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不気味令嬢は、氷の貴公子に溺愛される  作者: 青海きのこ


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第10話 アステリア

活動報告に、エマとヴィクトールの人物紹介を載せました。良ければご覧ください。

第10話 アステリア


馬車の揺れに耐えたおかげで、通常は二週間弱かかる道程を10日に短縮することができた。

おかげで私の心はヴィクトールに翻弄されっぱなしでボロボロになっていたが。

馬車の中では余裕な姿に感じたが、アステリアが近づくに連れてヴィクトールの瞳に真剣なものが宿るのに気が付いた。


「エマの力のことを問われたら、王家にはどこまで話したい?」


ヴィクトールは飽くまでもエマの意思を尊重してくれた。

ノクス領で闇魔法を使ったときにヴィクトールに話すことは覚悟していたが、ここまで覚悟していたかと問われればもちろん否だ。

王家に正直に話したとき、どんなことが起こるのか、想像もつかない。

答えに窮していると、ヴィクトールがこの先考えられる未来をいくつか示してくれた。


「王家には何も言わない、黙っている。エマが望むなら、もちろん協力する。

ただ、王都まで噂が広がったいま、噂を信じた良からぬ者たちがエマを襲おうとする可能性は増えるかもしれない。

次、王家に正直に話す。エマが私に話してくれたように、カイルにも説明する。

この場合の問題は教会関係だろう。エマも知っての通り、この国の聖女は一代一人。

いま聖女と認められているのは、ケイティ。教会にとって、聖女のような君の存在は煩わしいものだろう。王家が教会を敵にしてまでエマを聖女に認定するリスクを取るか…。

正直、分からないところだ。そして、君の力が闇魔法によるものだと言うのも、教会との対立を不安視する要素になる」


ルーク王国の国教は、この国の神話に基づく。


聖女の操る光魔法は世を救うためのもの。

一方、闇魔法は人々を陥れ、堕落させるものとされている。


その闇魔法に、光魔法同様の使い方があるなどと知られてしまったら…。


神話護憲派の教徒にとっては、エマの存在は忌まわしいものだろう。

ましてや、神話で不吉とされる銀髪に紫の瞳を有している。

それだけでも散々なことを言われて来たのに、闇魔法まであると知られれば…。


どうなるか、考えるのも恐ろしかった。


不安気にかぶりを振るエマをヴィクトールは抱きしめた。

ヴィクトールの鼓動も、エマ同様にどくどくと早鐘のように鳴っていた。

優しく頭を撫でられ、ヴィクトールを見ると、いつもの揶揄いではなく、本気で心配する顔をしていた。

ヴィクトールは、私のことを本当に考えてくれている。

ヴィクトールの鼓動を聞きながら、私の気持ちは少しだけ落ち着いて来た。


「三つ目。王家には部分的に事実を伝える」


それは王家に嘘をつくことになるのではないかとヴィクトールを見ると、ヴィクトールは子どもにするように私の頭を撫でた。


「ノクス家のことは気にしなくていい。私は正直これが現実的だと思っている」

「部分的に…とは」

「新薬の開発は話す。これは全く問題ない。

君の祖父のこともあるし、王家も歓迎するだろう。

一方で、闇魔法のことは秘匿する。

闇魔法ではない方法と、薬を用いて回復処置をしたことにする。まあ、医療処置だ」

「医療…」


ヴィクトールの言うことは、全くの嘘ではない。

エマのしたことは、魔法だけではなく、薬を用いた医療技術ではある。


「ただ、ここで一つ問題が。

闇魔法は隠すとして、診療所で言ったような民間療法というわけにはいかないだろう。

もう少し、真実味のあるものでないと。まして、君の治療の仕方は多くの者が見ている」


仕方がないことだったとは言え、エマは自分の行動がやはり軽率だったのではないかと思えて来た。


「君の行動は間違っていない」


エマの気持ちを読むようにヴィクトールは力強く否定した。


「闇魔法でないとすると…、何が適切か…」


ヴィクトールはここ数日そのことを考えあぐねていたのか、馬車の中でも、宿でも、周囲を気遣うことは忘れなかったが、時折難しい表情をしているのを見かけていた。


「エマ、複数の力をかけ合わせることによって新たな力が生まれることはあるのか」


ヴィクトールは風と火の属性を持っていた。

通常は一つの属性に特化するのが一般的だが、多くの属性を持っている者は稀ではあるが存在する。

エマはヴィクトールの問いにピンと来たようだ。


「私はそもそも魔力が少ないタイプなのですが、一応、水と土は持っています。闇がメインではありますが」

「魔力が少ないタイプなのは好都合だ。聖女を立てることができる。

君がアカデミーに通っていなかったことも良かったといえる。君の力を多くの人が知らない」


ヴィクトールは閃いた顔をしている。


「こうしたらどうだろう。君は薬と魔法の研究に勤しんでいた。

自分の体にある複数の魔力を掛け合わせることで、瘴気を一時的に中和できることを発見した。

しかし、そのコントロールは非常に難しく、他者に説明することは不可能。

よって、他の者は真似できない。聖女のような回復力があるわけではない」


どこまで信じて貰えるかは分からないが、それなら民間療法よりは信憑性がある。


「王家は君の研究に敬意を表するだろうし、教会の教義にも不都合な点はない。

飽くまでも本来の聖女の方が上で、決して凌ぐものではない」


聖女より下といわなかったのは、ヴィクトールが私を気遣ってのことだ。

些細なことだが、ヴィクトールはエマの心に寄り添おうとしてくれる。

聖女が上であることを強調すれば、教会のメンツも保たれるのだから、それが平和的解決だ。

実際に、私は聖女よりも劣った存在であることは間違いがないし。


「エマには失礼な言い方で申し訳ないが」

「ヴィクトール様、ありがとうございます。その内容でお話ししたいと思います」


この先、闇魔法のことを知られてしまったら…と思わないわけではなかったが、

そのときはまたこうやってヴィクトールと相談しよう。

エマは一緒に頭を捻ってくれたヴィクトールに心からの感謝と、信頼を寄せていた。

デビュダントのとき振りに来たアステリアの街は、あの頃よりもずっと華やかに見えた。

エマは慌ててフードをかぶった。そして、ノクス領では隠さなくてよくなっていたことに気が付いた。


「エマ、心配させるようなことを言ってしまったが、カイルはそんなに悪い人間じゃない。

何か困ったことがあれば、いつでも私が助ける。安心して頼ってほしい」


もう既に、エマはヴィクトールに頼り切っているというのに。

これ以上、何を頼れと言うのか。そうも思ったが、エマはヴィクトールの申し出が心から嬉しかった。

ヴィクトールは、このわずかな時間でエマに多くの「もの」をくれた。

優しさ、気遣い、信頼、ときめき…。そのことにエマは心から感謝をしていた。


「あの、ヴィクトール様…」

「どうした?」


エマは小さな箱をヴィクトールにそっと差し出した。

ヴィクトールは驚いた顔をして、小さな箱を受け取った。


「ささやかですが…私の、気持ちです」


ヴィクールは、箱を手にしたまま、固まっていた。

ヴィクトールには、贈り物をいただいてばかりだ。

エマなりに、何か返したいと思い、ノクス辺境伯夫人に相談したのだった。

硬直するヴィクトールを見て、少し不安になったが、すぐにヴィクトールは大輪の笑顔を見せてくれた。


「エマ、ありがとう。嬉しいよ」


ヴィクトールが喜んでくれる姿を見て、贈り物を渡す喜びを感じていた。

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