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第51話 魔王の娘が脅威を明かしてきた件

「アルハよ、お主に聞いてもらいたいことがある」

「……何? ぼくのツケで、ウーテルさんのところで好き勝手食べたことの謝罪?」

「そんな些末なことではない」

「全然些末じゃないからね? ダンジョンから戻って、ウーテルさんのところへ寄ったら、大金請求されたぼくの気持ちわかる?」

「ええい、いいから座れ!」

 

 アルハが、ムニに促されるまま席へとつくと、ムニも対面の席についた。

 ここ最近、元気のなかったムニを見ていたアルハだ。

 ムニの言葉に元気がこもっていたことは、素直に喜んだ。

 

 しかし、ムニの表情は真剣そのもので、喜びの感情を持ったまま聞けるような話ではないと判断し、アルハは背筋が自然と伸ばした。

 ムニはアルハをじっと見つめ、早々に口を開いた。

 

「単刀直入に言う。おそらく、大量の魔族が人間界に攻めてくる」

 

 ムニの言葉に、アルハは一瞬言葉に詰まった。

 

「……何の冗談?」

「事実じゃ。以前、ヒグラシを逃がしてしもうたじゃろ。そのせいで、エイズのやつに……殺戮の魔王を名乗る魔族に、妾が人間界にいることがおそらくバレた」

「あの時の」

「やつは、妾を狙っておる。妾が人間界にいるとわかれば、人間界をしらみつぶしに襲い、妾を捕まえようとするじゃろう」

 

 アルハは、大量の魔族が大群をなして襲ってくる姿を想像し、背筋が震えた。

 魔族は、たった一人でA級冒険者たちと対等に戦いあう化け物たちだ。

 それが大群となれば、果たしてどれだけの冒険者を送り込めば倒すことができるのか、見当もつかない。

 

 次に思い浮かんだのは、なぜ今ムニが、アルハにそのことを話したか、だ。

 ムニは、魔族が来る原因はムニ自身であるといった。

 であれば、回避する方法は二つ。

 ムニを魔族に差し出すか、ムニが人間界から離れるか。

 尤も、ムニを仮に差し出したとて、侵攻を始めた魔族たちが足を止めるかは疑問である。

 

「しかし、妾は捕まるわけにはいかん。妾のせいで、人間たちが殺されるのを傍観するのも好かん。……故に、妾はエイズの配下どもを止めねばならん」

 

 二つの回避する方法に対して、ムニの言葉はいずれでもなく、迎撃を示していた。

 魔族が来ることは止められないという前提の選択。

 

 そして、アルハの頭に再び思い浮かぶ。

 なぜ今ムニが、アルハにそのことを話したか、だ。

 

 答えを求めてアルハがムニの方を見ると、ムニが頭を下げている様子が目に入った。

 

「ムニ?」

「アルハよ。人間たちを危険に晒す元凶である妾が、こんなことを言うのは差し出がましいと思っている。だが、妾一人ではエイズの配下ども全員を止めることはできぬ。妾に、手を貸してくれ」

「いいよ」

「もちろん、タダでとは言わん。無事にエイズの配下どもを退けた暁には、お主に……ちょっと待て、今なんと言った?」

 

 アルハの反応を聞いたムニは、思わず頭をあげる。

 信じられないものを見る目つきで、じっとアルハを見つめた。

 対し、アルハもアルハで、不思議そうにムニを見た。

 手を貸してほしいと言われたので了承した、そんな当然の行動に疑問を持たれるとは思わなかったからだ。

 

「エイズって魔族の配下を止めるんでしょ? いいよ。ぼくも、村や町が侵攻されるのを眺めてるだけなんて嫌だしね」

 

 不思議そうにするムニの疑問を解消しようと、アルハは補足するように言った。

 

「いや、いやいやいや! 妾の話を聞いておったか?」

 

 が、アルハの補足は、ムニの疑問を解消するには至らなかった。

 

「聞いてたけど」

「妾のせいで、魔族が侵攻してくるんじゃ!」

「うん」

「妾を差し出せば、お主たちは助かる……かもしれん!」

「うん」

「しかし妾は、差し出されたくないと言った!」

「うん」

「それどころか、ともに魔族と戦ってくれと言うた!」

「言ったね」

「そこまでわかっていながら、何故簡単に『いいよ』だなんて言えるんじゃ!?」

 

 ムニは、言いたいことを言いつくし、しばらく荒い呼吸を続けた。

 アルハはムニの呼吸が落ち着くのを待った後、真剣な表情で言った。

 

「助けたいと思ったからだよ。ムニだって、ぼくが危険な時に助けてくれたじゃないか」

「……相手は魔族の大群じゃ! 妾がアルハを助けた時とは、状況が違う!」

「同じだよ。助けたい人がいる、だから助ける。それだけだよ」

 

 話は平行線。

 否、絶対的に違う常識の差。

 ムニは気の抜けたような表情をしながら、椅子の背もたれへだらんと背を預けた。

 そして、アルハから視線を外し、天井を見つめる。

 

「ファナの、言うたとおりじゃったな」

「ファナさん? ファナさんがどうかしたの?」

「いや、こっちの話じゃ」


 すべてがムニの想定の外。

 そしてファナの想定の内。

 だからこそ、ムニは小さく笑って、体を起こした。

 

「アルハよ」

「どうしたの、改まって?」

「お主の情け、心より感謝する」

「大げさだよ」

 

 アルハがなだめるも、ムニは真剣なひ表情を崩さない。

 どころか、さらに表情を硬くして、椅子に座り直した。

 アルハとて、魔族の大群が押し寄せてくるということを軽く見ているわけではない。

 気持ちだけは、すぐにでも冒険者ギルドへと走り、対策を講じてもらいたかった。

 だが、ここ最近ふさぎ込んでいたムニからの、ようやく届けられた言葉だ。

 ただただムニの言葉を聞くために、ただただムニの話しやすいように、自身を取り繕っていた。

 

「そして、改めて話そう。妾が人間界へと来た理由を」

 

 場の空気が冷たくなる。

 ナムルはいつの間にやら席を外しており、ナムルの炎による暖もどこかへ去っていた。

 ただ、アルハとムニだけが向き合う空間に、ムニの声が独奏会のように響く。

 

「理由を話すには、まず魔族のことを話さねばなるまい。魔族とは何者で、なぜ大陸に住んでおるのか。話は、数千年前に遡る。姿勢を楽にして聞いてくれ」

 

 開かれていく。

 ムニの言葉によって、人間の知らない魔族の歴史が。

 ゆっくりと。

 

 

 

「長いなら、お茶を入れていい? 途中で喉乾きそうで」

「……妾のも頼む」

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