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第53話 魔王の娘と魔族対抗策を考える件

 しばし、沈黙の時が流れる。

 アルハとムニの視線が、時にぶつかり、時にすれ違う。

 地震が犠牲になっても構わないというムニの決意に、アルハは受け入れがたい感情と、ムニの決意に水を差すべきでないという感情が混じり、自然と視線が泳いでいた。

 しかし、魔族が襲ってくるのであれば、このモヤモヤとした感情によって行動を遅らせるべきではないと考え、ムニへと手を差し出した。

 その意図を理解したムニは、安心したように微笑み、アルハと握手を交わした。

 

「ムニをみすみす捕まえさせたりしない。戦おう」

「感謝するぞ、アルハ」

 

 アルハはひとまず、複雑な思いを飲み込んだ。

 気持ちが交わされた後は、現実的な話へと移っていく。

 今、決まったことは、アルハがムニに協力する事実のみ。

 魔族の大群が襲ってくるとなれば、アルハ一人では戦力として不足している。

 そうなれば必要な物は、他の戦力だ。

 

「で、ぼくは何をすればいいかな? 冒険者ギルドに行って、協力を取り付けてみようか?」

「ギルドが手を貸してくれるのならば、妾にとってはそれが望ましい。しかし、エイズの軍はまだ侵攻を開始しておらん。訊き返すが、現状で魔族が侵攻してくることを伝え、協力を取り付けようとしたとて、冒険者ギルドは動くのか?」

「難しいだろうね。冒険者ギルドは、基本的に事件が起こらないと動かないから。確実に侵攻してくるという証拠でも出せれば、動いてくれるとは思うんだけど。……証拠とかって?」

「……ないな。エイズの性格を知る、妾の予想じゃからのう」 

 

 戦力増強のために、まっさきに思いついたのは冒険者ギルドを動かすことだ。

 しかし、冒険者ギルドは感情でなく事実で動く組織。

 アルハの嘆願ごときで動くはずもなく、アルハとムニは冒険者ギルドを動かす方法を考え、しばし頭をひねった。

 

「アスワドの時のように、魔族らしき影を見かけた、と報告するのはどうじゃ?」

「魔族を見かけたと言った村になら冒険者を派遣してもらえるかもしれないけど」

「複数の村で見かけたと言えば、複数に派遣されるということか?」

「そうだけど、そのためには、ぼくが複数の村を回った事実が必要になる。今から複数の村を回って、すべての村で魔族の影を見かけたなんて報告したら、あまりにできすぎでぼくと魔族の繋がりが疑われちゃうよ」

「むう、確かにな」

「それに、村を回る時間もかかっちゃうしね」

 

 思いついたアイデアを口にする。

 しかし、立ちふさがるのは現実的な困難さという壁だ。

 未だ起きてない危機に対し、一個人が大きな組織を動かすのは、あまりにも難易度が高い。

 

「……妾の正体を、冒険者ギルドに明かすというのはどうじゃ?」

「え?」

「魔王の娘、本人が言うておる。これで、冒険者ギルドを動かすことはできんか?」

 

 ならば動かすために必要なのは、大きな組織に匹敵するほど権力のある個人が動くこと。

 ムニは、真剣な表情でアルハを見つめる。

 が、アルハは力なく首を横に振った。

 

「確かに、魔王の娘の言葉なら、動く可能性は高い」

「じゃろ!」

「でも、ムニは最低で拘束、最悪で処刑されてしまうと思う」

「……一時的な拘束なら受けよう。エイズのやつに捕まるより、ずっとマシじゃ。処刑は、困るがの」

「後、あくまでも動く可能性だ。ムニが魔王の娘だと信じてもらえなければそれで終わりだし、信じたとしても魔族の言葉をそのまま信じるかもわからない」

「むう、不確定要素が多すぎるのう」

「ムニが、魔族が侵攻してくると嘘をついて、王都の戦力を各地に分散させて、手薄になった王都を落とそうと考えている、ってパターンもあるしね」

「妾はそんなこと」

「しないよね。わかってる。でも、それはぼくだから信じれることだ。冒険者ギルドの人たちは、簡単に信用したりしない」

 

 言葉を交わすたびに、不可能であるという現実が付きつけられていく。

 ムニは、悔しさのあまり唇を噛みしめる。

 これは、魔族が人間との交流を避けてきた代償か、それとも人間か魔族という存在に無理解なせいか。

 そんな思いが駆け巡る。

 

「モガという受付嬢なら、妾のことを知っているじゃろう」

「モガさんはムニのことを知ってるけど、どんな感情を抱いても、冒険者ギルドに共有してその判断に従うと思う」

「ぬう」

 

 アルハは考え続ける。

 凡人では知りえない多くの情報を収集でき、かつ組織のルールという煩わしいものに振り回されない。地位のある個人を。

 それは王族か。

 はたまた貴族か。

 あるいは。

 

「あ!」

 

 一人の人物が頭の中に浮かび、アルハは叫んだ。

 

「!? なんじゃ?」

「いる! いた! 冒険者ギルドにも力があって、ムニのことを聞いても周囲に言いふらさない可能性が高い人!」

「だ、誰じゃ?」

「タージールさんだよ!」

「タージール? いつぞや護衛した商人か?

「そう! 商人は、利があれば多少薄暗いことにも目をつむる。それに、タージールさんはモガさんからムニの同行を打診できるくらい、冒険者ギルドとつながりがある。タージールさんの言葉なら、一考してくれる可能性は、ある」

 

 商人とは、利を追求する存在。

 故に、最も扱うことが難しく、逆を言えば利害の一致によって決して裏切らない存在でもある。

 また、その職業柄、各地を飛び回ることなど日常茶飯事。

 複数の村で魔族の影を見た、という主張をしたとしても、なんら不思議ではない。

 つまり、魔族の集団が侵攻をしてくる、という伝達をする役としては、うってつけの人材という訳だ。

 

「問題は、どうやってタージールさんにお願いするか、だな」

「妾の正体を明かすことは必須じゃろうな」

「そうだね。そのうえで、ムニの存在を冒険者ギルドに通報するより、ムニの存在を隠して冒険者ギルドに報告した方が利がある、と思わせなきゃならない」

「……あるのか? そんな、都合の良い方法が?」

「魔族の侵攻を事前に察知して、被害を最小限に防ぐことができたなら、それはタージールさんにとって大きな利益になると思う」

 

 情報は、ときに武器よりも強い。

 殺傷能力の高い武器を作るよりも、盗聴能力の高い道具を作る方が、戦況を大きく有利にする。

 

「問題は」

「どう信じてもらうか、じゃな」

 

 逆を言えば、誤った情報の流布は、自滅に繋がる。

 戦況がひたすら不利へと傾いていく。

 それは、タージールの信用を大きく落とし、商人としての生きる道を容赦なく閉ざしてしまう。

 

 故に、タージールに魔族の侵攻を信じさせるには、相応の証拠が必要だった。

 ムニの正体以上に、タージールが確信に至る何かを。

 

「ムニ。魔族が侵攻してくるってことは、どこかにたくさん潜んでいたりしないの? それを見せれば、あるいは」

「無理じゃな。魔族は異世界を作り出す術を持っておるので、普段はそこに住んでおる。戦力を集めておるとしても、大陸の上におるわけではない」

「なにそれ初耳」

「人間に見られぬようにしておったからのう」

「だから、勇者たちがいくら探しても、魔王城が見つからないんだ」

「その通りじゃ」

 

 魔族の大軍を見せることもできなければ、異世界で準備している以上、侵攻の痕跡も見せることはできない。

 やはり、信じさせるためにの方法がムニの言葉に限られる。

 どん詰まり感のある現状に、アルハは頭を抱えた。

 

「そうじゃ。そのタージールと言う商人を、洗脳すれば」

「絶対ダメ」

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