第13話 魔王の娘と武器を取りに行く件
朝。
武器屋の店主であるシラフは、営業を開始するために扉を開いた。
外からは燦燦と輝く日の光が差し込んできて、同時に二本の影が差し込まれた。
「おや、アルハ様。お待ちしておりました。剣の修理は完了しておりますよ」
そして、影の主がアルハだと気づくと、一礼して店の中へと招き入れた。
開店と同時に冒険者が訪れることは珍しくない。
特に、武器を修理に出している冒険者は、一刻も早くダンジョンに潜ろうと、せっかちになることが多い。
「朝からすいません、シラフさん」
「いえいえい。これが私の仕事なので」
申し訳なさそうにするアルハと雑談を交わしながら、シラフはアルハの後ろをついてくる影に視線を向けた。
アルハが気づいた上で連れているそぶりを見せていたため、アルハの関係者であることは容易に想像ができた。
しかし、冒険者と呼ぶには幼い外見であったため、その関係性に疑問が残った。
「アルハ様、後ろの方は?」
未来の客か、それともただのにぎやかしか。
シラフはいつも通りの温和な声でアルハに尋ねた。
アルハの口が開きかけるが、アルハの代わりにムニが答えた。
「妾はムニ。アルハの娘じゃ!」
「娘?」
「知り合いの! 知り合いの娘です!」
「あ、間違えた。アルハの娘でなく、アルハの親戚の娘じゃ」
「そう! 親戚の! 親戚の娘です!」
短期間でブレたムニとの関係性を、疑うなと言う方が無理であろう。
とは言え、シラフはしがない武器屋の店員。
客のプライバシーにずけずけ踏み込んだが最後、未来の客を失うことになる。
よってシラフは、笑顔のまま聞き流した。
「そうでしたか。初めまして、私はシラフと申します。しがない武器屋の店員をやっております」
「おお、よろしく頼むぞ!」
丁寧な対応を示すシラフを見て、ムニは上機嫌に答えた。
思い返せば、人間界に来てからムニは子供扱いをされてばかりだった。
自らアルハの娘という立場を望んだため、子供扱いされることに不満はない。
とはいえ、魔王の娘として崇められながら育ってきた身分。
敬語で返事をしてくるという慣れた光景に、思わず気を良くした。
「アルハ! こやつは、いい女じゃな」
「こちらで少々お待ちください」
ムニの言葉に、アルハは苦笑いを返す。
シラフは、ムニの言葉も聞き流し、店内の奥へと入っていった。
武器屋の奥には修理のための鍜治場が存在し、修理を終えた武器は鍜治場近くの棚に保管している。
シラフは棚からアルハの剣を探すと、剣を持って戻ってきた。
「こちらです。ご確認ください」
アルハはシラフから剣を受け取ると、刃こぼれをしていた箇所を見て、きちんと修理されていることを確認する。
そして、剣を数回振り回し、三日ぶりの感触を楽しんだ。
「確かに、受け取りました」
「また、修理が必要な時にはお越しください」
「できれば、次は剣の新調で来たいですけどね」
剣を受け取ったアルハは、そのまま冒険者ギルドへと向かって、ギルドの壁に貼り付けられた依頼書を確認する。
武器を受け取る時間の分だけ出遅れているため、割の良い依頼は根こそぎとられた後だった。
「ダッシュマウスの捕獲。ダッシュマウス、小さくてすばしっこいから捕まえるの難しいんだよなあ。こっちはナイフカマキリの鎌の採取。うーん、危険度の割には、報酬が低いなあ」
アルハは依頼書を一つ一つ確認していくが、どれもこれも即決できるほどの魅力はない。
アルハ同様、依頼書を確認している冒険者たちも同様の感想で、誰もかれもが依頼書をとるのを渋っている。
依頼書をとった冒険者も、表情からは渋々という感情が見て取れる。
「アルハ! アルハ! あれはどうじゃ? 金貨がたくさんもらえるぞ?」
同じく依頼書を眺めていたムニが、一枚の依頼書を指差して叫んだ。
アルハはムニの指差す先を追い、依頼書を見て苦笑いした。
「これは、受けれないかな」
「どうしてじゃ?」
「B級向けの依頼だから」
「B級?」
意味が分からないと言った表情で首を傾げるムニに、アルハは説明を始めた。
「ぼくたち冒険者は、実力によってランクが振られているんだ。一番上がA級で、次がB級、一番下がC級」
「アルハは何級なんじゃ?」
「ぼくはC級だよ。C級冒険者が受けられる依頼は、C級向けの依頼まで。だから、このB級の依頼は受けられないんだ」
「依頼くらい、好きに受けさせればいいと思うんじゃがのう」
「実力に見合わない依頼を受けると、死ぬリスクが高まるからね。これは、冒険者が死なないためのルールでもあるんだ」
「ふうむ」
魔族には、魔王という頂点は存在するが、それ以外の階級が存在しない。
魔王の側近や、魔王に匹敵するほど強いと噂される魔族は存在するが、あくまでも自然とそう呼ばれるようになっただけ。
ルールとして定められている訳ではない。
よって、ムニは冒険者をランクで分けるルールにピンと来てはいなかったが、死ぬリスクを下げるという点だけは理解ができた。
魔族は、人間以上に相続で殺し合い、弱者が淘汰されていく世界だからだ。
「今日は、これかな」
結局アルハは、スピードゼミの捕獲の依頼書を選んだ。
スピードゼミは、蝉型の魔物であり、高速で空中を飛びまわるのが特徴である。
小型で空を飛びまわるため、捕獲が手間であるというデメリットはある。
一方、攻撃能力を持ち合わせないため、どんな冒険者であろうとも傷を負うことがないというメリットがある。
修理が終わったばかりの剣を傷つけたくないというアルハの小さな欲望が、スピードゼミのメリットを採った。
「よし、ではダンジョンに向かうぞアルハ! さっさと採取を終わらせて、飯じゃ飯!」
アルハは受付で依頼の手続きを終えて、ムニと共にダンジョンへ向かう馬車に乗り込む。
相乗りを基本とする馬車には、アルハ以外にも三人の冒険者が乗っており、剣を磨いたり居眠りをしていたりと、思い思い過ごしている。
アルハは布で剣を磨きながら、ふと思い出したようにムニの方を見た。
ムニは夕食に何を食べようか考えて、涎をタラリと垂らしていた。
「そういえばムニ。今日の依頼なんだけど、あんまり依頼料が高くないんだ」
「それがどうした?」
「だから多分、ムニが昨日と同じくらい食べられるだけの稼ぎはないと思うんだ」
「……つまり?」
「今日は、食べる量控えてもらうから」
アルハの言葉にムニは一瞬固まって、頬っぺたを両手で押さえて大きな口を開けた。
「なんじゃとおおおお!?」
馬車を包んだ大絶叫。
居眠りをしていた冒険者は跳び起きて、御者は手元が狂って馬を打つ場所を間違えた。
「ヒヒイーン!」
馬が突然速度を上げて、馬車に乗る冒険者たちの全身が大きく揺らされた。




