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第43話 魔王の娘とA級依頼へ参加する件

 町から町へ。

 馬車を乗り継ぎ、アルハとムニは目的地を目指す。

 

 一日目は観光を兼ねて。

 二日目は疲労を感じて。

 三日目は忍耐だ。

 

「くっ。道もだんだん悪くなってきおった」

「だいぶ、王国の外れに来たからね」

「くうう。整備された道が恋しい。今の道は揺れる揺れる」

「薬草飲む? 酔いに効くらしいけど」

「いらぬ。そんなに弱くない」

 

 周囲に建物はなく、木々に囲まれて申し訳ない程度に整備された道が伸びる。

 少し道を逸れれば、整備もされぬ獣道。

 草も木も自由奔放に成長し、まるで荒れ地と呼んでも差し支えはない。

 

「後、一時間ほどですよ」

 

 そんな環境においても、馬車の速度が変わらないのは、御者と馬車の自力と言う他ない。

 そろそろ限界が来ているだろうタイミングで、残り時間を示すことのできる気配りも完璧だ。

 

「一時間……」

「もう少しだね」

 

 終わりが見えれば、我慢ができる。

 アルハとムニは背筋を伸ばして座り直し、窓から顔を出して馬車の行く先を見た。

 

 

 

 

 

「なんじゃ、あれは」

 

 最初に気づいたのは、ムニ。

 高すぎる視力が、人間の肉眼では補足できないそれを見つけた。

 

「なんだ、ありゃ?」

 

 次に気づいたのは、御者。

 毎日遠方を見続けている習慣が、遠方に漂うそれを見つけた。

 

「……煙?」

 

 最後に気づいたのは、アルハ。

 ムニと御者の態度に不安感を持ち、目に魔力を集めた。

 そして、魔力によって拡大された遠景が、空に昇っていく黒い煙を捕らえた。

 いくつも。

 

 目的地は、魔族のいる可能性がある。

 その事実が、アルハとムニに一つの可能性を与えた。

 アルハとムニは互いに顔を見合わせて、互いに同じ事態を想像していることを確認する。

 

「すみません! 止めて下さい!」

 

 アルハは叫び、馬車を止める。

 そして、アルハとムニは急いで馬車から飛び出した。

 

「お、おい」

 

 御者が飛び出した二人を見る。

 

「村が何者かに襲われている可能性があります! 貴方は近くの町まで戻って、救援を読んで下さい!」

「! わかった!」

 

 事情を察した御者は、すぐに進行方向を変え始める。

 何者かに襲われているにもかかわらずアルハを置いていく決断をするのは、アルハが冒険者であるからである。

 

「お嬢ちゃんも速く!」

「いらぬ」

 

 御者は進行方向を変えながら冒険者でないムニに声をかけるが、無碍もなく断られる。

 

「いや、でも」

「大丈夫です」

 

 御者が二度目の声かけをすると、アルハがその行動を遮った。

 幼い子供を戦地に連れて行こうとする行動に、御者は非難めいた目でアルハを見た。

 

「行くぞ」

「うん」

 

 しかし、非難の言葉を口にするより先に、御者の視界からアルハとムニが消えた。

 魔力を込めた脚が生み出す脚力が、御者の反射神経を上回った。

 

「え? は?」

 

 冒険者を運ぶ馬車の御者と言えど、冒険者の動きを間近で見たことのある者は少ない。

 あんぐりと口を開けたまま、二人の背を見送った。

 しかしすぐに自分の役目を思い出し、馬に鞭を打って走り始めた。

 馬はヒヒンと鳴いて、軽くなった馬車を引いて元来た道を走り始めた。

 

 

 

「アルハ。脚に込めた魔力を、後三割減らせ。今のままでは、脚に負荷がかかりすぎて村に着く前に骨が折れる」

「わかった!」

 

 アルハとムニは、馬車道を駆け続けた。

 一秒でも早く、村に到着するように。

 遠くから見えた煙の数は、時間が経つごとに増えていった。

 SOSの狼煙とは、到底考えられない。

 

「ムニ。あれは、魔族の仕業だと思う?」

「間違いないじゃろうな」

「すおか、やっぱり」

「ほう。やっぱりと思った理由はなんじゃ?」

「煙が村全体からあがっている。獣だったら、あんなに丁寧な破壊はしない」

「くっくっく。同意見じゃ」

 

 村か近づくにつれて、炎が燃え盛る音と人々の叫ぶ声が耳に届いてくる。

 アルハは顔を顰めて、ムニは眉間に皴が寄った。

 

「ムニ」

「なんじゃ?」

「蜩の羽を持つ魔族ってどんなやつ? 戦い方が知りたい」

 

 ムニは一瞬言葉に詰まる。

 敵とは言え、魔族が魔族の情報を人間に売ることになるのだから。

 だが、すぐにつまらないプライドだと考えを捨てた。

 

「ヒグラシは、音波による攻撃を得意とする。速く、見えぬ攻撃ゆえ、躱すのが少々手間じゃ。さらにやっかいなことに、やつは不死の属性を持っている」

「不死?」

「やつは死ぬと、死体が脱皮し、さらに強くなって生まれ変わるのじゃ」

「!? じゃあ、倒せないじゃん!」

「最後に会ったときは妾より弱かったが、果たして今はどうなっておるか」

 

 ムニの表情に、口調に、いつもの余裕はなかった。

 目を細めて険しい表情をし、まっすぐ村を見据えていた。

 

 悲鳴が近づいてくる。

 炎の熱がアルハの体を撫でる。

 村の入り口から見える世界は、燃える建物、無数の焼死体、そして村中を飛び回る蜩の虫。

 手のひらサイズの蜩から、人間の背中サイズの蜩まで。

 番犬のように、村を巡回していた。

 

「キキキ?」

 

 蜩たちは村に近づいてくる足音が聞こえると、一斉に村の入口へと振り向いた。

 そしてアルハとムニを見つける、一斉に襲い掛かってきた。

 大小合わせて、二十の集団。

 

「虫っけらが」

「任せて」

 

 アルハは剣を抜き、二十の蜩たちに突っ込んだ。

 最も近くに来た蜩から順に、一匹一匹を丁寧に切り捨てていく。

 蜩たちは集団ではあったが、連携をなしていなかった。

 剣を振る速ささえあれば、斬り捨てるのは容易だ。

 

「最後!」

 

 アルハは何の苦も無く、全ての蜩を切り終えた。

 周囲を確認し、他の個体が隠れていないかを探す。

 姿も音もなかったので、アルハは急いで倒れている焼死体に駆け寄った。

 焼死体の体は粘性の液体がまとわりついており、逃げることさえ許されないまま殺されたのだと見て分かった。

 

 ただの村人。

 平和に日常生活を送っていただけの一般人。

 アルハには、冒険者が死ぬことは職業上やむを得ないという割り切りがあった。

 一方で、冒険者として戦うことを選ばなかった人々が死ぬことには、割り切れない思いがあった。

 彼らは死にたくないから、村で農業と言う仕事を選んだのだから。

 

「どれもこれも消し炭じゃ。息をしておる者が、一人もおらん」

 

 ムニが死体を蹴ると、腕がもげて、ころころと転がった。

 

「ムニ」

 

 アルハはそんなムニに鋭い視線をぶつける。

 

「……すまぬ」

 

 人間と魔族の戦った後で、魔族が人間を雑に扱うのはよくあることだ。

 ムニも、そんな世界を見ながら育った。

 ムニにとっては、蹴って死体の損傷具合を確認することなど当然のこと。

 だが、人間が自身の同胞の死体を蹴られることにいい顔はしないだろうということに気づき、素直に謝罪した。

 

「うん」

 

 アルハはムニから視線を外して、村の奥を見た。

 耳を澄ませた。

 

「キキキキキ」

「ケケケケケ」

 

 蜩の鳴き声が、遠くで響く。

 人間の悲鳴は、もう聞こえない。

 

 代わりに、アルハでもムニでもない足音が耳に届いた。

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