトールも、エマの話に静かに耳を傾けた。


「祖父との研究生活は、私にとってはとても楽しいものでした。

はじめは領民の健康を守るためと考えておりましたが、しだいに瘴気に侵された人々を救う方法を考え始めたのです。

私はケイティと違い、光魔法は使用できませんし、魔力量もさほどありません。

しかし、幸いなことに私は水魔法と、土魔法の二つの魔法の恩恵を受けることができていました。

祖父と私は、あるときそれらを掛け合わせたらどういう力になるのか、ということに興味を持ちました」


カイルの瞳が鋭く光ったのが分かった。


十五歳のデビュタントで公の場に現れて以来、領地に引きこもり続け、怪しげな研究を続けているという噂がエマの話に説得力を与えていた。


「自分の魔力と向き合い、繰り返し、研究をつづけました。

そして、瘴気に侵された人々を救うためには、瘴気の中和が有効ではないかという仮説に辿り着きました。聖女の浄化とは雲泥の差ですが、何の力もない私のようなものでも、魔力の掛け合わせによっては可能ではないかと」

「中和…」

「領内にいた、瘴気に侵された動物たちで最初は実験しました。

はじめは思うように行かず、失った命もありましたが、次第に回復するものが現れたのです。

しかし、聖女の浄化と違い、中和はそれだけでは瘴気を排出した生物の安定的回復は見込めません。

それを補ったのが、祖父と開発し続けていた様々な薬です。

薬によって、一時的に回復した者の、安定を引き出すことができたのです。

それが、ノクス領で行った私の行動の全てです。私は確かに騎士様の回復の手助けは行いました。

しかし、それは浄化と違って飽くまでも手助けに過ぎない。

回復したのは、騎士様ご自身のお力も大きいのです。魔獣出現率の低下は、中和の力の副次的なものかもしれません。そちらについては、研究不足で今の時点では…。

長くなってしまいましたが、騎士様を回復させたかと問われたら否とお答えをさせていただきました」


カイルは、エマの説明を腑に落ちたというように頷き、

「非常に興味深い話であった。しかし、この噂が教会側のものの耳に入ると、厄介なことになるかもしれないな…」と述べた。


ヴィクトールはエマに優しく頷いた。


どうやら、カイルは一時的かもしれないが、とりあえずはエマの説明に納得してくれたようだ。


大役をやり切ったエマは、ほっと肩の荷が下りるのを感じた。

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