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第18話 魔王の娘ともてなしを受ける件

「いやー、さすがは冒険者様! 見事な戦いっぷりでございました。村の者たちも、皆安堵しております。はい」


 戦いの後、アルハとジアは手のひらを返した村長の家でもてなしを受けていた。

 村で採れた野菜に、森で採れた肉、そしてハレの日のために保管されていた貴重な米が、大盤振る舞いに振舞われた。

 ナイフタイガーによって森林への立ち入りができず、狩猟ができなかったため、肉だけは保存用に干したものであったが。


「さあさあ、遠慮なくお食べ下さい。ああ、依頼書には滞りなく完了した旨、書き添えておきますので。ええ、ええ。それはもう、速やかに」


 村長は、先程からこの調子だ。

 ナイフタイガーの子供がすでに人間を襲える程度に成長していることは、ナイフタイガーが『三か月前から住み着いている』という依頼内容と矛盾する。

 ジアがその件について尋ねようと口を開くたび、村長からの感謝と褒め殺しによって遮られ続けていた。


「この村は、水が綺麗でお酒も美味しいんですよ。おおーい、誰か! 酒を持って来てくれ!」


 惜しげもなく食材を使った宴会に、村長からのもてなすから何も聞くなという感情が容易に見て取れた。

 ジアは、自分がそんな安い冒険者に見えたのかと不快感をあらわにし、すぐにでもこの場を立ち去りたいと思っていた。

 が、ジアの隣では、ムニが美味しそうにご馳走を平らげている。

 ジアが立ち去ることで宴会が流れ、ムニの食事の邪魔をしてしまうことを考えれば、ジアはしぶしぶ料理に一口手を付けた。


「美味しい」

「そうでしょう、そうでしょう? この村の野菜は、村人たちで心を込めて育て上げた逸品ですからね」


 ようやく料理に口を付けたジアを見て、村長はほっと胸をなでおろす。

 

 冒険者への依頼料の相場は、魔物が強ければ強いほど、当然上がる。

 よって、できるだけ依頼料を安く抑えたい依頼者は、時々魔物の情報を矮小化して伝えるという愚行に走る。

 村長もまた、半年前に確認したナイフタイガーを実害がないからと放置し、活動が活発になってきたことで慌てて冒険者ギルドへ依頼をした。

 その際、最初に確認した時期を偽ることで、依頼料を村に痛手のない金額まで落としていたのだ。

 触れられたくないのは当然だ。


「皆さんほど優秀な冒険者であれば、次の仕事も控えていることでしょう。明日の朝に到着する馬車も手配済みですので、ご安心ください」


 しかし、冒険者ギルドからすれば、依頼内容の偽りを許すはずなどない。

 故意であれば言わずもがな、誤りであったとしてもペナルティは存在する。

 

 依頼内容の偽りは、冒険者ギルドによる依頼のランク付けを誤らせ、適正でない冒険者を現地へ向かわせる結果に繋がる。

 それ即ち、冒険者を死地に送り込むことだ。

 冒険者を守る冒険者ギルドとしては、到底看過できない。

 ジアには、討伐した魔物の報告を受け取った冒険者ギルドが、容易に依頼内容に偽りがあったと判断し、徹底的な調査が行われる未来が見えていた。

 

(どうせバレるのに。馬鹿なことしてるなあ)


 そして、もう一つ。

 ジアには見えていた未来があった。

 アルハとジアに依頼内容の話題をふれさせないために、とにかく食べて寝させようという村長がとった作戦の末路である。

 ジアは、ムニの方を見た。

 ムニは、運ばれてくる料理を、次から次へと平らげていた。


「ささ、遠慮なく。お好きなだけ食べてください」

「おお! 遠慮せずに食うぞ! ここ最近、アルハの財布事情を考えて控えめにしていたからな! 食い溜めじゃ!」

 

 五人前はあろう大皿に載った肉や野菜が、ムニの前に置かれる。

 ムニは大皿を片手で掴むと、まるでおちょこで酒でも飲むように、大皿を傾けて肉や野菜を飲みこんでいった。


「ぷはー! お代わり!」

「え?」


 ムニが人間の振りをして、一皿一皿丁寧に食べているまでは、村長も笑顔だった。

 しかし、普段であれば「ムニ、そろそろ」と止めるはずのアルハが何も言わないのをいいことに、ムニが本性をむき出しにして食べ始めた瞬間、村長の顔色が青に変わった。

 遠慮なく食べろとは言ったが、五人前を一瞬で食べるなど、想定できるはずもない。

 まして、相手は小さな女の子だ。


「お、お嬢ちゃん。無理して食べなくてもいいんだよ? お腹壊しても可哀想だし」

「無理などしておらん! まだまだ、腹三分目と言ったところじゃ!」

「え……」


 村長は、ムニの前に並べられた空っぽの皿を、無言で数え始める。

 そして、十を超えたあたりで、青い顔が白く変わった。

 腹三分目ということは、満腹まであと七分。

 ムニが今まで食べた分の倍が、今から消える可能性があるということだ。

 村長は、未だガツガツと食べ続けるムニを見た。

 

「この倍……食べられるの?」


 恐る恐る尋ねた村長に、ムニは皿をべろりと嘗めて綺麗にしてから、不思議そうな顔を向けた。

 

「倍? 倍どころか、三十倍は食べられるぞ? 腹百分中の三分目じゃからな」

「百ぅっ!?」


 ムニは、必要なことを答え、またすぐ食事を再開する。

 使用人が新たな料理を持ってくると、配膳されるより先におぼんから奪い取り、飲み干すように平らげていく。

 目の前に置かれた皿が全て空っぽなことに気づき、ムニは皿を下げる使用人へと催促した。


「おい! 飯がないぞ! 早く持ってこぬか!」

「は、はい! ただいま!」

「料理に時間がかかるというのであれば、そのままでも良いぞ。生野菜や干し肉をそのまま齧るのも、素材の味がして美味いからのう」


 使用人はそそくさと部屋から出ていき、すぐに別の使用人が籠一杯の野菜を持って戻ってきた。

 最低限の水洗いで泥を洗い落とした自然の恵みである。


「おお! 待っておったぞ!」


 ムニは、躊躇いなく籠の中の野菜に齧りつく。

 ムニの胃は、人間のそれよりもはるかに頑丈だ。

 泥ごと消化できるため、泥がついている程度で程度で腹を下すこともない。


「うおっほん。冒険者様方、そろそろ眠くは御座いませんか? 湯と寝床の準備が整っております」


 頭の中でムニの食費を計算し終えた村長は、自身がちょろまかした依頼料よりもはるかに大きな金額が消えたことに気づいた。

 どうにかムニに食事を終えてもらおうと、下手に下手にムニへと告げた。


「おお! 風呂があるのか! 飯を終えたら、是非いただこう!」


 が、ムニの優先度は、入浴よりも睡眠よりも、食事である。

 村長の思惑など気づくこともなく、頭よりも口を動かした。

 いつもの村長であれば、仮にも客人の要望を優先しただろうが、今は話が違う。

 このままムニが百分目とやらまで食べ続ければ、村の食糧の危機だ。


「いえいえ是非。是非、冷めないうちにお風呂へと」

「ムニちゃん、村長さんもそう言ってることだし。では村長、アルハとムニちゃんがお風呂へ行っている間、私たちは依頼内容のお話をしましょうか。少々気になることがありまして」

「ええー」


 が、不満そうなムニを動かしたのは、ジアである。

 食事を終えるのであれば、さっきからごまかそうとしている依頼内容について追及するぞという、笑顔での圧力。


「あ」


 自身が食事を勧めていた理由を思い出した村長は、ジアの方を見て固まり、ムニの方を見て固まった。

 前門の虎後門の狼ならぬ、前門の食費後門のペナルティ。

 一時的な損害としては、ムニの食費がはるかに大きい。

 たった一度のペナルティで支払う額など、精々騙した金額の数倍だ。

 しかし、ペナルティを受けるということは、今後の依頼料が割り増しされればマシ。

 最悪の場合、そもそも依頼を受け取られないという可能性もある。

 未来での損害は、食費よりも遥かに大きい。


 村長はムニをじっと見た後、ジアの目を見る。

 笑っているようで笑っていない、ジアの目を。

 言外に交わされる、ムニに満足するだけ食事を与えれば冒険者ギルドには私から何も言わないよ、という約束。


 村長は、笑顔でムニに言った。


「どうぞ、湯浴みの前に心行くまでお召し上がりください!」

「うむ。そのつもりじゃ!」




 豊かな自然に恵まれ豊富な食料のあるその村は、何故だか翌日から食糧難に陥り、村長は食糧難の責任を取らされて村長の座を引きずり降ろされることになるが、それはまた別の話。

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