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第30話 魔王の娘と離れてダンジョンに入る件

「それでは、ダンジョンへと入ります」

 

 シャーイの合図とともに、冒険者たちはダンジョンへと入っていく。

 入り口の奥へ進めばすぐに分かれ道に到達したため、一団は二手へと分かれた。

 

「……いますね」

 

 分かれて歩くこと数分。

 ダンジョンの奥からマグマ・ウルフが現れた。

 マグマ・ウルハ体全体から赤を発行し、周囲を照らしながら歩いてくる。

 尖った口からの吐息は高温を纏っており、周囲の気温があがっていく。

 一歩歩くごとに、汗の代わりにマグマが垂れ落ち、ダンジョンの地面に溜まる泥を容赦なく焦がしていく。

 触れると人体を溶かすほどの熱が、意思を持って冒険者たちに近づいていくる。

 

「わあ、パッチパチに燃えてる。水の魔法を使える冒険者は、ええっと」

 

 爽剣の毘沙のメンバーであるクーラが、一人の冒険者へと視線を向ける。

 水の魔法を使うことのできる一人は、クーラからの視線の意味を即座に理解し、小さく頷いた。

 そして、杖に魔力を溜めながら、マグマ・ウルフのいる方向へと歩いていく。

 

 が、水の魔法が放たれるより早く飛び出したのはカファだ。

 一度地面を蹴っただけで、まるで空でも飛んでいるようにマグマ・ウルフの元へ一直線に飛んだ。

 カファの接近に気づいたマグマ・ウルフは、唾液のように溜まったマグマをカファに向かって吐き出す。

 対し、カファは空中で構えていた剣を動かし、左右への一閃でそれを切り裂いた。

 さらに、剣の勢いに逆らわず体を一回転させ、二撃目でマグマ・ウルフを両断した。

 マグマ・ウルフの上顎と下顎が離れ、その場に崩れ落ちる。

 

 ようやく地面に着地したカファは、剣を鞘へと納め、クーラの方へと振り返った。

 

「終わった。行こう」

「終わった。行こう……じゃないのよ! なんでリーダーが先陣切ってるの!」

「大人だから、背中で戦いを見せようかなって」

「何のために集団依頼かけたと思ってるの! 奥に未知の魔物がいるかもしれないから、私たちの体力を温存しておくためでしょ!?」

「大丈夫。体力配分は、ちゃんと考えてる。大人だから」

「そうじゃなくって! もー!」

 

 が、カファの行動は、爽剣の毘沙での方針とずれていたらしい。

 なんでもないかのように言うカファを見て、クーラは頭を抱えた。

 ストレスでこげ茶色の寝ぐせがピンと立ち、寝ぐせに気づいたクーラはすぐさま手櫛で髪をとかした。

 

「とにかく、次は他の人たちに任せること! 私たちは最終手段! いい?」

「……はい」

「本当に分かった?」

「ちゃんと理解したよ。大人だから」

 

 カファとクーラのやり取りを見て、他の冒険者たちは微笑ましい気持ちを抱える……なんてことはなかった。

 恐るべきは、マグマ・ウルフを一撃で葬ったカファの腕である。

 

「マグマ・ウルフを……一撃?」

「それも、剣で?」

 

 マグマ・ウルフは、高温の魔物。

 剣で切ろうものなら、逆に剣が溶かされるリスクもある。

 故にセオリーは、クーラが視線で示した通り、水の魔法による遠方からの攻撃だ。

 それを、いとも容易く切り裂いたカファの行動が理解できず、冒険者たちは目を丸くしていた。

 

「あれが、A級冒険者の剣。気の域かあ」

「え?」

 

 ジアの下した評価に、アルハは思わず聞き返す。

 

「気。知らない?」

「知らない」

「A級冒険者の剣士は、剣術を極めているから、私たちでは斬れない物も斬れちゃうの。なんでも、どこに当てれば斬れるかが見えてるらしいよ。その状態のことを、気って呼んでるの」

 

 ジアの説明を受けて、アルハは納得した。

 ただし、ジアの想定とは異なる方向に。

 

 アルハはカファが飛び出した瞬間、目に魔力を溜めていた。

 少しでも、カファの動きを見るために。

 そこでアルハの目に映ったのは、カファの動きだけではなく、カファの剣に溜まっていく魔力だった。

 マグマ・ウルフに剣が触れた瞬間、魔力が剣を熱から守り、かつマグマ・ウルフの体に流し込まれた魔力がその体を真っ二つにしたところまでがすべて見えていた。

 アルハの目には、カファが魔力を操る様子が見えたのだ。

 しかし、ジアはそれを気と呼んだ。

 

(A級冒険者は、皆魔力を操って戦ってるのかな。でも、そんな話聞いたことないよな。魔力を操っていることに気づくことが、A級になる方法?)

 

 アルハは、自身の疑問をカファへ尋ねるべきかをしばし悩んだ。

 もしもカファの見せた剣技がA級のみの秘匿事項であれば、それを知るアルハは口止めのために拘束くらいされるだろう。

 面倒なことに巻き込まれたくなければ、黙っていることが正しい。

 そうわかりつつも、今後の成長を考えれば、アルハにとってリスクをとってでも聞く価値のあることだった。

 

「あの」

「どうしたの?」

「水魔法は、使わないんですか?」

 

 アルハの質問に対し、カファは不思議な物を見るような目をしていた。

 魔法の才能がある人間は魔法使いになる。

 それは、世界の常識だ。

 逆を言えば、剣をメインに使っている時点で、魔法への才能がないということと同義だ。

 

「ぼくは、魔法の才能がないからね」

 

 さも当然に言い放ったカファの言葉を聞いて、アルハは、カファ自身も魔法を操っている自覚がないのだろうと理解した。

 ただ、気という言葉に言い換えて、別の物と認識をしているのだと。

 

「ぼくたちのパーティの魔法使いは、彼女だよ」 

 

 カファは、追加説明をするようにクーラを指差した。

 クーラは、カファに向けていた呆れの表情から、外向けの笑顔へと変えて、アルハを見る。

 

「クーラです。貴方は、魔法使いなの?」

「いえ、ぼくも剣士です」

 

 魔法の話題を振ってきたことから、てっきりアルハが魔法使いなのかと思ったクーラは、アルハの返答に少し驚いた。

 剣士の恰好をしていようと、実は魔法使いであることも少なくない。

 実際、クーラは裾の短い法衣を着込んで、背中に杖を背負っている。

 僧侶に近い恰好をしているが、れっきとした魔法使いだ。

 

「じゃあ、なんで魔法のことを聞いたの?」

 

 クーラからの当然の疑問に、アルハはごまかすように答えた。

 

「興味、ですかね」

「はあ。そう言うのは、ダンジョンの外でにして欲しいかな」

 

 アルハの返答は、クーラにとってマイナス点だったらしい。

 呆れたような声で、クーラはアルハに注意した。

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