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第28話 魔王の娘と出会うA級パーティー

 到着した村は、村と呼ぶにはあまりにも防衛機能が高かった。

 大抵の村の防衛機能は、木の杭や柵で村の敷地を囲む程度だ。

 木の壁が積み上がっていれば、拍手物である。


 しかし、この村は石によって壁が築かれていた。

 王都のものとは比べることさえ烏滸がましいが、村の設備としては過剰と言って差し支えない。

 

 とはいえ、冒険者たちが石の壁に対して疑問に持つことはなかった。

 この村の近くにはダンジョンがあり、さらにはダンジョン内の全ての魔物を討伐する依頼が出されるほど、魔物が多いと知っていたからだ。

 その危険度を示すように、石の壁には切り傷や衝突跡がいくつも残されていた。

 

「わー。すっごいね、これ」

 

 ジアが、小さく口を開けて驚く。

 村の巨大な防御力に。

 襲ってきた魔物の痕跡に。

 

 石の壁の一角に備え付けられた門の前には、門番が立っていた。

 村人の標準的な軽装ではなく、冒険者のそれに近い。

 冒険者ギルドで依頼を受けることを止めた冒険者の中には、時に私兵として雇われ、金持ちの家や村の門番として活躍することも珍しくはない。

 

 門番は馬車に向かって一礼すると、門を叩いて村の中の人間に合図をする。

 しばらくすると門が開いて、村の中から大男が現れた。

 

 百八十センチメートルある高さもそうだが、百六十キログラムを超える幅も広い、平均的な人間よりも二回り三回り大きな大男。

 頭皮が見えるほど短い白髪からは、頭の形がよくわかる。

 胸当てや腰当てと最低限の防具とは裏腹に、腰に下げた大剣はただの平民が物理的に持てるか怪しいほどに巨大だ。

 

「ハリーブさんだ」

「爽剣の毘沙だ」

 

 大男が名乗るより早く、周囲の冒険者たちはその人物を把握した。

 ハリーブは馬車から降りてきた冒険者を見渡し、人数を数える。

 途中にジアとも目が合ったが、かつて同じ依頼を受けた記憶は残っていないのだろう、視線も指も素通りした。

 

「追加は三十二人か。まだ足りんな。とはいえ、もー待てる時間ではない。これで十分とすべきか」

 

 ハリーブは冒険者たちを前にぶつぶつと独り言をつぶやいた後、冒険者たちを手招きする。

 

「長旅ご苦労だった。ついてこい。リーダーの元に案内する」

 

 そして、門をくぐって村の中へ入っていった。

 

「なんじゃ、ぶっきらぼうなやつじゃのう」

 

 ハリーブの態度に、ムニが呆れたように言う。

 仮にも、これから一緒に冒険をする相手だ。

 個の強さを絶対とする実力主義の魔族でさえ、共闘相手とは多少なりとも歩み寄りを見せるものだ。

 もっとも、ムニは誰かと共闘したことなどなく、全ては人聞きのことではあるが。

 

「あはは。前にお会いした時は、もう少し優しかったんだけどね」

「それだけ、現状がまずいのかもね」

 

 ジアがムニへフォローを入れ、アルハもジアの言葉に説得力を付ける。

 

「ふうむ」

 

 ムニは納得こそしなかったが、ハリーブがどうなろうが、依頼が失敗しようが関心がなかったため、それ以上の言及もしなかった。

 

 周囲の冒険者たちが、ハリーブを追って村の中へと入っていく。

 アルハたちも、人の波に流されるように、歩みを進めた。

 

 

 

 案内されたのは、村で二番目に広い屋敷だ。

 一番目は、言うまでもなく村長の住居である。

 二番目は、近隣の村の村長たちを集めて宴会を開くための特別な宿屋である。

 普段は使用されていないためか、ところどころに砂埃が落ちたままだ。

 

 宿屋には既に、五十人ばかりの冒険者が集まっていた。

 たいていが、アルハたちと同様に集められた冒険者。

 そして、部屋の最も奥で座り心地の良さそうな椅子に腰かけている三人が、爽剣の毘沙のメンバーである。

 ハリーブは三人の横に立って、腕を組んだ。

 ハリーブの椅子が存在しないのは、体に合う椅子が村になかったというシンプルな理由だ。

 

「よく来てくれましたね。てきとうに座ってください」

 

 爽剣の毘沙のリーダー、シャーイが椅子から立ち上がって、アルハたちに指示をする。

 立った拍子に揺れる茶色の長髪は、シャーイ自身の中性的な顔立ちも相まって、妖艶な魅力を振りまいた。

 女だけならず男までも、心を僅かに掻き乱される。

 

 冒険者たちが全員座ったことを確認したシャーイは、腰から剣を抜いて床へと刺した。

 床を駆け抜ける僅かな振動が、冒険者たちの体にも流れる。

 

「まずは、今回の集団依頼を受けてくれたこと、感謝します。私は、今回の依頼のリーダーを任されている、シャーイと言います」

 

 A級パーティ『爽剣そうけん毘沙びしゃ』。

 そのリーダーであるシャーイのことを知らないのは、この場においてムニだけだ。

 表情に緊張を貼り付ける冒険者たちを見ながら、ムニだけが首を傾げた。

 

「さて、依頼内容については、依頼書に書かれた通りです。ダンジョンの魔物の殲滅。この村は、ダンジョンの近くに位置しているため、定期的に魔物の被害にあっていました。それは、この村を囲う壁からも予想ができたと思います」

 

 冒険者たちは、村の外観を思い出す。

 並の魔物では決して崩すことができないだろう、石の壁を。

 シャーイの言葉に納得したように、数人の冒険者が頷いた。

 

「今までは、村自体の防衛機能で十分防衛できていました。しかし、最近魔物の動きが活発化し、ダンジョン内に住む魔物たちの数も増えてきているという報告も受けています。このまま放置をすれば、村の防衛機能では止められないほどの魔物は村にやって来る危険性があります」

 

 シャーイは剣の柄を握り、剣を床から引っこ抜いた。

 そして再度、先程よりも深く、剣を床に突き立てた。

 

「そうなれば、魔物によって村人たちが犠牲になるのは明白。それは、なんとしても避けなければなりません。よって、我々はダンジョンへと入り、ダンジョン内の魔物を殲滅します」

 

 村の危機が近づいている。

 だから、村に訪れるだろう危機を事前に排除する。

 シャーイの言葉には、実に単純であった。

 が、回避方法なら他にもあるだろうと思い至った冒険者の一人が手を挙げる。

 

「シャーイ様、よろしいですか?」

「なんでしょう?」

「そんな危険な場所に、なんで住んでるんですか? 時間はかかりますが、少し離れた場所に移住したほうが安全なのでは? ダンジョンの資源が必要だというなら、冒険者を定期的に派遣することもできますし」

 

 冒険者の質問は、シャーイにとって合格点の質問だったらしい。

 シャーイは冒険者を見た後、小さく頷いた。

 

「ダンジョンの資源だけが必要なのであれば、君のいう方法が正しいです」

「だけ、じゃないのですか?」

「ここに村があるのは、ダンジョンから出てきた魔物を呼び寄せ、迎え撃つ目的でもあります。ここは丁度、三つの村へ繋がる分岐点。もしも村が別の場所に移れば、防衛機能のない他の村が魔物の餌食になることでしょう」

「……そういうことですか」

 

 村の成り立ちは、いくつかある。

 国もない時代から集落がつくられ、そのまま村にまで発展すること。

 都市と呼ばれるまで巨大になった村から、独立という形で分離すること。

 そして、軍事上必要な場所に拠点が作られ、拠点が村へと姿を変えること。

 

 軍事からの派生であれば、過剰な防衛機能も当然のことだ。

 

 疑問を解消した冒険者は、シャーイへと礼を言い、手を下ろした。

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