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第9話 命の選択、失われた光

1分、また1分と時間が過ぎていく。

その間に、男性の体はハイ・ヒールの魔法に反発を始め、徐々に傷が復活し始めていた。

最初は「平気だ」と言っていた彼も、次第に表情が曇っていくのが分かった。

そして、目がうつろになり、今ではもう意識を失ってしまっていた。



「……ラミン、どうにかならない?」



「聖魔法が使えぬ今、腹の中から精霊石を取り出すしかあるまい。

治癒師の役目だが……帰還石で戻ったところで、王都までの距離を考えれば、間に合わぬだろうな。」


「だよな……

間に合わないよなぁ。ヤバイぞこれは……」



やっぱり、解決するには腹を開いて精霊石を取り出すしかない。

だけど、今できることといえば、帰還石でダンジョンの外に出て、王都へ急ぐことくらい。

でも、ここから1時間も背負って帰る間に、彼はきっと死んでしまうだろう……

絶望的な状況を前に、俺は自分の無力さに苛立った。


こういう時、転移魔法が使えたら……

転移魔法は“神の贈り物”と呼ばれ、使える人間は滅多にいない。

そんな魔法が使えない時点で、俺はやっぱり役に立ててないんだよな。

そう思って気持ちまで沈んでいた、その時だった。



「いいか、オリオン。これから言うことを実践するのだ。

我もやったことはないが、試してみる価値はある。」


「何か、いい案があるのか?」


「先ほど熱いと感じた場所に、精霊石は留まっておる。

そこ向けて魔法陣を作り出し、小さな小さな雷魔法を放て。

遠隔魔法の応用だ。遠隔魔法の時も見えぬ場所に魔法陣を作り出すだろう?

あれと同じ要領だ。」


「遠隔魔法の応用か……っていうかなんで雷魔法?」


「光魔法は相性が悪い。

闇魔法は、この男の体を支配しかねん。

他の属性も、臓器に過剰な負担をかけやすい。

火などもっての外だ。焼け死ぬぞ。

ごく小規模の雷であれば、精霊石を破壊した後でも胃を傷つけにくい。

まぁ、貴様のコントロール次第だがな。


精霊石は、破壊された時点で消滅する。

その瞬間を狙ってハイ・ヒールをかけるのだ。

そうすれば、この男は救われる。……精霊石は消えてしまうがな。」


「どちらも救うなんて、無理だよな……

でも、目の前の命を救わなきゃ。やってみるよ。」



選択肢を失っていた俺に、ラミンはやったことはないがと、一つの提案をくれた。

それは、一方の命を救えなくなるかもしれない、酷な選択だった。

だけど、目の前の命を救わないということは、俺にとっては殺人と同じだった。

だから、俺はラミンの指示に従うことにした。


男性の腹の上に手を置き、じっと意識を集中させる。

すると、再び右手のひらが熱くなった。

ここだ――

この場所の体の中に、魔法陣を発動。



「……頼む。ここであってくれ!」



これは俺の感とコントロール次第。一歩間違えば、雷が胃を攻撃してしまう。

頼むから当たってくれ!そう願いながら、最初級魔法“サンダー”を発動。

その瞬間――



パリンッ!



体内で微かな音が響き、精霊石が光の粒子となって散らばっていくのを感じた。



「オリオン!ハイ・ヒールだ!」


「ああっ!」



ちゃんと砕けてくれたとホッとした瞬間、すかさずラミンが叫び、俺はハッとしてハイヒールを放った。

すると、何の反発もなく、回復の光が男性の体内に染み渡っていく。

復活していた傷は再び塞がり、青白かった顔にも血色が戻り、流れていた血も止まった。

そして、浅かった呼吸が安定したのを確認し、俺は睡眠魔法で彼を眠らせた。

すべてが終わった俺は、ドッと冷や汗をかき、その場に座り込んだ。



「はぁ……はぁ……何とか、できた。」


「貴様の魔力ならば当然だ。

だが、よくやった。これでこの男の命は繋がった。

あとは……」


「……彼女を救うための精霊石は消えてしまったな。

俺は、一つしか救えなかった……」



ラミンは「よくやった」と言ってくれた。

でも、精霊石を壊してしまったことで、この男性の願いが消えてしまったことへの罪悪感と、

手のひらに残る精霊石が消滅した時の感覚が、俺を包み込んでいた。



「感傷に浸るな、オリオン。

確かにこの男の希望は消えたが、命は繋いだだろうが。

貴様は最善を尽くした。」


「……そう、だよね。

それに、この人にとって確かに光の精霊石は希望だったけど、

待っている彼女にとっては、この人が生きて帰ることが希望だもんな。

でもさ……見つからないかな?精霊石。」


「それは貴様が一番よく分かっているのではないか?

我はこのダンジョンに来たことがない。

どこに何があるかなど、分からぬ。」


「確か……この小部屋みたいな部屋が、まだいくつもあるんだ。

そこにある宝箱に入っていることがあるけど。」



申し訳ないという感情に支配されていた俺は、ラミンに「最善を尽くした」と言われて、

この男性の命を救うことが依頼者の希望でもあったことを思い出した。

精霊石はなくなってしまったけど、命より優先するものなんて、ないよな。

そう思いながらも、どこかに精霊石が残っていないかと考えていた。


だけど、たとえ可能性があったとしても、一度は王都に戻らなければならない。

ハイヒールで回復させたとはいえ、俺は専門家じゃない。

きちんと体を診てもらわなければ、何が起こるか分からない。


そう思い、俺は帰還石でこのダンジョンを出ることを決めた。

この男性の願いを壊してしまったことは申し訳ないけど……

チャンスがあれば、精霊石を探しに来よう。

そう心に決めながら、俺は男性を背負い、王都へと戻り始めた――








「ハルクさん!アリア!戻りました!

王立治癒院に連絡を取って、運んでください!」


「オリオンさん!無事に戻ってこられて良かったです!

まさか1日も経たずに戻ってくるとは思いませんでした!」


「5階層にいたから。応急処置をして連れて帰ってきた!」



あれから1時間以上かけて王都に戻り、真っ先に冒険者ギルドへ向かった。

受付にいたアリアに声をかけると、すぐさま使いを出してくれて、数分で王立治癒院の関係者が到着。

王立治癒院は基本的に紹介状がないと診てもらえないけど、ギルドからの要請で、しかも緊急性があれば動いてくれる。

……大きな治癒院あるあるだよな。


なんて思いながら、救急隊に状況を説明すると、

なぜかギョッとされたけど「いいから早く運んでくれ」と言って、男性を託した。

その安堵感からか、一気に体が重くなり、近くの椅子にドカンと座って思い切り背伸びをした。



「はぁ……疲れたー。なんか一気にきたな。」



あまりにも体がだるくなったもんだから、こっそりステータスを広げてみると、

59000あった魔力数値が29000まで減っていて「なるほどな」と思った。

今までここまで一気に魔力が減ったことがなかったから、体がびっくりしたんだろう。


それほど、あの治療には魔力がかかっていたってことか……

でも、この数値があったおかげで精霊石を取り出せたんだ。

鍛錬してきた結果、ちゃんと役に立てたんだなって実感できたのが、ちょっと嬉しかった。



「オリオン!まさかその日のうちに戻ってくるとはな!ありがとうな!」


「ハルクさん!低階層にいたので助かりましたよ。

でもまさか、精霊石を飲み込んでるとは思わなくて……」


「さっきあいつらに言ってたな?

ちゃんと聞こえなかったんだが、どうやって治療したんだ?

お前は治癒師でもなんでもなかっただろう?」


「あー……俺、使えるんですよ。聖魔法。」


「は?」


「んーと……

前に鍛錬の話をしたと思うんですけど、あの時に習得してるんです。聖魔法。」


「んん?」



何とも言えない達成感に浸っていると、二階からハルクさんが降りてきて、俺の帰還の速さを褒めてくれた。

そして治療方法を聞かれた俺は、どうやって男性の体の中から精霊石を取り出したのかを説明。

すると、ハルクさんもアリアも固まってしまい、俺は首を傾げた。


俺はラミンに言われた通りにやっただけだから、なぜそんな反応をされるのかいまいちピンとこなくて。

すると、ラミンが俺の頭の中に話しかけてきた。



【バカたれ。貴様が行った治療は、王立治癒院でも前例のないやり方だ。

我の記憶を取り出して教えた方法なのだから、誰も知らぬし、誰もできぬ。

そんな治療をやってのけたと説明すれば、皆が固まるのは当然だろうが……

貴様の願うスローライフから遠のく行為だぞ。】


(ええ……マジかよ。言うんじゃなかった……

もっと早く言ってよー。)



ラミンは、俺が話したことは常識外れの治療法だと言い、

これからの生活に影響が出るとため息を吐いた。

それを知っていれば、俺だって適当にごまかしたのに!!

絶対にやばいやつじゃん!

そう思いながら、ハルクさんとアリアに苦笑いを浮かべた。



「オリオン……お前、どんな鍛錬したらそうなるんだ?」


「え?ダンジョンで鍛錬するとこうなります。」


「ならねぇよ!誰がやったって、ならねぇよ!!」


「そうですよオリオンさん!

今のオリオンさんなら、王廷治癒師にもなれますよ?!」


「そうなの?嫌だけど。」


「嫌だけどじゃないですよーーー!それくらいのことを成し遂げたってことです!

これは絶対に王立治癒院が黙ってませんよー?!」


「やだやだ!じゃあ俺帰るわ。俺の家の場所は教えないでね。じゃあ!」


「オリオン!ったく、あいつは本当に……」



ハルクさんとアリアは、俺の能力に呆れながらも「王廷治癒師にもなれる」と真剣な表情で言っていた。

そんなことになったら、俺の人生がまたおかしくなる!

そう思った俺は、これ以上ここにいたら治癒院の奴らが来るかもしれないと思い、早々にギルドを立ち去った。


帰り道、ラミンは「貴様の能力を知らしめた、いい依頼だったな」と満足そうに俺の頭の上で呟いていた。

何でだよ!

そうツッコミながら、俺は周囲に治癒院の関係者がいないことを確認しつつ、早歩きで家へ向かった。


誰にも見られていないことを確認して、そっと家に入る。

今日はもう、どこにも行かないぞ!

まともにご飯も食べてないし、ゆっくりご飯を作って、風呂に入って、寝る!

そう自分に言い聞かせながら、ひとまずベッドにダイブした――


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