第二話
地獄のような空気となってしまった合コンの翌日、三輝也はいつも通り出社する。
「おはようございます」
「よう、ミッキーおはよう!」
林田が三輝也の元へ。
「おお、林田!昨日は素敵な出会いを提供してくれたこと、感謝する」
「あ、あぁ…まあ喜んでくれたなら何よりだけど」
三輝也は今までに見た事ないくらい清々しい顔をしていた。
「てかさ、ミッキーいきなりプロポーズなんかするからびっくりしたよ(笑)」
「僕はララさんに運命を感じたんだ!それであれば事は早い方が良かろう?」
「いや…さすがに順序ってものがあるだろ…ミッキー、今まであえて聞かなかったけど…彼女とかいたことないだろ?」
「彼女?」
林田の言う通り、三輝也には恋愛経験はない。
もちろんではあるが、彼にも人並みに恋愛をしていてもおかしくない学生時代はあった。
三輝也は容姿端麗で頭脳明晰、更には運動神経も抜群であった為、女子人気は高かったのだ…最初だけは。
高校時代、入学早々その容姿から女子生徒から注目の的となっていた。
『ねぇねぇ、3組の七尾君超カッコよくない?』
『ねー!あのミステリアスな雰囲気とかたまんないよね!』
中学生の時はテストで“~を答えよ”のような命令が気に食わないと全てのテストを白紙で出したり、体育では無駄な体力を使いたくないと一切参加しなかったりで、問題児として有名であったが、両親と揉めに揉めて進学した高校では考えを改め、何でも真剣に取り組んでみようと決めた。
その結果、最初の中間試験では学年1位、体育でも誰よりも目立っていた為、女子生徒人気は更に過熱した。
そんなある日の放課後、一人の女子生徒が三輝也に声を掛ける。
「あの、林田君!」
その女子生徒は学年一のマドンナと呼ばれる存在であった。
「ん?何だい?」
「あ、あの…急にごめんなさい!私、林田君を初めて見た時からずっと気になってて…もし良かったら私と付き合ってください!」
放課後の教室、突然のマドンナからの告白。
これぞ青春!といったこのシチュエーションは普通の男子高生なら舞い上がるとこだろう。そう、普通なら。
「ふむ、僕は今君の事を初めて見たが全く気にならない。それで?付き合ってほしいとは何だ?買い物か?それとも他の用事か?」
「…え、えっと…私を林田君の彼女にしてほしいって事なんだけど…」
「彼女?彼女になって何をしたいんだ?それを明確に教えてほしい。僕にはやりたい事がたくさんあるんだ。無駄な事に時間を割くことはしたくない」
「む、無駄って…そんなにまでしてしたい事って何?」
「今は紅しょうがだな」
「紅しょうが?」
「紅しょうがに合う料理やお菓子をランキングにしている。最低でも1000位まではつけるつもりだ!途中だが50位から発表していこう!第50位は…」
「…」
女子生徒は一気に冷め、ランキング発表を始めた三輝也の元をそっと離れ、足早に去って行った。
翌日には三輝也は学年中から敬遠される存在となったのだ。
「いたことはないな。そもそも必要と感じた事がない」
「だろうな…普通はさ、まず付き合ってさ、お互いをよく知って、それから何年かしてから結婚しようってなると思うんだけど?」
「そうか?僕はそうは思わないがな」
「その心は?」
「結婚してからお互いを知ってもいいじゃないか?お互いよく知ってる仲だとそこから知る事はマイナスな事しかなさそうだ。だったらいっそ知らない事が多い方がお互いの良いところを知る事から始められるからマイナスになる事は少ないし、何より新鮮でいいじゃないか」
「うーん、まあ考え方はそれぞれってことか」
「そこでだ!僕はマニュアルを作ってきた!」
「は?マニュアル?」
「そうだ!僕には恋愛の経験がない。だから、今後ララさんと結婚する為にマニュアルを作ってきたんだ」
すると三輝也はスマホのメモにビッシリと書かれたマニュアルを林田に見せた。
「…これ、一晩で作ってきたのか?」
「そうだ。林田にも共有しておこう」
『~♫』
林田のスマホにメッセージが入る。
「いや、いらねーし!でもミッキーさ、こんなん作るのはいいけど、あれからララさんと特に何もなかったろ?」
「何を言う!今度食事に行く約束をしたぞ!」
「え、いつの間に!?」
合コンの日、三輝也は突然のプロポーズをして場が凍りついた時のこと。
「あはは!ミッキーは面白いなぁ」
「と、とりあえず今日はこの辺でお開きにしよっか」
何とも言えない空気を察知した林田が切り出す。
「う、うん、そうだね!またの機会にね」
女性陣も林田に続く。
「そ、それじゃあまた!」
「うんうん、またねぇ~!今度ご飯でも行こうねぇ~!」
ララが元気な声を上げると、その場はそこで解散となったのだった。
「…ミッキー、社交辞令って知ってるか?」
「何だと!?これは脈アリというやつではないのか?」
「いや、どこに脈感じたんだよ…そもそもララさんと連絡先の交換したんか?」
「連絡先?」
「そうだよ、だって連絡先知らないでどうやって食事に行くんだよ?日取りは?場所は?」
三輝也はマニュアルを見返す。
「…なるほど」
「そこ、マニュアル必要か?」
「ではこれから対策に入る」
そう言うと三輝也は足早にデスクに戻って行く。
林田は三輝也から送り付けられたマニュアルに目を通す。
「…奇人の恋愛マニュアルだな」
同時刻、長盛製菓オフィスにて。
「ララ、おはよー!」
「おっはよー!」
そこには昨日のギャル仕様のララとは違い、ナチュラルメイクに黒髪、しっかりとスーツを着こなしており、爪も昨日のような長く派手なものではなく、清楚なOLといった感じである。
「やっぱプライベートララの後のこのギャップはすごいわ(笑)」
「あはは!この姿で気付かれたことないからねー(笑)」
「あ、ララ、そういえば昨日はありがとね!」
「ううん!こちらこそだよー!楽しかったぁ!!」
「プロポーズされてたけどね(笑)」
「あはは!でも嫌われた訳じゃないしいいよ(笑)」
「七尾さん、カッコよかったけど…ちょっと変わってる人だったね」
「うーん、私はミッキー面白いしいい人だと思うけどねー」
「ララには悪い人いないじゃん」
「そ、そんなことないよー!オレオレ詐欺とかする人は悪い人だよ!」
「極端すぎない?ピンポイントで…」
「と、とにかく、ミッキーはいい人だと思うよ?」
「だといいけど?待ち伏せとかされたりして…」
「あはは、それはないっしょー」
するとそこに上司の千田がやって来て、ララ達に声を掛ける。
「ほらほら、お前らもう始業時間だぞ」
「はーい」
「……」
ララは千田の視線を感じたが、気にせず仕事に取り掛かった。
終業時間が迫った頃、林田は三輝也の元へ向かっていた。
「お疲れ様でーす。あれ?ミッキーは?」
「あ、林田さん、お疲れ様です。課長なら用事があるとの事で先に退勤されましたよ」
三輝也の部下の女性社員が答えた。
「そうか、ありがとう!」
(何だ…せっかくララさんの連絡先何とかしてやろうと思ったのに)
ふと林田は三輝也から送られてきたマニュアルを見る。
【七尾三輝也式恋愛マニュアル】
・偶然街中で再会し、やはり運命であると確定付ける
「アイツ、まさか…」
林田が嫌な予感を感じている頃、三輝也はとある場所でその時を今か今かと待っていた。
(ここなら大丈夫だろう。さすがに正面では不自然過ぎるからな)
三輝也はとある建物の正面玄関から数メートル程離れた場所でその身を潜めていた。
すると、三輝也の目にある人物が映る。ララである。
三輝也は足早にララの元へ向かう。
「ララさん、お疲れ様です!」
「ほえ?あ、ミッキー!どしたん?こんな所で」
「偶然ですね!たまたま通りかかったらララさんが居たもので…」
「偶然…?」
ララは建物に目を向ける。そう、ここはララが勤める長盛製菓だ。
「ララさん、今日は食事の約束をと思って参りました!」
「あははは!参りましたとか言っちゃってるじゃーん!偶然とか言ってたのにウケるー(笑)」
「あ…」
三輝也は「しまった!」と思ったが、もう既に発言してしまった為、今更取消すことは難しいだろう。
「ミッキー私のこと待っててくれたの?そういえばウチら連絡先も交換してなかったしね…いいよ!ミッキー、良かったら今からご飯行く?」
「是非!よろしくお願いします!!」
三輝也は深々と頭を下げた。
「あはは!堅いってー!!やっぱりミッキーは面白いなぁ」
(ララさん、やはり素敵な人だ!僕の想定をこうも簡単に越えてくるなんて)
その後、駅近くの居酒屋に三輝也とララの姿があった。
2人の元にグラスが運ばれてくると、お互いグラスを合わせる。
「お疲れ~!」
「お疲れ様です」
「ミッキー何食べるー?」
「僕は全てララさんと同じものでお願いします」
「えー(笑)ミッキーの好きな物とかわかんないけどー」
「ララさんの好きな物が僕の好きな物です」
とは言ったものの、三輝也は普段酒の付き合いなど、上司としか行かないため、こういう場では何を頼むべきか、どのようにしたらいいかがわからなかった。
(こんなことなら普段林田の誘いにも乗っておくべきだったか…)
「じゃあホントに私の好きな物頼んじゃうよ?ミッキー食べれない物とかない?大丈夫?」
「ここにある物は全て人間が食べる物なので、食べれない物はないです!」
「あははっ!そーゆうことじゃないんだけど(笑)でもそれな!」
その後、酒を片手に話していると、
「そいえばさ、ミッキーよく私ってわかったよね?」
「と、言いますと?」
「私こないだとメイクも髪も違うし、格好も違うし」
「僕がララさんをわからない訳ないじゃないですか」
「今まですぐわかった人なんていないよ?写真見せた訳でもないし、それにミッキーとはこないだが初対面なのに…」
三輝也は不敵な笑みを浮かべた。
「ララさんですから」
「理由になってないよー(笑)不思議な人だなぁ」
「変わっているとはよく言われますが、僕からしたら周りの皆さんが変わってると思います」
「それを言ったらみんなそうでしょ(笑)」
2人は食事を終えると、三輝也は会計を済ませようとレジへ向かう。
「あ、ミッキー!いくらかな?」
ララは急いで三輝也を追いかける。
「支払うのは男の義務…とは言いませんが、今日は僕に出させてください。本当に楽しい時間を過ごさせて頂きましたので」
「楽しかったのは私もだよー」
「それでは次何かの時はお願いします。なので今日は僕です」
「あー、それってまた会ってくれるってこと?ミッキーなかなかやるなぁ?」
「あ、いや、決してそんなつもりは…今度はいつお会いできるでしょうか?」
「あはは!そしたら今度の日曜日とかどっか出掛けてみる?ミッキーの私服も見てみたいし!」
「もちろんです!では日曜日よろしくお願いします!」
そして、三輝也は支払いを済ませ店の外に出る。
「それじゃあミッキー、また連絡するからねー」
そう言うとララは手を振りながら人混みの中へ消えて行った。
三輝也はララの姿が見えなくなるまで見送ると、スマホを確認する。
【七尾三輝也式恋愛マニュアル】
・支払いはスマートに。相手が申し訳なさそうにしだしたら次回の約束を取りつける。
三輝也はフッと微笑む。そしてすぐに我に返る。
(私服…私服だと?僕は一体何を着ていけばいいんだ!?)
とりあえず明日林田に聞いてみようと考えながら三輝也は家路につくのであった。




