第45話 魔王の娘と一緒に魔族と戦う件2
眷属全てを倒しても、ムニは警戒を崩さなかった。
ヒイラギの一挙一動を凝視し、すぐさま次の攻撃に移るため、魔力を操作する。
「キケキケキケ。容赦のないことだ」
ヒグラシもまた、ムニを迎え撃つために魔力を操作する。
両手に集まっていく魔力同士がこすれ合い、蜩の鳴くような物悲しい音が周囲に響く。
「塵となって消えよ!」
「そっくりそのまま返してやろう!」
ムニとヒグラシ。
二つの魔力がぶつかり合う。
触れたものを分子レベルにまで分解するムニの魔法と、破壊と再生を繰り返すヒグラシの魔法。
ヒグラシの魔法はどんどん分解されていくが、すぐに再生されて元の形を取り戻す。
「ちっ」
「キケキケ。少しは成長をしているようだが、まだまだ未熟」
「黙れ」
「それとも、支配の魔王は破壊のやり方を教えてくれなかったのか?」
「黙れと言うておる!」
ムニの右手、手首より先が分子レベルに分解される。
そして、分解した分子が再度集合し、五個の弾丸が生成された。
五個の弾丸は回転音を発しながら、ヒグラシに向かって飛んでいった。
「カアアアアッ!」
が、ヒグラシは魔力を込めた掌で、弾丸を弾き返す。
魔力によって硬化された皮膚が、弾丸に自身の皮膚を突き破らせない。
弾き返された弾丸は、回転数を落としてムニの方へ押し戻されるが、再び回転を開始して軌道を変えてヒグラシの方へと戻っていく。
「そう簡単には、防げないか」
「当たり前じゃ。死ぬまでお主を追う、死の弾丸じゃ」
「なるほど。死ぬまで、か」
二度目の弾丸。
ヒグラシは防御を止め、その身に弾丸を受け入れた。
ムニの体を練り込んだ魔力の弾丸は、ヒグラシの体の中で器用に動きを止める。
そして、弾丸から細い枝を無数に生やして、ヒグラシの筋肉という筋肉を刺して固定する。
「もっとも、お主は不死であろう? なれば、生かしたまま拘束するだけじゃ」
「キケキケ! 手ぬるいなあ、支配のやつらは!」
ヒグラシは大きな口を開けて笑い、口を閉じるとともに自身の舌を噛み切った。
舌が地面に落ちて、ヒグラシの頭が前方に傾いた。
同時に、首が縦方向に割れ、首の割れ目から腕二本が這い出てきた。
「ん……あああああ」
二本の腕は割れ目を掴み、強引に左右へとこじ開ける、
広がった穴の中からはヒグラシの頭が、そして体が姿を現した。
ムニによって固定された古い体を捨て、新しい体にて再生する。
「ちっ」
「何を悔しがる。わかり切っていたことじゃないか」
ヒグラシはムニを指差し、嘲笑う。
戦闘力は、ムニの方が高い。
故に、ヒグラシは一方的に攻撃を受けてばかりだ。
しかし、死なないという一点に限って言えば、ヒグラシの方が強い。
不死とは、そういうものだ。
決着がつかないことは、双方理解をしていた。
これから続くのは、確定的な泥仕合。
だからこそヒグラシは、提案をした。
「このまま戦っていても、決着はつかない。そして私は、ここでの用事をすでに終えている。どうだ? この辺で手打ちにするってのは?」
「手打ち?」
「そうだ。この戦いはドロー。互いに撤退。その背中も撃たない」
ヒグラシは、一瞬だけアルハを見て、またムニへと視線を戻す。
「そこの人間も、ついでに殺さないでおいてやる」
ただそれだけで、アルハの背筋が震えた。
ヒグラシからすれば、アルハという人間を生かす意味はない。
同時に、殺す意味もない。
それでもアルハを生かすと選択したのは、ムニがアルハをなんらかの形で利用していた場合、この提案がムニへの譲歩にもなるという打算一点。
情や庇護では、断じてない。
「ふふふ。撤退、か」
「ああ。時間は貴重だ。お互い、やりたいことはあるだろう?」
余裕の笑みを浮かべるヒグラシを、ムニは睨みつけ、口角をあげた。
「変わっとらんのう」
「ん?」
「話を打ち切りたいとき、『時間は貴重』などとほざく、その癖じゃ」
「……なんだと?」
「不死ゆえ、なんじゃろうな。つまりお主は、さっさとこの場を去りたい。あるいは、去った方がお主に得があると思うておるわけじゃ」
「…………」
「それはなんじゃ? これは妾の予想じゃが、妾が人間界で生きているという情報を持ち帰りたいのじゃろう?」
笑みを浮かべていたヒグラシの表情が、無へと変わる。
「図星か。わかりやすい奴め」
ヒグラシは不快感を露わにしたまま、両手に魔力を溜める。
そして、目の前に魔力を放ち、再び眷属を創造する。
「ぺらぺらと、よくしゃべる口だ」
最も大きく。
最も固く。
足一本でムニの全身を踏みつぶせるほど巨大な蜩が、ムニの目の前に現れた。
「ははは! 残念じゃったのう! せっかく貴重な情報を持ち帰って、お主のボスによしよししてもらえそうじゃったのにのう!」
「黙れ糞餓鬼が!」
ヒグラシの合図で巨大な蜩、一歩前へと踏み出す。
村全体が揺れ、崩れかかった建物が倒壊する。
ギョロギョロとした目がムニ一点へと集中し、ストローのような口がムニへと向けられる。
「キキキキキキキキ!」
けたたましい鳴き声と共に、蜩が羽を動かし、羽による風圧で加速する。
ムニへと接近し、その腹部へ口を突き立てる。
しかし、ムニの腹部を貫くことはできていない。
ムニは接近してきた蜩の額に手を触れる。
「愚かな。こんな攻撃が……ん?」
自身い近づいてきた巨大な蜩を魔力によって分解しようとし、ムニは異変に気付いた。
蜩の額に触れる手へ魔力を集めようとするも、望むほどの魔力がやってこないのだ。
まるで、体に巡らせる魔力と、強制的に一点へと引きずり込まれているように。
「まさか、この虫」
ムニが、その理由を蜩と結論付けるのは必然だろう。
蜩の口がムニの体から魔力を吸い続け、魔法の発動を阻害していた。
「猪口才な真似を!」
ムニが口を無理やり引っぺがそうとするも、口から漏れ出した粘性の高い液体が、ムニの腹部と蜩の口を固定する。
頭を砕き割ろうとするも、砕けた部分から即座に再生を開始し、致命傷には至らない。
「お前たちは、いつだってそうだ。自分が頂点だと、奢ってる」
ヒグラシの手に溜まる魔力は、ヒグラシの腕の形を変える。
五指が引っ付き、槍となる。
背中から剥がれた羽が、ヒグラシの腕に纏わりつき、槍を装飾する。
羽から数匹の蜩が生み出され、槍の周りをくるくると飛んで回る。
「それが、敗因だ馬鹿が!」
ヒグラシは、巨大な蜩を飛び越えて、頭上からムニへと接近する。
(魔法が、発動できん!)
ムニは手を上にあげて迎え撃とうとするも、魔力が何度も掻き乱されて、上手く魔法を発動できない。
ヒグラシの槍が、みるみるムニへと近づいてくる。
「えいっ」
そんなヒグラシの死角から、傍観者でしかなかったアルハは魔力を込めた剣を伸ばした。
硬いヒグラシを斬ることはできなかったが、代わりに殴打の役目を果たした。
アルハの剣が、高速で落下するヒグラシの股間に大ヒット。
ヒグラシの目が文字通り飛び出して、地面へと落下した。
「いだあああああああああああああああああああああああああ!?」
痛みをリセットするために、ヒグラシは背中を割り、古い体から脱出した。
新しい体で距離を取り、既に痛みのないはずの股間を押さえながら、アルハを睨みつけた。
「…………なんだ貴様はあああ!!」
アルハは巨大な蜩の口を斬ってムニを解放した後、ヒグラシへと向き直った。
「ムニの義父親」




