第7話 魔法力と竜族の血
「帰還石よし。食事よし。じゃあ、行くか。」
腰に下げた短剣の重みを確かめながら、家を出て大きく背伸びをする。
俺が単独で依頼を受ける日が、こんなにも早くやってくるとはな。
どうなるか分からないけど、行方不明の冒険者の彼女さんもきっと心配してるだろうし、きちんとこなさないとな。そんな気持ちでいた。
「それにしても……ふふっ。俺、おかしな奴だと思われるかな?」
「なんだ?」
「だってさ、男の俺がぬいぐるみと一緒に行動してんだよ?おかしな話じゃん?」
「仕方がなかろう……この器、意外としっくりくるのだ。今さら変えられん。」
「そうなの?まぁ、ラミンがいいならいいけどさ。」
家を出てからというもの、やけに視線が気になる。
それもそのはずだろう。俺がぬいぐるみを頭の上に乗せて歩いてるんだからな。
元々そういうキャラならともかく、そんな素振りはこれまで一度も見せたことがない。
無理もないけど……ちょっと本当に恥ずかしい。
だけど、このぬいぐるみには思い入れがないわけじゃないし、
それが今こうして喋ってるのが、なんだかちょっと嬉しかったりもする。
そんなことを思いながら歩いていると、ハルクさんの姿が見えた。忘れ物でもあったのか?
「オリオン!……って、お前、なんでぬいぐるみを頭に乗せてんだ?」
「今日から俺の相棒なんだよね。気にしないでいいよ。」
「は?あー、あれか。魔力がこもったぬいぐるみみたいなやつか?」
「あ、そんな感じです。」
「そうかそうか。
それで、さっき渡し忘れたんだが、これが行方不明になってる冒険者の似顔絵だ。」
「……この人ですか。
あれ?この人、前に冒険者ギルドで俺たちを探してませんでした?」
「よく覚えてるな。そうだ、どうしてもあのダンジョンに行きたいって言って、
暁の翼かシグナスに同行してもらいたいって、何度も頼みに来てた奴だよ。」
「やっぱり。
……でも結局、俺たちもシグナスも依頼が入ってて断るしかなかったんですよね。」
「Sランクともなれば、日々忙しいから仕方がねぇんだけどな。」
「まぁね……よし、じゃあこの人を探して行ってきます!」
「ああ!よろしく頼むな!」
ハルクさんから渡された似顔絵を見た瞬間、見覚えのある顔に驚いた。
どうしてもあのダンジョンに行きたいと、何度も俺たちに同行を頼んできた人物だった。
なぜそこまでこだわっていたのか、俺には分からなかったけど……
独りで行くなんて、よっぽどの事情があったんだろうな。
そう思いながら、似顔絵をポケットにしまい、
ハルクさんに手を振って、西門を抜けてダンジョンへと向かった。
「オリオン、今はどんな魔法が使えるのだ?」
「今?ひとまず強化とか支援系はだいたい使えるよ。
あとは回復魔法も、わりとマスターした。」
「攻撃系は使えるのか?」
「攻撃系もいろいろ使えるよ。
なんかさ、レベルが50を超えたあたりでステータス確認したら、
画面に“魔法を取得しますか”って出てきてさ。
“はい”を押したら、いろんな魔法が習得できたんだ。
それを繰り返してたら、気づいたらいろいろ使えるようになってた。
支援系も回復系も、それで覚えたし。
あと、なんか遠隔魔法っていうのかな?
探知スキルを覚えてから、遠隔攻撃もできるようになったよ。」
「……」
「ん?黙ってどうした?」
ダンジョンへ向かう道中、ラミンが唐突に俺の魔法について訊いてきた。
今使える魔法や習得の経緯を話すと、なぜか黙り込んだラミン。
おかしなこと言ったかな?別に普通だろ?魔法が使えるのなんて。
そう思っていると、頭の上から大きなため息が聞こえてきた。
「オリオンよ……貴様は思ったよりも竜族の血が濃いようだな。」
「そうなの?」
「まず、貴様が当たり前のように使っている遠隔魔法は、竜族特有のスキルだ。
俗に言う“竜の眼”というスキルで、離れた場所にいる相手を狙って攻撃できる便利な能力だ。
このスキルを使える者が現れたら、竜族の血が流れている可能性を疑っていい。
そして、支援・回復・攻撃……
多種類・多属性の魔法を使えるのも、竜族の血のおかげだな。」
「ふーん……
“竜の眼”っていうスキルだったのか。
ステータス画面には何にも書いてなかったから、知らなかったよ。」
ラミンから竜族特有のスキルについて聞かされて驚いた。
誰でもレベルが上がれば使えるものだと思っていたけど、
俺だけって……なんだか特別で、ちょっと嬉しい。
そう思っていると、ラミンは再びため息を吐き、俺の“問題点”を口にした。
「まぁ、問題はそこではない。貴様の魔法の習得方法が問題だな!」
「習得方法?ああ、画面をピッて押したやつか?」
「そうだ。普通、ヒューマンが新たな魔法を習得するには、
それぞれの魔導書を読んだり、修行の末に獲得するものだ。
あとは、ギルドや教会でスキルを取得する方法もあるだろう。
しかし、貴様のようにレベルが上がったからといって、
ステータス画面に“魔法の取得の有無”が現れるわけがないのだ。」
「まぁ、確かにそうだよな。不思議だなぁとは思ってたけど、まぁいいかって。」
「はぁ……もう少し自分の力の源を疑えないのか?
貴様が持つその習得方法は、竜族の血に刻まれた記憶が元になっておる。」
「竜族の血?」
「そうだ。何百年、何千年と続いた竜族の血の中に蓄積された魔法知識、竜族としての力が流れておる。
貴様がレベルアップしたことで、その血が目覚め、膨大な知識と力が自動的に習得されているのだ。
それを貴様……何の疑いもなく“ああそうなんだ”と使っておる方が驚きだわ。
少しは自分の血を疑わんか。」
「はは、すげぇんだなぁ……竜族って。」
ラミンから聞かされる話は、どれも歴史の重みを感じるものばかりで、
“世界の竜族”という存在を肌で感じるような内容だった。
それが他人事なら「すごいなぁ」で済むけど、全部俺のことなんだよな……
いまだに実感なんてわかないけど、俺の能力のすべてが竜族の血のおかげだと言われたら、怖いくらい、俺の血は濃いなって思っていた。
「これで分かっただろう?最強を目指すべくして生まれたということが。」
「いや?それとこれとは別の話でしょうが?
でもさ、もっと早く分かってたら……
俺、パーティをクビにならずに済んだと思うか?」
「……どうだかな。貴様の力は、そのSランクパーティの誰よりも強いだろう。
それが分かった途端、疎まれ妬まれ、活躍の場を奪われた途端、そやつらの逆鱗に触れて逆に殺されていたかもしれんな?」
「ええ?物騒なこと言うなよー。暁の翼の皆は、そんな酷いことするメンバーじゃないからな!」
「どうだか?ヒューマンとは実に醜い考え方をする生き物だからな。
自分より目立つ存在が現れれば、気に食わぬというくだらない感情を抱く奴も多かろう?」
「まぁ……確かに。でも、うちは皆、心が優しいぞ?」
「それは貴様が“荷物持ち”だったからだろう?」
「あー……」
「そういうことだ。」
「世知辛い世の中ですなぁ。」
竜族の血のことをもっと早く知っていて、暁の翼の皆に話していたら俺の生活は今まで通りだったかもしれない。
そんな思いがふと口をついて出た。
だけど、ラミンから突きつけられたのは、切なくて悲しい現実だった。
そしてその言葉を前に、「確かにそうかもしれない」と思ってしまう自分もいて、
結局は一人になっていた可能性は消えないんだな……と、ガクッと肩を落とした。
だったら尚更、俺はこの力をひけらかすことなく、
のんびりスローライフを送るのが、一番幸せになれる方法だと感じた。
だから、俺のスローライフ宣言は間違っていないぞ、ラミン!
そう心の中で呟きながら、ラミンの竜族としての心得をじっと聞き流しつつ、
俺はダンジョンへと向かっていった――




