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第27話 魔王の娘と視力を良くした件

「アルハ!」

「ジア。ジアもこの依頼受けていたのか」


 アルハが馬車に乗ろうとしていた背中に、ジアの声がかけられる。

 ジアは小走りで馬車に近づき、アルハの前で立ち止まった。


「うん、そう。これ」


 ジアが証明でもするように、アルハへ依頼書を差し出す。


 依頼内容は、B級ダンジョンの魔物の一掃。

 アルハが受けた依頼と、同様のものだ。

 ほとんどの依頼は、依頼先が冒険者個人であり、複数で依頼を行う場合も冒険者個人の同行者という形式をとる。

 ただし、大量の魔物を討伐するような人手の必要な依頼は、複数の冒険者へ同時になされる。

 

 また、複数の冒険者への依頼の場合、冒険者ごとに役職が割り振られることとなる。

 役割の種類は三種類。

 冒険者たちの行動指針を決定し、依頼の達成の責任を持つリーダー。

 リーダーの行動指針に沿って、十から数十人の冒険者へ行動を指示するサブリーダー。

 そして、サブリーダーの指示のもとに実働するメンバー。

 基本的にリーダーを務めるのはA級冒険者であり、B級以下はメンバーだ。

 もちろん、アルハとジアもメンバーとしての参加だ。


 アルハは依頼表のリーダー名で視線を止める。

 

「A級パーティ、爽剣(そうけん)毘沙(びしゃ)


 アルハは、聞きなれた名前を口に出した。


 爽剣の毘沙。

 冒険者であれば知らぬ者はいない、王都でも五本指に入るパーティである。

 A級冒険者二人とB級冒険者二人の四人パーティであり、四人中三人が剣士という独特のパーティ構成をしている。


「シャーイさんたちのパーティね」

「知ってるの?」

「以前、別の大規模依頼で一緒になったわ。向こうが私を覚えているかはわからないけど」


 ジアは、当時のことを振り返って目を細める。

 軽装の鎧でほとんど道具も持たずに魔物の群れへと突っ込んでいった、無謀とも勇猛果敢ともとれる背中。

 ジアの格上相手に立ち向かうという先頭スタイルに、少なからず影響を与えた光景の一つだ。


「シャーイさんたちがリーダーなら、絶対達成できるわ。私たちも頑張りましょうね!」


 アルハにとって、B級冒険者になったばかりでの大規模依頼。

 アルハの不安と緊張をほぐそうと、ジアは笑顔で言った。


「ジア。……そうだね、頑張ろう」


 アルハは、ジアからの気遣いに気づき、笑顔を作って頷いた。

 ジアはアルハの反応を見て、満足げに頷いた。

 そして、アルハの背後にいる小さな人影に目を向けた。


「ところで、やっぱりムニちゃんもいるんだ」


 小さな人影とは、当然ムニのことである。


「無論じゃ。妾は、アルハの娘じゃからな」


 自信満々に言うムニを見て、ジアは苦笑する。

 そして、再び依頼書に目を通す。

 依頼書には、同行者を準備することは可能であるが、B級以上という制限がかかっていた。

 依頼書の内容に忠実に従うのならば、ムニはこの場にいられることが許されない存在である。

 しかし、ムニを同行しているアルハに対して、冒険者の誘導に走り回っている冒険者ギルドの職員たちは何も口を出していない。

 それはつまり、ムニが同行者であることに対し、冒険者ギルドが承知しているという何よりの証明だった。


(A級冒険者だったら、子連れでも依頼に送られることはある。それくらいに、A級冒険者の力は重要だから。でも、アルハはB級。それも、駆け出し。そんな特例が通るとは思わない)


 納得する一方で、ジアは思案する。

 自身の冒険者人生の中で目にしたことのない不自然に対し、理由を求めてしまうのは冒険者の癖とも言える。


(アルハに代わるB級冒険者が見つからなかった? ううん。冒険者ギルドで暇そうにしていた人はいるし、代わりはいたはず。じゃあ、アルハを特別に許したというより、ムニちゃんを参加させたかった、の方が近い? 何のために?)


 ジアが考えを巡らせる中、アルハはダンジョンに向かうため、馬車の中へ入ろうとする。


「ジア? 乗らないの?」

「あ! 乗る!」


 一向に乗る気配のないジアを不思議がってアルハが話しかけると、ジアは思い出したように馬車へ乗った。


「おー。今回の馬車も、快適じゃのう」


 多くの冒険者を乗せるために特化した乗合馬車は、三十人が優に座れる席が用意されていた。

 席のほとんどがすでに埋まっていたため、アルハとムニが並んで、ジアがちょっと離れたところへと座った。


 ムニが座ったことで、周囲の冒険者の何人かは驚きでムニを見た。

 理由は、ジアと同様。

 これから行く場所に、ムニという子供はどう考えても場違いだ。

 しかし、やはりジアと同様、冒険者ギルドが止めていないということは何らかの理由があるのだろうと指摘することはなかった。


 アルハたちが乗った後も、一人また一人と冒険者が乗車する。

 満席になったことを確認すると、御者は馬車を走らせた。

 

 

 

 

 

「おお、村が見えて来たぞ!」

 

 外の景色を眺めていたムニが、小さく跳びはねながら言う。

 

「ほんと?」

 

 座りくたびれていたアルハも、ムニの言葉を聞いて外を見る。

 が、周囲は草むらと土の道。

 ムニの見つめる方向を見ても、左右に首を振っても、アルハには村の影が見つからなかった。

 それは、ムニの声に反応した他の冒険者たちも同様だったようで。

 馬車の外を見渡した後、子供の嘘かと席に座った。

 

「ムニ、嘘ついちゃ駄目だよ」

 

 冒険者たちの気持ちを代弁して、アルハが叱るように言う。

 が、ムニは頬を膨らまし、ムッとした表情で一点を指差した。

 

「嘘じゃないわ! あそこに見えるじゃろうが!」

「だから、どこにもないじゃないか」

 

 アルハはムニの指差す方向を、じっと見つめる。

 その視線を風が横切り、アルハは思わず目を細める。

 その瞬間、アルハの目に朧げな点が映った。

 

「あれ?」

 

 アルハは目を細めたまま、点の見えた場所をじっと見つめる。

 馬車が前に進むほど、点は大きくなっていき、いくつもの家が集まっている凸凹になった。

 

「……ほんとだ。村だ」

「最初っから、そう言っておるじゃろうが!」

 

 驚くアルハの声に、他の冒険者たちが半信半疑で再度立ち上がる。

 そして、遠くの方に村を見つけ、ムニが本当に見えていたのかとどよめきの声をあげる。

 遠慮も忘れてムニを見つめ、どう見てもただの子供にしか思えない姿に、二度目のどよめきが起きる。

 

「ムニ。君、目がいいね」

 

 ムニの人間離れした身体能力の発揮に、アルハは咄嗟に感想を零した。

 

 人間離れした身体能力を持つのは、魔族の特徴。

 一部の冒険者が、ムニと魔族を紐づけることを懸念した。

 故に、高すぎる視力を、目がいいという陳腐な表現で包み隠した。

 幸い、冒険者たちはムニと魔族を紐づけることなく、近づいてくる村に夢中だった。

 

 アルハはしばらくムニを見つめていたが、ムニはアルハからの言葉に首を傾げた。

 

「お主もできると思うぞ?」

「え?」

 

 ムニは指先に魔力を溜めて、自分の目の下をちょんと指差した。

 言葉を使わず、目に魔力を溜めてみろと誘導する。

 ムニの意図に気づいたアルハは、言われるがままに目に魔力を集めて、再度遠くの村を見た。

 

「あ」

「な?」

 

 凸凹とした影にしか見えなかった村が、今のアルハにははっきりと家の色まで見えた。

 村の入り口に立つ守衛だろう人間は未だ点にしか見えなかったが、そこに何かがいるという存在の確認までができていた。

 

「……へえ」

 

 アルハは、喉まで出かかった「魔力は色んな使い方ができるんだな」という感想を、咄嗟に飲み込んだ。

 口にしてしまえば、ムニの配慮が無駄になる。

 

 そして、周囲の冒険者たちが馬車を降りるのに備えて荷物の中身を確認しているのに気付き、自分も周囲に合わせた。

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