第一話
奇人... 奇人とは、性格や行動が奇矯で普通ではなく、一般の人とは異なっている人のことである。
[Wikipedia]
七尾三輝也29歳。彼もまたその内の一人であろう。
幼稚園時代の話である。
「はーい、では今日はこのブロックを使って好きなものを作ってみましょう!」
『はーい!』
「お家でもお城でも何でも構いませんよー!」
園児達は皆、それぞれ好きなものを一生懸命作っていた。
そんな中三輝也は一人、部屋の後ろの方で皆に背を向けて何か悩んでいるようだった。
「三輝也君、どうしたのかな?皆頑張って作ってるよ?」
「.....」
「三輝也君?」
「...この中にピッタリのお城を作るにはどうしたらいいかな?」
三輝也はロッカーを見ながら呟いた。
「えーと...皆机の上で作ってるから、三輝也君も向こうで一緒に作ろっか?」
「どうして?」
「えーと...」
「先生好きなもの作ってって言ったよ?」
「.....」
小学生の頃は遠足等で皆とはぐれてしまうのはしょっちゅう。行事としての目的よりも自分の興味のある方に行ってしまうのだ。
中学時代には体育の着替えの際、女子は教室、男子は廊下に納得出来ず、全校集会で突如男女専用更衣室を作るべき!と壇上で主張してみたり、高校受験の頃には中学卒業したら就職すると言い出し、家族会議となることも。
「三輝也!いきなり就職したいなんて、どういうことだ!?」
父に詰められる三輝也。
「だって父さん、これ以上学校へ行くことに何の意味があるんだ?最終的には皆社会に出るんだろ?だったら少しでも早く社会に出る方がいいじゃないか!」
「そういうことじゃなくてだな...」
「じゃあどういうことなんだよ!」
この後深夜までこのやり取りは続き、頼むからせめて高校は言ってほしいと、土下座する勢いで懇願された為、三輝也は渋々高校受験をすることに。
そんな彼も何やかんやで大学まで進学・卒業をし、今では大手広告代理店で若くして課長の座まで登りつめていた。
奇抜な発想で実績を伸ばし、上司にゴマすりは社会において当たり前と考えている彼は評価が非常に高く、異例の早さでの出世となったそうだ。
部下に対しても非常に丁寧に接する為、彼は周囲からの評価は高かった。そう、仕事においては...
「七尾課長、こちらの書類のご確認お願いします」
「うん、ちょっと待ってね」
「.......いいね!でもここだけちょっと変えようか?えーとね...」
三輝也は部下に丁寧に指摘する。
「課長、ありがとうございます!すぐ訂正してきます」
「焦らなくていいからね?」
一人の男性社員が近づいてくる。
彼は林田京平といって、三輝也の同期である。
「ミッキー、今晩どうよ?たまには飲みに行こうぜ?」
「ミッキーはやめろと言ってるだろう?あとお前と飲みに行って僕に何のメリットがあるんだ?」
「そう言うなよ。お前こないだは部長と飲みに行ってたじゃん?」
「上司に媚びを売るのは当然だ!僕の評価に直結する。だから趣味の時間を潰してでも行く価値があるんだ」
「そういうことはハッキリ言うもんじゃないぞ?大体お前の趣味って何だよ?」
「今は円周率を覚えることだ」
「は?円周率?それ楽しいのか?」
「楽しいぞ!覚えた時の快感が堪らないな!」
「うーん、理解できん」
「いいか?いくぞ?3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286208998628034825342117……」
「いや、だるいって!」
「合ってたか?」
「わかるか!!」
三輝也は入社以来、林田とよく話すがプライベートな付き合いはほとんどない。
こんな感じなので、同僚達からは仕事は出来るがプライベートは変わり者という見方をされていた。
とある日の昼休み、三輝也に声をかける一人の女性社員がいた。
彼女は大田原美紅。可愛らしい見た目で甘え上手、そんな彼女からの誘いとなると男性社員は皆断れないようだった。
「七尾課長、お疲れ様です!」
「ああ、大田原さん、お疲れ様」
「七尾課長、えっと...その...」
「どうした?何か言いづらいことか?」
「その...課長!今夜良かったら一緒にお食事に行きませんか?」
「...食事?」
美紅はうるうるとした瞳で三輝也を見つめる。
すると、その様子を見ていた周りの女性社員達がヒソヒソと話し始める。
「うわぁ...美紅今度は遂に七尾課長までいったかぁ」
「ほんと、見境ないね...この前は主任、その前は田中君、その前は...」
どうやら美紅は社内の色々な男性社員達に言い寄っていたそうだ。可愛らしい見た目とは裏腹に、なかなかえげつないということで、他の女性社員からは敬遠されていた。
三輝也は考え込んでいた。
「...課長?」
「ふむ、わからないのだが...」
「え?」
「僕が君と一緒に食事に行くメリットがわからない」
「えーと...」
「終業後はプライベート時間だ。僕にはやりたいことがたくさんある。人生という時間は有限だ。そんな限られた貴重な時間を割いてまで君と食事に行くメリットはあるのかと聞いてるんだ」
「き、きっと楽しいと思います!」
「楽しい?楽しいかどうかは僕が決めることだ。君は僕を確実に楽しませれると言うのか?どうやって僕を楽しませてくれるつもりなんだ?」
「え、と...他愛のないお喋りとか...」
「他愛のないお喋り?それなら今ここで話せばいいではないか?他愛のないことならすぐ済む話だろう?」
「え、えと...その...」
「用がそれだけなら失礼するよ」
「あ、課長...」
三輝也はその場を去る。
「うわぁ、美紅撃沈じゃん」
「七尾課長...美紅のことわかってたのかな?毅然としててかっこよかったー」
三輝也の知らないところで女性社員からの評価が上がっていた。
その後、何やら楽しげな表情で林田が三輝也に話しかけていた。
「おう、ミッキー!何で、美紅ちゃんの誘い断ったんだ?」
「林田、見ていたのか?彼女と食事に行ったところで何のメリットもないだろう?僕は無駄なことに時間を使いたくないんだ」
「別に食事くらいいいと思うけどなー。もしかしてお前、女の子に興味ないとか?」
「人並みにはあるぞ?」
「人並みって何だよ...」
「エロ動画を見たりはする」
「そういうことじゃねーと思うけど...まあいいや。それよりお前に相談があるんだよ」
「相談?仕事の話か?」
「ま、まあそうだな。いや実は今夜接待で会食があってさ、一人こっちから欠員が出ちまって...良かったらミッキーに来て欲しくてさ。ほら、お前課長だし!」
「ふむ、接待か...相手はどこの企業なんだ?」
「あ、あぁ、長盛製菓だよ」
「長盛製菓か...林田のお得意さんだな」
「そうなんだよ!ウチの都合でキャンセルってのもあれだしさ、ここは課長のお前が来てくれれば会社としての面目も立つだろ?」
「なるほど、わかった。そういう事なら協力しよう」
「ありがとう!ミッキー!」
「ミッキーはやめろ、あと何か僕が準備しておくものはあるか?」
「いや大丈夫だよ!居てくれるだけでも大丈夫だから」
「そうか、承知した」
そして定時を迎え、三輝也は林田に連れられ会場となる小洒落れたレストランに到着した。
既に二人の女性が店の外で待っていたようだった。
「あ、京平君!お疲れ様ー!」
「お疲れ様!ごめんね、待たせたかな?」
「私達も今来たとこだよ。あと一人ちょっと遅れるんだけど...」
「全然大丈夫だよ、今日は楽しもうね!」
するとそこに一人の男が。
「よう!京平、久しぶり!あれ?高田は...」
「お、おう!おう!慎也!お疲れ!!まあまあいいからいいから!!」
林田は随分と慌てた様子だった。
そんな様子を見ていた三輝也は何となく違和感を覚え、林田に問うことにした。
「林田、ちょっといいか?」
「ん?あぁ、どうした?ミッキー」
三輝也は女性達に背を向けるようにして林田に、
「随分とカジュアルな接待だな?」
「あ、えーと...」
「彼は?ウチの社員ではないようだが?」
「あ、アイツは俺の大学の同期で...」
「大学の?何故ウチの接待に来ているんだ?」
もうこれ以上隠しきれないと思ったのか、林田は頭を下げ、
「ごめん、ミッキー!実はこれ...合コンなんだ!」
「合コン...だと?」
「ごめん、ミッキー!」
「お前、嘘をついたのか!」
「いや、彼女達が長盛製菓の社員であることは本当だよ」
「そういうことじゃないだろう!お前は接待と言ってたじゃないか!」
「ま、まあ、ある意味?接待というか...」
「...帰る」
三輝也はその場を後にしようとする。
「ちょ、ちょっと待てって!お前が居なくなっちまったら...」
「居るだけでいいのだろう?だったら猫でも座らせておけばいいじゃないか」
「何で猫なんだよ!?そんな事言わないでさぁ...」
二人が言い合う様子を見た慎也は心配になり、二人に声をかける。
「あの、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないだ...」
その時元気な女性の声が響き渡る。
「ごめーん!遅くなっちゃったぁ!!部長がしつこくてさぁ」
「あ、ララお疲れ様ー!」
「ッ!?」
どうやら遅れていたもう一人の女性が到着したようだ。
金髪に派手なメイク、暗闇でも目立ちそうな派手な色の服に指の長さくらいありそうなネイル。他二人の清楚な見た目の女性と全く違う彼女の姿を見た林田と慎也は、
(ギャルだ...)
(ギャルだ...)
と、同時に心の中で呟いた。
呆気に取られる二人を他所に、一人全く違う反応をしている者がいた。
(な、何て...何て素敵な女性なんだ!)
三輝也である。
(他とは一線を画すこのスタイル、きっと自分をしっかり持っていることだろう。それに暗闇を照らすようなこの明るさ...素敵だ)
三輝也はすっかり心を奪われていた。
「京平君、ウチら揃ったけど...大丈夫?」
「あ、あぁ、えっと...あれ?いない?」
さっきまでここに居たはずの三輝也がいない。
「はい、予約の林田です。全員揃いましたのでよろしくお願いします」
三輝也は受付を済ませていた。
「何をしているんだ?お前達。女性をいつまでも外で待たせるもんじゃない。早くしないか!」
「お、おう...」
「さあ、皆さんこちらへどうぞ」
三輝也は女性陣をエスコートする。
席に付き、飲み物を注文する。
飲み物が到着し、合コンは開始。それぞれ自己紹介をしていた。
「七尾三輝也です。今の趣味は円周率です。よろしくお願いします」
「え、円周率?」
「えーと...」
困惑する二人の女性。しかし、
「えー?円周率?へぇ、それで何するのぉ?」
興味津々な様子で聞き返す元気な声。
「円周率を覚えるのが趣味です。3.141592653589793238462643383279502884...」
「いや、誰も聞いてないって!?」
即座に林田がツッコミを入れる。
「へぇ!すごいねぇミッキー!!それだけ自信満々なんだからきっと合ってるね!!」
(僕の趣味まで理解してくれるなんて...彼女はきっと僕の運命の人だ!)
続いて女性陣の自己紹介だ。
「湊ララでぇーす!気軽にララって呼んでね!!とりあえず私は...楽しいことが好きかなぁ」
(ララさんというのか。楽しいこと...)
その後は和やかな雰囲気のまま合コンは進み、三輝也は女性陣(特にララ)の話にうんうんと優しい笑顔で頷いていた。
(ララさん、素敵だ!僕にはもう...ララさんしかいない!)
そして時間となり会計を済ませた後、
「この後どうする?良かったら次行こうか!」
「私は大丈夫だよ!」
「私も!」
「ウチもおっけい!」
「よし、それじゃ...あ、三輝也は大丈夫か?」
「.....」
「三輝也?」
「.....」
「ミッキーどしたん?お腹痛いの?」
ララが優しく声をかけると、三輝也は真剣な表情で、
「ララさん!!」
「あ、はい...」
「ララさん、僕と...」
「うんうん!」
「僕と結婚してください!!」
三輝也は大きな声で直角なお辞儀をしながら言い放った。
「え?」
「え?」
「え?」
三輝也の冗談とは思えないあまりにも真剣な告白に、
他四人は固まってしまった。
「あはは、ウケる!ウチプロポーズされちった」
「ちょ、ちょっ!」
林田は三輝也とララの間に割って入る。
「ミッキー!お前何言ってんだよ!?冗談のつもりか?」
「冗談なわけないだろう?僕は真剣だ」
「そうだった...お前はそういう奴だったな...」
「あはは!ミッキー面白いなぁ」
三輝也の突然の公開プロポーズによって場が凍りついてしまい、とてもこの後...と言える空気でなくなってしまった為、この日はここで解散となったのであった。




