第12話 魔王の娘と魔物の採取をする件
「いた。スプリングスネークだ」
ダンジョンの奥へ進むと、天井の高さは高くなり、左右の壁の幅は広くなっていく。
通路と呼ぶよりは、部屋と呼んだ方が適切な広さだ。
そんな開けた空間で、スプリングスネークは跳びはねていた。
「うーん。天井が高いから、スプリングスネークが跳べてしまうな」
スプリングスネークが採取対象として人気なのは、ダンジョンという狭い場所では、尾をバネのようにして跳びはねるやっかいさがなくなるためだ。
逆を言えば、天井の高い場所では、やっかいさがそのまま残ってしまう。
「運がないなあ」
冒険者ギルドが勧めたということは、本来であればこのダンジョンのスプリングスネークは、天井の低い場所に密集することが多いということだ。
本来の住処が別の魔物に襲われたのか、それとも自然災害から一時的に避難しているのか。
いずれにせよ、想定よりも面倒な採取になりそうなことに、アルハは心の中で不満を零す。
とはいえ、撤退の選択肢はない。
ダンジョンに入って手ぶらで買えるなど、収入がゼロどころか馬車代を差し引かれてマイナスだ。
「妾が、手伝ってやろうか?」
「ありがとう。だけど、ムニは冒険者じゃないから」
「? 何か問題があるのか?」
「冒険者以外が採取をすることは、法で禁じられているんだ」
「黙っておれば、ばれるまい」
「冒険者ギルドを嘗めちゃ駄目だよ。採取した素材の状態から、どうやって倒したかくらいはバレてしまう。さっきみたいに殴る倒し方、ぼくには絶対できないよ」
「ふうむ。人間の世界は面倒じゃな」
アルハは、手ごろな大きさの石を拾い、暗闇にうっすら浮かび上がるスプリングスネークの影を確認した。
そして、光砂をまくと同時に、石を一匹のスプリングスネークに向けて投げつけた。
突然の光にスプリングスネークたちの動きが止まり、うち一匹は顔面に石を受けてその場にひっくり返った。
スプリングスネークたちはアルハの方を振り向いて、警戒した表情で上へと飛んだ。
アルハはその隙に走って、ひっくり返っているスプリングスネークに接近する。
そして、新たに拾った石で頭を潰し、その命を即座に刈り取る。
刈り取った後はすぐに上を向いて、降って来るスプリングスネークの着地点を確認する。
スプリングスネークは、外敵を見つけると咄嗟に飛びあがる性質を持つ。
咄嗟が故に一度目の跳躍に襲うという意図はなく、ただただ無意味に空中に滞在する時間――隙となる。
落下してきたスプリングスネークと目の位置があった時点で、アルハは剣を振るう。
その一閃は、五匹のスプリングスネークを巻き込み、首を斬り落とした。
「後、四匹」
着地したスプリングスネークは、アルハから離れるように後方へ跳ぶ。
四匹が四匹とも、別々の方向へと。
空中に滞在しながら、アルハの動きをつぶさに観察する。
背中を見せでもしたら、その背中目掛けで飛んでくることは確実だ。
アルハは四匹のスプリングスネークを視界に捉えつつ、脚に力を入れる。
一匹のスプリングスネークが着地し、跳んで宙に浮いた瞬間、地面を蹴って一匹に接近する。
「シュアッ!」
瞬間、残り三匹が地面で、あるいは壁でバネを押し込み、戻る勢いでアルハへと突撃した。
アルハは狙いを定めた一匹の首を斬り落とした後、その場にしゃがみ込んでスプリングスネークの突撃を躱す。
そして、壁に激突して動きを止めたスプリングスネークを、順次斬り捨てていった。
最後の一匹を斬り終えて、ようやく周囲に静けさが戻ってくる。
「まあ、上々かな」
アルハはスプリングスネークの死体を見ながら、満足げに頷いた。
剣の損傷なし、怪我もなし、素材となる部位の損傷もなし。
試験であれば十分な合格点が出る結果だ。
アルハが素材を回収するため、バネを切り落としていくのを、ムニは退屈そうに見ていた。
好奇心からついてきたものの、できることがアルハの魔物退治を見ることしかないとなれば、手持無沙汰もいいところだ。
かといって、一人で家に残っていたところで、ムニにやるべきことなどない。
ムニは小さく欠伸をして、アルハの採取が終わるのを待った。
採集を完了させて王都へ戻る。
まず向かう先は、冒険者ギルドだ。
「採取した、スプリングスネークのバネです」
「はい。確認いたします」
モガは、アルハから渡された革袋を受け取り、中身を確認する。
バネが合計、十五本。
数本手に取って確認をしてみたところ、損傷もなく、良い状態が揃っていた。
「確かに。では、一本につき銀貨一枚で買い取らせていただきます」
革袋はモガによって引き取られ、代わりに十五枚の銀貨が手渡される。
「ありがとうございます!」
アルハは上機嫌で銀貨を受け取り、受付を後にする。
銀貨は、一枚あれば一食には十分。
三枚あれば、酒とつまみも追加できる程度に大金だ。
さらに、今までは報酬からウーテルの宿に宿泊費を支払う必要があったが、マイホームを手に入れた今は不要だ。
毎月の支払い分の積み立ては必要だが、毎日の宿泊料を支払うよりはよほど安い。
「何食べようかなー」
アルハは声を弾ませながら冒険者ギルドを後にする。
アルハの頭の中には、王都の美味しい飲食店が次々と思い浮かぶ。
「何を食べるかのー」
ムニも声を弾ませながら冒険者ギルドを後にする。
そこで、アルハはようやく思い出した。
今は、ムニという大食漢が隣にいることを。
アルハの視線を受けて、ムニは不思議そうに首を傾げた。
「何をしておるのじゃアルハ? はよう、飯を食べに行こう」
「……うん、そうだね」
「そうじゃ。ナミルの分も買ってゆこう。あやつは炎の体ゆえ、燃やせるものが大好物じゃ。薬草とかな」
「……うん、そうだね。三人分かあ……そうかあ……」
アルハは銀貨の詰まった袋を覗き込む。
頭の中で今晩だけで消えるだろう食費を思い浮かべて、肩を落とした。
そして、歩く方向を変えた。
「ん? どこへ行くんじゃ? ウーテルの宿はこっちじゃぞ?」
「今日は、別の店にしようかと思ってね」
「そうか! 二日連続同じ物も飽きるし、良い考えじゃ!」
一般的に、宿に併設されている酒場よりも、大通りに店を構えている屋台の方が安価に食事を楽しめる。
アルハは記憶をたどって、安い料理を提供している屋台街に向かって歩き始めた。
「アルハ! ここじゃ! ここにしよう!」
そして、案の定アルハは道に迷って、ムニによって先導された。
ムニによって辿り着いた場所は、お高い料理を出す屋台街。
ムニの嗅覚によって、その中でも特に美味しい料理を出す、高い店を選ばれた。
結末、アルハは銀貨十五枚を使い果たした。
「はー、食った食った。では、ナムルの分の飯を買って家に戻るか」
「もうお金ない」
「え?」




