表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/43

第12話 魔王の娘と魔物の採取をする件

「いた。スプリングスネークだ」


 ダンジョンの奥へ進むと、天井の高さは高くなり、左右の壁の幅は広くなっていく。

 通路と呼ぶよりは、部屋と呼んだ方が適切な広さだ。

 そんな開けた空間で、スプリングスネークは跳びはねていた。


「うーん。天井が高いから、スプリングスネークが跳べてしまうな」


 スプリングスネークが採取対象として人気なのは、ダンジョンという狭い場所では、尾をバネのようにして跳びはねるやっかいさがなくなるためだ。

 逆を言えば、天井の高い場所では、やっかいさがそのまま残ってしまう。


「運がないなあ」


 冒険者ギルドが勧めたということは、本来であればこのダンジョンのスプリングスネークは、天井の低い場所に密集することが多いということだ。

 本来の住処が別の魔物に襲われたのか、それとも自然災害から一時的に避難しているのか。

 いずれにせよ、想定よりも面倒な採取になりそうなことに、アルハは心の中で不満を零す。

 とはいえ、撤退の選択肢はない。

 ダンジョンに入って手ぶらで買えるなど、収入がゼロどころか馬車代を差し引かれてマイナスだ。


「妾が、手伝ってやろうか?」

「ありがとう。だけど、ムニは冒険者じゃないから」

「? 何か問題があるのか?」

「冒険者以外が採取をすることは、法で禁じられているんだ」

「黙っておれば、ばれるまい」

「冒険者ギルドを嘗めちゃ駄目だよ。採取した素材の状態から、どうやって倒したかくらいはバレてしまう。さっきみたいに殴る倒し方、ぼくには絶対できないよ」

「ふうむ。人間の世界は面倒じゃな」

 

 アルハは、手ごろな大きさの石を拾い、暗闇にうっすら浮かび上がるスプリングスネークの影を確認した。

 そして、光砂をまくと同時に、石を一匹のスプリングスネークに向けて投げつけた。

 突然の光にスプリングスネークたちの動きが止まり、うち一匹は顔面に石を受けてその場にひっくり返った。

 スプリングスネークたちはアルハの方を振り向いて、警戒した表情で上へと飛んだ。


 アルハはその隙に走って、ひっくり返っているスプリングスネークに接近する。

 そして、新たに拾った石で頭を潰し、その命を即座に刈り取る。

 刈り取った後はすぐに上を向いて、降って来るスプリングスネークの着地点を確認する。


 スプリングスネークは、外敵を見つけると咄嗟に飛びあがる性質を持つ。

 咄嗟が故に一度目の跳躍に襲うという意図はなく、ただただ無意味に空中に滞在する時間――隙となる。

 落下してきたスプリングスネークと目の位置があった時点で、アルハは剣を振るう。

 その一閃は、五匹のスプリングスネークを巻き込み、首を斬り落とした。

 

「後、四匹」


 着地したスプリングスネークは、アルハから離れるように後方へ跳ぶ。

 四匹が四匹とも、別々の方向へと。

 空中に滞在しながら、アルハの動きをつぶさに観察する。

 背中を見せでもしたら、その背中目掛けで飛んでくることは確実だ。


 アルハは四匹のスプリングスネークを視界に捉えつつ、脚に力を入れる。

 一匹のスプリングスネークが着地し、跳んで宙に浮いた瞬間、地面を蹴って一匹に接近する。


「シュアッ!」


 瞬間、残り三匹が地面で、あるいは壁でバネを押し込み、戻る勢いでアルハへと突撃した。

 アルハは狙いを定めた一匹の首を斬り落とした後、その場にしゃがみ込んでスプリングスネークの突撃を躱す。

 そして、壁に激突して動きを止めたスプリングスネークを、順次斬り捨てていった。

 最後の一匹を斬り終えて、ようやく周囲に静けさが戻ってくる。


「まあ、上々かな」


 アルハはスプリングスネークの死体を見ながら、満足げに頷いた。

 剣の損傷なし、怪我もなし、素材となる部位の損傷もなし。

 試験であれば十分な合格点が出る結果だ。


 アルハが素材を回収するため、バネを切り落としていくのを、ムニは退屈そうに見ていた。

 好奇心からついてきたものの、できることがアルハの魔物退治を見ることしかないとなれば、手持無沙汰もいいところだ。

 かといって、一人で家に残っていたところで、ムニにやるべきことなどない。

 ムニは小さく欠伸をして、アルハの採取が終わるのを待った。




 採集を完了させて王都へ戻る。

 まず向かう先は、冒険者ギルドだ。

 

「採取した、スプリングスネークのバネです」

「はい。確認いたします」


 モガは、アルハから渡された革袋を受け取り、中身を確認する。

 バネが合計、十五本。

 数本手に取って確認をしてみたところ、損傷もなく、良い状態が揃っていた。


「確かに。では、一本につき銀貨一枚で買い取らせていただきます」


 革袋はモガによって引き取られ、代わりに十五枚の銀貨が手渡される。


「ありがとうございます!」


 アルハは上機嫌で銀貨を受け取り、受付を後にする。

 銀貨は、一枚あれば一食には十分。

 三枚あれば、酒とつまみも追加できる程度に大金だ。

 さらに、今までは報酬からウーテルの宿に宿泊費を支払う必要があったが、マイホームを手に入れた今は不要だ。

 毎月の支払い分の積み立ては必要だが、毎日の宿泊料を支払うよりはよほど安い。


「何食べようかなー」


 アルハは声を弾ませながら冒険者ギルドを後にする。

 アルハの頭の中には、王都の美味しい飲食店が次々と思い浮かぶ。


「何を食べるかのー」


 ムニも声を弾ませながら冒険者ギルドを後にする。


 そこで、アルハはようやく思い出した。

 今は、ムニという大食漢が隣にいることを。

 アルハの視線を受けて、ムニは不思議そうに首を傾げた。


「何をしておるのじゃアルハ? はよう、飯を食べに行こう」

「……うん、そうだね」

「そうじゃ。ナミルの分も買ってゆこう。あやつは炎の体ゆえ、燃やせるものが大好物じゃ。薬草とかな」

「……うん、そうだね。三人分かあ……そうかあ……」


 アルハは銀貨の詰まった袋を覗き込む。

 頭の中で今晩だけで消えるだろう食費を思い浮かべて、肩を落とした。

 そして、歩く方向を変えた。


「ん? どこへ行くんじゃ? ウーテルの宿はこっちじゃぞ?」

「今日は、別の店にしようかと思ってね」

「そうか! 二日連続同じ物も飽きるし、良い考えじゃ!」


 一般的に、宿に併設されている酒場よりも、大通りに店を構えている屋台の方が安価に食事を楽しめる。

 アルハは記憶をたどって、安い料理を提供している屋台街に向かって歩き始めた。






「アルハ! ここじゃ! ここにしよう!」


 そして、案の定アルハは道に迷って、ムニによって先導された。

 ムニによって辿り着いた場所は、お高い料理を出す屋台街。

 ムニの嗅覚によって、その中でも特に美味しい料理を出す、高い店を選ばれた。

 結末、アルハは銀貨十五枚を使い果たした。


「はー、食った食った。では、ナムルの分の飯を買って家に戻るか」

「もうお金ない」

「え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ