第6話 人探しの依頼
翌日――
「何をしておるのだ。」
「え?何って……畑仕事?」
「何が畑仕事だ!!
ダンジョンはどうした、ダンジョンは!!」
「ええ?朝からダンジョン行かせるつもりかよ?」
ラミンがぬいぐるみに宿った翌朝。
俺は日課である家の裏に作った小さな畑で、野菜の収穫をしていた。
すると裏口のドアが開き、不機嫌そうなぬいぐるみがやってきた。
ラミンが中に入ってから、ぬいぐるみに表情がつくようになり、
喜怒哀楽がはっきりしてきてちょっと怖い。
なんて言うのは内緒だけど、朝起きた瞬間から誰かと喋れるのは悪くないなと思っていた。
「昨日話しただろ?これからはスローライフでのんびり生きるってさ。
ラミンも一緒にスローライフしようぜ?」
「なにがスローライフだ!竜族の末裔である貴様には、やるべきことがあるだろうが!」
「ないよ!そんなものありませんからね!」
ラミンは相変わらず、俺をどうにかしてより一層強くさせようとしてくる。
そりゃ強いに越したことはないし、俺もまだ覚えていない魔法とかあるだろうから気にはなるけど、どうにもこうにもやる気が出ない。
やっぱり「役立たず」という自分の立場が、俺のやる気を削いでいくんだよなぁ。
「さてと、今日の朝の収穫はおしまい。草むしりもしたし、朝ご飯作りますか。
ラミンはさ、ぬいぐるみから出たら食べられるじゃん?食べる?」
「……食べる。」
「オッケー。じゃあ朝食作るから食べようぜ。」
「はぁ……のんびり屋にもほどがあるだろうが。」
畑仕事を終えた俺は、採れたての野菜で早速朝食を作ろうと思い、
ブツブツ怒るラミンも食べるかと訊くと、ちゃっかり食べると言うから笑った。
そもそも、ぬいぐるみを出て、あの魂だけの形になればご飯が食べられるって……どういう仕組みだよ?
なんて思いながら、パンとスープを作ろうとキッチンに立った、その時だった。
コンコンッ――
「俺だ。ハルクだ。朝からすまねぇ。入ってもいいか?」
「え?ハルクさん?!ちょ、ちょっと待ってください!
ほらっ!ラミン、ぬいぐるみに入って!絶対動かないでよ!」
「はぁ……」
調理を始めようと思ったタイミングで、玄関の扉がノックされ、ハルクさんの声が響いた。
こんなに朝早く訪ねてくるなんて珍しいなと思いつつ、ラミンがとんでもない状態だったので、すぐにぬいぐるみに入るよう急かした。
ガチャ――
「お待たせしました。おはようございます、ハルクさん。どうぞ。」
「すまねぇな。実はお前に頼みたいことがあってよ。」
「ギルドからの依頼ですか?」
「ああ。」
ハルクさんを招き入れると、すぐに「頼みたいことがある」と切り出した。
俺にできる依頼なら別に構わないと思っていたら、人探しの依頼だということで、詳しく話を聞くことにした。
「いつもお前が潜ってたダンジョンじゃなくて、もう少し先にある、高ランク者が行くダンジョンがあるだろ?
あそこは最上階まで、Sランクがで行っても2週間ほどかかるダンジョンだ。
けど、そこに一人で行った冒険者がいるらしくてな。1ヶ月半戻ってこないと、そいつの彼女が心配して、俺たちに捜索依頼を出したんだ。」
「……1ヶ月半はちょっとマズいですね。よく放っておきましたね?」
「そいつが“長かったら2ヶ月はかかるかもしれない”って言ってたらしい。」
「あー……それが仇になりましたね。」
ハルクさんから話を聞いた俺は、さすがにあのダンジョンに一人で行くのは無謀だろうと思った。
俺が普段潜っていたダンジョンとは違い、かなり上級者向けの場所で、暁の翼でもよく潜っていたけど、魔物のレベルも罠の精度も、いつものダンジョンとは桁違いだった印象がある。
だから俺も最初は、ただ付いて行くだけで精一杯だったし、死にかけたことも何度もあった。
それもあって、暁の翼では散々行った場所だけど、絶対に一人では潜らないようにしていたダンジョン。
――今の自分のレベルなら、きっと対応できるとは思うんだけど。
そこに単独で行くなんて、相当勇気のあるやつか、ちょっとおバカかのどちらかだな……
けど、それなら俺じゃなくて、あいつらに頼めばいいのにと思い、ハルクさんに訊ねた。
「……暁の翼とシグナスは?」
「あいつら、別々の護衛任務で出払っててな。
あのダンジョンは最低でもレベル60以上は必要だ。
……いないんだよ。お前以外な。」
「あー……なるほど。そうですか。」
まさかSランクパーティが2組とも出払っているとは思わなかった。
シグナスは全員が女性の5人組パーティ。
そこら辺の男よりはるかに腕の立つ冒険者ばかりで、
クールな女性からちょっと抜けたキャラまで勢ぞろいの、個性豊かなチームだ。
そんなシグナスもいないから、俺ってわけか。
「頼めるか?オリオン。」
「分かりました。それじゃあ、ひとまず朝食を食べて、準備ができたら出発します。」
「ああ、助かるぜ。何か必要なものがあるなら、ギルドに寄ってくれ。」
「ありがとうございます。」
「それじゃあオリオン、あとはよろしく頼む!
どうしても無理ってなったら、ちゃんと帰還石で帰ってこいよ!」
「そうですね。この前手に入れたので、忘れずに持っていきます!」
さすがに人探しと言われて断るわけにもいかず、捜索依頼を受けることになったわけだけど。
声は聞こえてこないけど、後ろでニンマリしている顔が想像できて、ちょっと腹が立った。
ラミンはダンジョンに俺を連れて行きたがっていたし、
上級者向けのダンジョンということもあって、
絶対に一人で勝手に盛り上がってるな……
そう思っていると、ハルクさんが家を出て行った直後、ラミンが口を開いた。
「オリオン、ダンジョンだ。鍛えるぞ。」
「いや、人探しだからな?」
「まぁ、レベルの高いダンジョンなら、勝手に鍛えられるであろうからな。
今の貴様の状態を確認するには、良い機会だな。」
「あのなー……まぁ、いいや。とりあえず朝ご飯作るから待ってて。」
ラミンは俺の予想通り、ダンジョンで鍛える気満々だった。
人探しという、かなり重要な依頼だって絶対に分かってないだろ?
なんてブツブツ言いながら、朝食の準備を始めた。
冒険者が一人でダンジョンに潜って、帰ってこないという依頼は、過去にも受けたことがある。
そのほとんどが、悲惨な結果になっているのを見てきたから、正直今回もヤバい気はしていた。
だけど、誰かの大切な人なわけだし、どうにか見つけて助けられるものなら、助けたい。
そう思いながら、久々に入るダンジョンの構造を、頭の中で思い出していた――……




