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第15話 魔王の娘が幼馴染と魔物討伐に向かう件

「まさか十人分のご飯が、ムニちゃん一人でなくなるなんてねー」

「ほんとごめん」

「なんでアルハが謝るの? 十人分食べるよって教えてくれたの、信じなかったのは私じゃん」


 依頼先の村へ向かう馬車の中。

 アルハは申し訳なさそうな顔で座り、ジアはひょうひょうとした顔で笑っていた。

 冒険者ランクが変われば、収入も当然変わる。

 アルハの属すC級冒険者は、一回の仕事で一日から二日分の生活費が稼げると言われている。

 十人分の食費と言うのはかなりの痛手だ。

 一方、ジアの属すB級冒険者は、一回の仕事で一週間から十日分の生活費が稼げると言われている。

 ジアにとってムニの大喰らいは、やや大きな出費の範疇に留まり、自身の生活を脅かすほどのものではなかった。

 むろん、一食だけだったからというのもあるが。


 馬車に乗ってからのムニは真剣な顔で悩んでおり、時折アルハやジアに視線を送っていた。

 そして、覚悟を決めたように立ち上がり、アルハの前に立った。


「アルハ、決めたぞ」

「何を?」

「妾、アルハの娘を止めて、ジアの娘になる」

「こら」

「今まで、世話になった」


 ムニはアルハに一礼した後、ジアの方へと飛びついた。


「そういう訳じゃ! 今後とも、よろしく頼む」

「んー。ちょっと無理かな」

「なんでじゃ!?」


 が、ジアはムニの体を優しく受け止めたものの、真正面からのお断りを告げた。


「何故じゃ! 妾、尽くすぞ! 料理も掃除も洗濯もできんが、この愛くるしさで疲れを癒すぞ!」


 ジアは、必死にくらいつくムニを両手で挟み込んで、アルハの膝の上へと返した。


「私、B級だからね。家を空けることも多いから、ムニちゃんと住むことはできないんだ。ごめんね」

「ならば、妾もついていく! 以前もアルハのダンジョンについていったし、問題はない!」

「それは、C級のダンジョンだからなの。B級以上のダンジョンには、B級以上の冒険者しか入れないの」

「むぐぐ」


 C級のダンジョンでは、冒険者が一人いれば同行者の制限がない。

 例えば子持ちの冒険者であれば、自身の子供に魔物という存在を教えたり、将来我が子を冒険者とするために幼い頃からダンジョンへ連れて入ることも珍しくはない。

 無茶さえしなければ命を落とさない、それがC級ダンジョンだ。

 一方、B級ダンジョンは危険度が数段上がり、警戒してようが死ぬときは死ぬ。

 故に、同行者にも制限がついている。

 なお、ダンジョンに入らない依頼については、場所自体が危険なわけではないためB級冒険者以外の同行も許されている。


「ならば妾も、B級冒険者になる! それでよかろう!」

「うんうん、そうだね。ムニちゃんと一緒にダンジョンに入れる日、楽しみにしてるよ」


 すねた顔で言うムニの頭を、ジアはぽんぽんと叩いた。

 ムニはしばらく俯いたまま沈黙していたが、突然目を輝かせながら顔をあげた。


「アルハ! いいことを思いついたぞ!」

「何?」

「お主が、ジアと(つがい)になればよいのだ!」


 ムニからの提案に、馬車の中に沈黙が漂う。


「ええええええええええ!?」


 沈黙を打ち破ったのは、顔を赤くしたジアの叫び声だった。


「つ……つ……番って、夫婦ってこと!? や、そんな! 私とアルハなんて、吊り合わないって! でも、まあ、アルハがどうしてもって言うなら」

「無理だよ。ぼくはC級でジアはB級。吊り合わないよ」


 が、叫び声の中でも、アルハは冷静だ。

 諫めるようにムニの髪の毛をくしゃっと握り、同意を求めてジアを見た。


「ね? ジアも、そう思うよね?」

「アーハイハイ、ソウデスネー。ツリアイマセンネー」

「どして不機嫌になってるの?」

「べーつにー」

「惜しいのう。二人が番になれば、ジアの稼ぎも家計に入り、妾は飯に困らぬと言うのに」


 困惑するアルハ、頬を膨らませるジア、そして皮算用の失敗に落ち込むムニ。

 三者三様の感情を乗せて、馬車は進んでいく。






「着いたぞ」


 馬車が村の入り口に到着する。

 村の前には既に村長と思しき老人が立っており、三人を迎えた。


「初めまして。冒険者ギルドから派遣されました、ジアと申します」

「同じく、アルハと申します」

「初めまして。私はこの村の村長をしております、カリヤと申します。この度は、私共の依頼を受けていただき、ありがとうございます」


 村長は、外向きの笑顔で挨拶をした後、ジアを見て僅かに表情を曇らせた。

 冒険者たちの挨拶は、依頼の責任者からと相場が決まっている。

 今回の場合は、ジアだ。

 だからこそ村長は、女性がナイフタイガー討伐の指揮を執ることに、一抹の不安を覚えていた。

 男女対等に活動をする冒険者であっても、上位の冒険者に名を連ねるのは男性が多い。

 男性の冒険者でないが大丈夫なのか、そんな村長の内心が透けていた。


 村長は、次にアルハを見る。

 普段冒険者を目にする機会がない村長からしても、アルハの装備は貧しいものだった。

 まるで、冒険者としての最低限の装備を揃えただけではないかと疑う程度。

 しかし、剣や胸当てには何年も使い込まれた跡があり、駆け出しの冒険者でないことは理解できた。


「……この子は?」

 

 最後にムニを見た村長は、思わず疑問を口にした。


「娘じゃ!」

「娘?」

「アルハの、娘じゃ!」


 元気いっぱいで返ってきたムニからの言葉に、村長はますます表情を曇らせた。


「そうですか。では、依頼内容を説明します。こちらへどうぞ」


 トーンの落ちた声で案内する村長の後ろをついていき、アルハ、ジア、ムニの三人は村の中へと入っていく。


「のう、アルハ? あの老いぼれは、何故落ち込んでおるのじゃ?」


 そんな村長の態度をいぶかしんだムニは、アルハの袖を引っ張り、村長に聞こえない声で問いかける。

 アルハはムニを見た後、そっとジアの方を見る。

 ジアは苦笑いをして、アルハの代わりにムニへ答える。


「多分、私が女だからがっかりしたんだと思う」

「? 女だと、何か問題があるのか?」

「冒険者に性別は関係ないとは言われてるんだけどね。やっぱり上位の冒険者って、男の人が多いから。多分、依頼料が少ないから中位以下の冒険者を派遣された、とでも思ったんじゃないかな」

 

 冒険者ギルドは、依頼者と冒険者の仲介組織として機能している。

 依頼内容と依頼料から受注可能な冒険者ランクを決定し、冒険者へ告知することで、各依頼内容に見合った冒険者が派遣できるように制度を設計している。

 ただし、冒険者ギルドが行うのはそこまで。

 必然的に、内容が過酷な依頼や依頼料が相場より低い依頼は冒険者の敬遠の対象となり、長期間放置されたり、経験を積みたい駆け出しの冒険者の手に渡ってしまう。

 故に生まれた噂が『冒険者ギルドは依頼料の多寡で派遣する冒険者を決める』という憶測である。

 

 王都や王都付近の町と比べて、遠方の村の金銭事情は悪い。

 今回の依頼も、『B級以外を同行させて良い』という条件が付いていることは、即ちB級冒険者のグループでは採算が合わない依頼料であるという事実の証明である。

 ジアは、村長の態度から自身に向けられている期待外れ感をひしひしと感じてはいたが、長い冒険者生活でそんなことはとっくに経験済み。

 いつものことだと受け流す。

 

「妾は、ジアの実力を知らん。じゃが、知りもせんやつを見縊るやつは嫌いじゃ」

 

 だが、ムニにとっては初めて経験すること。

 ジアへの視線を自身へ投影していた。

 女性という性別で生まれ、次期魔王として祭り上げられ、期待に応えるべく実力を磨いてきた自身へ。

 まるで村長の言葉が自身の過去を踏みにじったように感じられ、ムニは憤慨していた。


 そんなムニの様子に、ジアは目を丸くして、パチパチと瞬きする。

 そして、ふっと吹き出し、ジアの頭に手を置いた。


「なんじゃ?」

「ううん。ありがとね、ムニちゃん」

「ありがとう?」


 代わりに怒ってくれたのだという感情が、結果的にジアの心の引っ掛かりを抜いてくれた。




「どうぞ。お入りください」


 村で一番大きな屋敷の前で村長は立ち止まり、扉を開いた。

 屋敷の中では、下働きをしている人々がもてなしの準備をして待機していた。

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