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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ


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第12話 王太子との対面

第12話 王太子との対面


「ヴィクトールとの婚約、順調に進んでいるようで何よりだ」


王太子カイルは、エマに優しい微笑みを浮かべた。さすが王太子と言うべきか。

カイルは社交に慣れており、社交が苦手なエマを緊張させないよう、固い雰囲気を作らない工夫を随所に凝らしてくれているのが分かった。

エマには先ほどから非常に柔和な態度を取ってくれているし、口下手なエマを気遣ってか会話もリードしてくれている。

カイルとエマの共通の話題というと、ヴィクトールとケイティの二人。おのずと話題はそちらに傾くわけだが。

カイルは、エマとの挨拶のあと、ドレスの色はもちろん、髪飾りの色石、カフス、チーフにも気が付くと、カイルは目を丸くしていた。

意外そうな顔をしたあと、ヴィクトールを揶揄うように目をすがめた。


「ヴィクトールとは幼馴染なのだが、ヴィクトールがこんなに女性に甘い男だとは知らなかった」と、楽しそうに笑った。


楽し気なカイルを尻目に、ヴィクトールは澄ました顔を崩さない。

エマはと言うと、確かにヴィクトールとは少しずつ打ち解けて来たし、揶揄いも受けるようにはなっている。


甘い、というと……。


ヴィクトールの髪や指先や、先日の唇への口づけを思い出し、顔が赤くなるのが分かった。

いけない。私ったら、一体何をしに来たのか分からなくなってしまう。

私の百面相を見て、カイルは再び楽しそうに笑った。


「なるほどね。ヴィクトールが夢中になるのも分かるよ」


カイルは、ヴィクトールがエマに夢中になっていると誤解しているようだった。


「ヴィクトール、私に感謝しろ」

「うるさい側近を、厄介払いしただけだろう」


ヴィクトールはカイルの幼馴染らしく、歯に衣着せぬ様子でカイルに突っ込んだ。


「厄介払いなんてとんでもない。

ヴィクトールがいなくなって、私に正面から歯向かうものが減って本当に寂しいのに」

「勝手に言ってろ」

「公務が増えて困ってはいるのは本音だ」


カイルはヴィクトールを揶揄うのが楽しいようだ。


厄介払い…――。


エマの胸がチクッと痛んだ。そうだ。ヴィクトールは、私の婚約前にはカイルの側近として、この王宮で働いていた。

それが私との婚約が決まったために、ノクス領の後継ぎとして急遽領に戻ることになった。

ヴィクトールは感じさせなかったが、彼の環境も婚約の所為でガラッと変わったのだ。

ヴィクトールと過ごしているうちに、エマはすっかりこの婚約がエマにとって居心地の良いものだと思うようになっていたが、ヴィクトールの本音はどうなのだろうか。


「失礼、エメリン嬢。ヴィクトールとはつい気安くて…。君も知っているだろうが、彼はアカデミー卒業後、私の仕事を手伝ってくれていたんだ。

ノクス辺境伯には『後継ぎを返せ』と何度脅されたことか分からないが、優秀な彼を手放すのはおしくてね。つい、引き留めてしまった」


熊公爵の豪胆な姿を思い返す。彼なら、王太子を脅すことは、訳はなさそうだ。

そして、ヴィクトールが王太子に力を買われるのもよく分かる。

少しの間、ノクス領での彼の政務を見ていただけだが、彼が優秀な男性だというのはエマでもよく分かった。


「ヴィクトール様は、私には身に余る方です」

「ヴィクトールは、女性には存外厳しいから、君がつらい思いをしていなければ心配していたが…」

「大変よくしていただいております」

「そのようだ」


カイルは満足気に言った。自分が結んだ縁がうまく運んでいることが誇らしいようだ。


「君は大切なケイティの姉上だ。誰よりも幸福な結婚をと考えたんだ」


――ケイティの名前を聞いた瞬間、胸がドキリとした。ヴィクトールを思って高鳴るものとは全く違う。

エマが長年患っていた劣等感の、種だった。


「光栄至極に存じます」


私の表情が固くなるのを、ヴィクトールは見逃さなかった。


「カイル、結婚の話はこのくらいでいいだろう。本題を」


ヴィクトールとエマの様子を見て、カイルは口角を上げた。


「さすが、話が早い」


カイルは人払いすると、ヴィクトールとエマの三人になった。


「エメリン嬢、人もいないし、ここからはどうか私を義弟と思って気楽に」


カイルはエドワードとも、レイヤードとも、全く違うし、そもそもカイルの方がエマよりも三つ年上だ。

関係的には義弟にはなるが、一生義弟…いや家族などとは思えない。

扉の前に立っているレイヤードの方が、エマにとってはよほど「弟」らしい。

ヴィクトールの両親と会ったときはそんな風には思わなかった。

改めて、あの家の人たちが特殊だったのだと気づかされる。

本当に私は「幸福な結婚」ができるのだ。

それを結び付けたのが、カイル、引いてはケイティの存在だと思うと、エマを複雑な心境にした。


「それで……。結婚準備も急がせておきながら、急いで王宮に来いなんて、どういうつもりなんだ」


ヴィクトールは、いつまでも本題に入ろうとしないカイルに焦れたように話を促した。

カイルはわざとヴィクトールをイラ立たせているようにも見えた。


「それは……――。ノクス領のことで、面白い噂を聞いてね」


カイルは前かがみになり、ようやく本題を話し始めた。

噂…――。

エマは祖父の手紙を、ヴィクトールとの打ち合わせを、子細に思い返していた。

みんな私のために心を砕いてくれている。ここで、私が失敗するわけにはいかない。


私は、静かに王太子カイルを見据えた。

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