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第33話 魔王の娘と離れてダンジョンに入る件4

(これを、どう防げば)

 

 カファは、走りながら自身に向かってくる光線を見つめていた。

 左に飛んでも右に飛んでも、回避できないほど広い光線。

 ダンジョンの床も壁も、光に触れていないにも関わらず、高熱を帯びてその岩肌を溶かし始めていた。

 

 否、回避さえも絶望的な中、カファのやるべきことはそれ以上のことだ。

 目の前を走るアルハをミラー・ドラゴンの元へ辿り着かせること。

 深く呼吸し、体の余計な感情を吐き捨てる。

 そして、ただ一つ、自身の剣にのみ集中する。

 カファは、斬り捨てるべき光線をじっと見据えた。

 

 できるかできないか、という感情を捨てる。

 ただ、斬るという感情にのみに執着する。

 

「できるさ。大人だからな」

 

 加速し、アルハの前に出る。

 光線を凝視し、光線の中にある僅かな揺らぎを探す。

 魔法は、魔力が多く込められている部分とそうでない部分がある。

 そして、後者は魔法を退ける際の糸口となり得る。

 

「見えた!」

 

 カファは剣先を光線に向け、地面を蹴り、自身を剣の柄として突きを放った。

 魔法を退けなければ、全身に魔法を浴びる危険な行為。

 確実に死を隣り合わせにする動きではあったが、今のカファにはそんな恐怖も残っていなかった。

 

「おお、おお。無謀な」

「おおおおおおおお!」

 

 突き立てた剣が、光線を切り開く。

 接触点から円を描くように、光線に穴が開き、ミラー・ドラゴンへの道を開いた。

 剣の刃が砕け、地面へと落ちていく。

 刃の欠片と一緒に、力尽きたカファが倒れていく。

 その横を、アルハが全力で駆け抜けた。

 

「おお、おお。なんと、強大な」

 

 ミラー・ドラゴンは、カファを賞賛すると同時に、接近してくるアルハへと備えた。

 立てていた鏡を再び倒し、自身の皮膚を守る。

 さらに、アルハの動きを観察し、どこへ剣が振り下ろされるかを考えて鏡を動かす。

 一枚であれば破られてしまう硬さだが、二枚三枚と増やしていけば破られない可能性は上がる。

 

(おお、おお。首か)

 

 アルハが跳ぶと同時に、ミラー・ドラゴンはアルハの狙いを理解した。

 光線で迎撃するのをやめ、アルハを狙い通りの場所へと通す。

 同時に、鏡を何重にも集めて防御力を強化し、アルハが剣を振り下ろすだろう着地点の周囲の鏡を立てた。

 首へと立ったアルハへ、全方位から光線を浴びせるために。

 

「ここ、だあ!」

 

 アルハは自由落下の速度を剣の速度へと変換し、上段から剣を振り下ろした。

 ムニの言葉を、心の中で繰り返す。

 

 ――そんなお主は、敵の動きなど難しいことを考えず、一撃で相手を仕留める方に振り切った方が良い。

 

 刃が、鏡に触れる。

 一枚、二枚、三枚。

 先程よりも、深く深く剣が沈んでいく。

 四枚、五枚、六枚。

 

「おお、おお。これでも、足りぬのか」

「ぐ……ぐぎぎぎぎぎぎ!」

 

 七枚目。

 刃がようやく止まる。

 が、アルハは力を加え続ける。

 周囲の立った鏡が光を集めていることなど気にも留めず、ただただ首を目掛けて。

 

「おお、おお。なんという、狂気」

「ぎぎぎ……がああああああ!」

 

 瞬間、アルハの体内から、もう一つの力が湧き出した。

 ムニがアルハの背中へ付与した、ムニの持つ魔力。

 

(十分じゃ、アルハ。A級の魔物を単独でここまで追い詰めることができれば、これで十分。お主の、勝ちじゃ)

 

 ムニの魔力が剣へと絡みつく。

 七枚、八枚、九枚。

 

「おお、おお。なんだ? 魔力が、増して……!?」

 

 ミラー・ドラゴンが、その異質に気づいたときにはもう手遅れ。

 十枚目、すべての鏡が砕かれて、アルハの刃がミラー・ドラゴンの首を切断した。

 驚きの余り目を見開いたミラー・ドラゴンの頭部は、そのまま地面へと横たわる。

 頭部を失ったミラー・ドラゴンの体は、横へと倒れ、そのまま動かなくなる。

 散らばった鏡の破片が音を立てて砕けていき、形をとどめないくらいに小さくなって、そのまま消滅していった。

 

 この場に残されたのは、静寂。

 勝利の喜びに浸る直前の、一瞬の静寂。

 

「はあ……はあ……」

 

 疲労によって力を入れることのできなくなったアルハの手から、剣かするりと抜け落ちる。

 剣の落下音が響く。

 

「アルハ!」

 

 同時に、ジアがアルハへと駆け寄る。

 倒れかけたアルハの体を両手で支え、そのまま自身の膝を枕に寝っ転がらせた。

 

「アルハ、すごいよ」

 

 アルハは、酸素を少しでも取り込もうと荒く呼吸する。

 言葉を発する元気はなかったので、代わりにジアの言葉に笑顔を向けた。

 

「お前、すごいな!」

「本当にB級かよ?」

 

 他の冒険者たちもまた、倒れるアルハの近くへ駆け寄った。

 口々に賞賛の言葉を送り、憧れにも似た視線でアルハを見る。

 たった一人のB級冒険者が、ミラー・ドラゴンを葬ったのだ。

 その驚きは、並大抵のものではない。

 

 カファもまた、同様。

 カファがアルハに近づくと、冒険者たちは無意識に道を開けた。

 モーゼの海割りがごとく空いた通路を歩き、カファはアルハのそばに立った。

 光線を割った際に浴びた熱で、体の至る所に火傷をしており、アルハ同様満身創痍の姿だ。

 

「アルハ君、君は」

 

 だが、依頼の本分を忘れることはない。

 アルハの真の実力を測るという依頼を。

 カファは、短期間でA級に匹敵する実力を得たアルハへ、直接疑問を問いかける。

 

 

 

 

 

「姫の魔力を感じたから来てみれば、ミラー・ドラゴンがやられているではないか」

 

 

 

 

 

 ――つもりだった。

 

 突然現れた人影に、カファは問いかけを中断し、振り向いた。

 そこに立っていたのは、人間の形をした何か。

 額の左右からは五センチメートルばかりの小さな角が生えており、眼球の周りが血のように赤く染まっている何か。

 全身真っ黒な服を、同じく黒いマントで隠した何か。

 

 そこにいた冒険者たちは、その正体を即座に理解した。

 

「ま、魔族!?」

「馬鹿な! なんで、こんなところに!」

 

 冒険者たちの驚きに関心を示すこともなく、魔族は不思議そうに周囲を見渡した。

 魔族の瞳に人間が映るも、それは目当ての物を探す際にたまたま石ころが映ったことと同義。

 人間へ一切の興味を示さず、魔族は周囲の一通りを見終えた後、首を傾げた。

 

「私が、姫の魔力を違えるはずはないが」

 

 そして、ミラー・ドラゴンの死体の前まで、悠然と歩を進めた。

 頭部を失った首を撫でながら、断面をしげしげと眺める。

 

「微かに、姫の魔力を感じるな」

 

 その背後へ、カファが立った。

 言葉を発するよりも早く、カファは魔族の首目掛けて剣を振るった。

 

 魔族の危険度は、A級の魔物以上と言われている。

 故に、カファには会話も観察も、選択肢にはなかった。

 

 魔族は、襲ってくる剣を見ることもなく、左手の親指と人差し指で剣を受け止めた。

 

「なっ!?」

 

 A級冒険者であるカファは、魔族と戦える自信を持っていた。

 が、ミラー・ドラゴンとの戦闘後であること、そして自身の愛用していた武器を失っていること。

 二つの理由から、戦いという形さえとることができなかった。

 

「うるさいぞ」

 

 魔族はただ一言呟き、全身から魔力を発した。

 魔力はその場にいる全員を飲み込み、冒険者たちの意識を刈り取った。

 カファも、ジアも、誰もかれもが、その場に倒れ伏した。

 

「? 何故、意識を保っていられる?」

 

 唯一アルハだけが、倒れながらも意識を保っていた。

 魔族は立ち上がり、横たわりながら荒い呼吸を繰り返すアルハに近づく。

 

「ミラー・ドラゴンを斬ったのは、お前か?」

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