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第46話 魔王の娘と一緒に魔族と戦う件3

「父親? 支配の魔王か? いや、矮小な魔力しか感じない。……人間が魔族を騙るなど、魔族を愚弄しているのか?」

 

 ヒグラシは、アルハという個人に虫けらほどの価値さえ感じていない。

 故に、喜怒哀楽を向ける対象ではない。

 しかし、魔族と言う誇りを汚されれば、話は変わる。

 ヒグラシは、飛び回る蚊を叩き殺すような殺意を持って、アルハを睨みつけた。

 

「ムニ。大丈夫?」

 

 が、アルハはそれを、自身の殺意をぶつけて迎え撃った。

 ヒグラシに比べると小さな魔力ではあるが、それでも同等の殺意。

 ムニという義子を傷つけられた親心。

 

「ああ。すまぬアルハ。手間をかけさせた」

 

 ムニは自身の魔力が掻き乱されていないことを確認し、腹をさすった。

 そしてアルハの腕を、軽く叩いた。

 

「下がっておれ。お主を巻き込むわけにはいかん」

 

 ムニの行動は、ムニの善意によるものだ。

 魔族と魔族の戦い。

 そこに人間を巻き込むわけにはいかないという善意。

 そして、アルハをムニ自身の面倒ごとにこれ以上巻き込むわけにはいかないという善意。

 

 アルハはムニの気持ちを汲み取りつつ、ムニからの手をぱんとはじいた。

 

「嫌だ」

「アルハ?」

「こいつは、ムニを殺そうとしてるんだよ? 放っておけないよ」

「しかし、これは魔族同士の話じゃ」

「それに、村一つ滅ぼされてるんだ。ぼくにとっても、無関係じゃないよ」

 

 アルハの目は真剣で、本気でヒグラシと戦おうとしていることは見て取れた。

 

 ムニは心の中で、アルハを死地へと送り込むことへの抵抗感と、アルハの想いを無下にしていいのかという抵抗感、二つの感情がぶつかっていた。

 合理性を考えるのであれば、アルハを引き止める以外の選択肢はない。

 しかし、ムニは知っている。

 実力が行動の起点になる魔族とは対照的に、感情が行動の起点になる人間の性質を。

 それは時として、魔族の想像を上回る結果を生み出すと。

 

「よかろう。ならば、支援を頼む。再び眷属が妾の魔力を乱そうとしてきたら、その眷属の相手を頼む」

「わかった」

 

 結果、ムニはアルハに背後を任せた。

 蜩の相手をアルハに任せることで、戦いの構図を変えた。

 アルハが蜩に勝てるか否か、それはムニの計算でも三割と言ったところだ。

 そんなギャンブルに、ムニはベッドした。

 

 ムニの決断に、明確な不快感を示したのはヒグラシだ。

 

「き、貴様ああ! 何をしている? 人間に、背を預けるだと!」

 

 ヒグラシの顔は怒りで赤く染まり、先程アルハに向けた以上の殺意を、ムニに向けていた。

 人間が魔族の誇りを汚したのではない。

 魔族が魔族自身の手で、魔族の誇りを汚したのだ。

 同族であるヒグラシには理解できない行動であり、故に裏切り者と言う言葉が頭の中に浮かび上がった。

 

「そうじゃ」

「……まさか支配のやつらが、そこまで堕ちたとは!」

「堕ちておらん。妾たちはいつだって、前へと進んでおる」

「魔族の誇りを捨てることが前進と言うのならば、貴様は既に魔族でさえないわ!」

 

 ヒグラシの魔力が膨張を始める。

 魔力が巨大な蜩に注がれて、その体を一回りも二回りも大きくする。

 体表の色が闇色へと染まっていき、呼吸によって放たれる黒い息からは小さな蜩が絶えず生み出されていく。

 

「やれ! 屑どもを殺せ!」

「キキキキキキ!」

「キキキキキキ!」

 

 不気味な鳴き声と共に、小さな蜩たちがムニとアルハへ襲いかかる。

 その後方から、巨大な蜩が前進を始める。

 切られた口を再生させながら、どちらに口を刺してやろうかと目を動かす。

 

 アルハはムニの前に立ち、跳んでくる蜩たちを斬り落としていく。

 しかし、蜩は絶えず巨大な蜩の口から現れ、一向に数が減る気配はない。

 

「やっぱり、本体を叩かないと駄目か」

「ギギギギギギギギ!」

 

 ムニを囲む蜩たちを全て切ったところで、アルハは巨大な蜩に向かって走った。

 次にすべきことを、巨大な蜩退治と切り替えた。

 ムニは、走るアルハの横を風のように通り過ぎ、ヒグラシへと接近する。

 

「ふん」

 

 ヒグラシは何度も脱皮を繰り返し、古い体を捨てていく。

 古い体を作り出していく。

 ムニが到着する頃には、五つの古い体を作り終えていた。

 五つの古い体が、ムニへと襲い掛かる。

 

「残念だったな。蜩の相手を人間に任せることで一対一に持ち込みたかったのだろうが、私は無限の兵を作り出せる!」

「そのうえ、無限の再生能力じゃろ? まったく、チートじみた能力じゃ」

 

 ムニは近づいてくる古い体の顔面を、容赦なくわしづかみにする。

 掴まれた二匹の蜩は、一瞬の間に体が分子レベルに分解され、消滅した。

 その隙を目掛けて手を伸ばしてきた三匹も、ムニに触れるや否や、同じ運命を辿った。

 

「チートじみた能力? それを貴様が言うか。触れたものを分解する能力を持つ貴様が」

「こんなもの、破壊しかできぬつまらない能力じゃ」

「はっ。破壊以上に魅力的な能力などあるわけないだろう」

 

 ヒグラシの顔に小さな突起が盛り上がり、皮膚を食い破って蜩が生み出される。

 蜩たちは一直線にムニへとむかって突撃し、ムニに触れる直前に自爆した。

 

「ぬうぅ!?」

「爆風と爆炎。触れられなければ、触れないなりの戦い方があるのだ」

 

 ムニが一歩下がったことで、ヒグラシはダメージが届いていると確信した。

 腕から、脚から、体から、次々と蜩を生み出していく。

 さながら、意思を持つ無限の飛行爆弾。

 ムニの周囲で、何度も小さな爆発が起こり続けた。

 

「ぐっ! 近づけん!」

「そのまま突っ立っていろ。魔力が尽きて、防御ができなくなるまでな」

 

 ヒグラシは、眷属を作り続けることに魔力を使い続ける。

 魔力を激しく消費し続けるため、他の魔法を使えなくなるデメリットはあるが、一方的な攻勢時においては問題ない。

 さらに言えば、魔力が枯渇しても新しい体に生まれ変わることで、即座の魔力回復は可能。

 この状態を永遠と続ければ、勝つのは蜩だ。

 

 もっとも、この状態が永遠に続く、などという希望的観測を、ヒグラシはしない。

 

(この時間も、こいつは逆転の目を探しているはずだ。ならば)

 

「こい、眷属よ! こいつを踏みつぶせ!」

 

 勝利を確実なものとするため、ヒグラシは巨大な蜩を呼び寄せた。

 

(ん?)

 

 だが、蜩が来ることはなかった。

 ヒグラシの頭の中では、アルハなどとっくに蜩に踏みつぶされているはずだった。

 ヒグラシが見た先には、向かい合って立ち尽くす蜩とアルハの姿があった。

 

「何を、やっている?」

 

 蜩の口は、アルハの腹部に深々と刺さっていた。

 しかし、そこに蜩の勝利の笑みはなく、逆に苦しそうな表情があった。

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