第4.5話
「うーん、むにゃむにゃ。肉ぅ」
アルハ部屋の壁に背中を預け、座りながらムニを見ていた。
ベッドの上で眠るムニは夢でも見ているのだろう、寝言を言いながら寝返りを打った。
(こうしてみると、本当にただの子供だな)
アルハとムニの付き合いは、たった半日だ。
最初の印象は、魔王の娘という恐怖そのもの。
しかし、ムニの子供っぽい仕草を見ていると、アルハの恐怖がゆっくりと薄れていった。
どんな獰猛な猛獣であっても、その赤ちゃんを可愛く感じるように。
(結局、なんでぼくの娘になろうとしたのか教えてくれなかったし)
アルハは立ち上がってベッドの近くへ行き、その髪の毛に触れた。
人間と変わらない柔らかい髪の毛が、サラサラと手から滑り落ちる。
(信じて、良かったんだよね?)
アルハは、自分の言い聞かせるように、心の中でつぶやいた。
アルハは、寝ているムニを置いて、誰かに助けを求めることもできた。
一瞬だけ、それも頭によぎったが、結局やめた。
ムニがあまりにも無防備に、気持ちよさそうに寝ているのを見れば。
脅しから始まった関係、ムニの正体をまだ誰にも伝えていないのは、アルハ自身の意思だ。
「それ、妾の肉じゃー」
「ははっ。どんな夢を見ているんだか」
瞬間、寝ぼけたムニが、枕を放り投げた。
枕はアルハの顔のすぐ横を通過し、部屋の壁へとぶつかった。
そして、ウーテルの宿全体を大きく揺らした。
「なんだ、地震か!?」
「すごい音がしたぞ!?」
少しでもずれていたら、顔面に受けて死んでいた。
そんな恐怖で、アルハはその場にへたり込んだ。
(やっぱ、間違ったかも)
夜はゆっくりと更けていく。




