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第5話 竜の魂が宿る場所

「あっちが教会で、そこが商人ギルド。

あ、これあとで食わせてやるよ。ってか、ラミンはその体で飲食出来るのか?」


【カラ元気だな、オリオン。】


「そうか?で、城の近くになるとやけに煌びやかだろ?貴族が住んでるエリアだよ。」



冒険者ギルドを出た俺は、家に戻る前にラミンに王都を案内して回っていた。

興味ないかもしれないけど、ようやく外に出られたんだから、

少しはこの街のことを見てもらえたらと思って。


ペラペラと喋る俺に、ラミンは「カラ元気だ」と呆れていたけど、

そうでもしなければ力が出なくなるからな。

なんて思いながら案内を続けていくと、北門区画へと辿り着いた。

そこは、かつて俺が住んでいた場所だった。



「城から一番遠くて、日当たりも水はけも悪いこの北門区画が、俺が最初に住んでた場所。

ここは地方からの出稼ぎとか、王都に入り込んだ貧しい人々が最初にたどり着く場所なんだってさ。

警備の巡回も手薄だから、まぁ治安は悪いよね。」


【ふむ……貧民街と呼ばれておる場所か。ようはスラム街というやつだろう?

なぜ貴様がここに放り投げられたのかは疑問だな。】


「俺、生まれた時は違う場所だった気がするんだけど……

ある日目が覚めたらここにいたんだよね。」


【……捨てられたのか?】


「多分ね。捨てられたショックからかな?親のことは何にも覚えてないんだ。

で、ここで暁の翼に拾われたってわけ。」


【貴様を捨てた両親……生きておるのか?】


「さあね?生きていたとしても、もう俺の顔も分かんないんじゃない?

まぁ、今の俺には関係のない話だけどね。もう新しい父親いるし。」


【……まぁ、そうだな。】



目を覚ましたら孤児だったなんて、改めて話しても意味が分からない。

親にも事情があったんだろうけど、捨てる場所間違えてねぇ?と何度も思った。

せめて教会の前にしてくれていたら、もう少し違う世界が見えていたかもしれないのに。


貧民街には、どうあがいてもそこから出られるほどの資金を稼げない人、

懸命に生きることをやめた人、悪に手を染めた人と様々なヒューマンや亜人がいる。

その中で暁の翼に拾われるまで、よく無事に生きてこられたなと自分でも思う。

ご飯にありつくために、時には死にそうな目にも遭った。

それでも生きてこられたのは、希望がない中でも「生きたい」という気持ちがあったからだろうな。



「さてと。んじゃ、家に帰りますか。」


【ダンジョン】


「やだよ!明日にしようよ。」


【……はぁ。】


「もう!いいじゃん今日くらい!じゃあ帰るよ!」



俺の生い立ちと、貧民街での生活を話したあと、一度家に戻ることにした。

ラミンは「ダンジョン、ダンジョン」とうるさかったけど、それを無視して自分の家へ向かった。


俺の家がある方角の途中には、暁の翼の拠点となっている家がある。

思わずその前で足を止めてしまった俺は、昨日のエドの言葉を思い出していた。



「オリオン。ここからは危険だ。荷物持ちはもう必要ない。今日でお別れだ。」



今日でお別れ、か……

いつから俺との別れを考えていたんだろう。

別の地域のダンジョンで荷物を落としてしまった時だろうか。

それとも、言いつけを守らず飛び出してしまった時か。

考え始めるときりがないけど、いろんな要因が重なって、

その結果がパーティからの追放だったのかもしれない。


そんなことを考えていると、また元気がなくなってきた。

ダメだダメだ。もう済んでしまったことだ。考えたって答えは変わらない。

自分にそう言い聞かせ、止まっていた足を再び動かし、振り返らずにその場を立ち去った。



ガチャ――



「はーい。ここが俺の家でーす。」


【何とも質素な家だな。Sランク冒険者は儲からんのか?】



暁の翼の拠点から歩いて10分ほどで、俺の自宅に到着。

部屋が3つほどの小さな家。この8年で貯めた金で、先月ようやく買えた俺の城。

小さいかもしれないけど、俺にとっては安らげる空間だ。

それなのに「質素」とか言い出すこの竜め!

息子の家に対して酷い親だなぁ、オイ!

なんて思いながら、ラミンはこの先どうするつもりなんだろうかと気になった。



「そういえばラミン。ダンジョンから出てきたけど、体の外に出られるのか?」


【問題ない。が、何かこう……器となるものがないか。】


「器?あ、もしかして仮の体みたいなやつ?」


【ああ、そうだ。それがあれば動けるし、喋ることもできる。】


「なるほど……

いつまでも体の中で喋られると、外に出た時に受け答えしちゃったら変な奴に思われるからなぁ。

器があるならそっちの方がいいな!俺の部屋に何かあるかも!」



ラミンが俺の体から出られるか確認すると、魂が入れる器があれば可能だと分かった。

だから俺は急いで自分の部屋へ向かった。

魂の憑代ってどんなものがいいんだ?仏像か?それとも木彫りの人形か?


部屋中をひっくり返しながら、ラミンが入れそうな器を探していた時、

ベッドの下に何か箱があるのに気づいて手を伸ばし、引き出した。



「あ……これ……」



箱の中を開けた瞬間、時が止まった。

これは――



【オリオン。何だ?その薄汚れたぬいぐるみは……】


「これね……これはさ――」



ラミンが指摘した薄汚れたぬいぐるみ。

色褪せた藍色の布で縫われた、小さな双尾の竜のぬいぐるみだった。

その体には星が散りばめられ、胸元には大きな星がひとつ縫い付けられていた。

今はもう片耳がほつれ、片目は失われていたけれど、胸元の手縫いの星だけは、きちんと形を残していた。



「この子はさ……俺が捨てられた時に持たされてたやつ。」


【……貴様の親が持たせたのだな。】


「多分な。ずーっとこのぬいぐるみと一緒でさ。

暁の翼に拾われて貧民街を出る時も、これだけは持って出たんだ。

理由は分からないけど、なんか捨てられなくて。」



あの日、貧民街で目を覚ました俺の横に、そっと置かれていたこのぬいぐるみ。

当時は、これを持っていれば目印になって、親が俺を見つけてくれる。

そんな夢を見てたんだよな。

今となっては、気休めで置いて行っただけなんだろうなって思うけど、

あの頃の俺にとっては、唯一の友達だった。



【そうか……では仕方がないから、それに入ってやる。】


「ええ?いいよ、汚いだろ?新しいぬいぐるみか何か買ってくるからさ。

それにもっとカッコいいやつが良いだろう?これ、みるからかに可愛い系だけど……」


【我はそれが良い。もう決めた。他の物はいらぬ。

その姿なら、貴様がこれから送りたいというスローライフの相棒として、

目立ちすぎずに済むだろうが。】


「いや、まぁそうなんだけどさ……いいのか?汚いぬいぐるみだぞ?」


【良い。もう決めた。入るぞ。】



「ええ?じゃ、じゃあせめて洗うから待ってよ!」


【必要ない。入る。】


「ちょっと待って……って、ああああああっ!!」



このぬいぐるみについてラミンに話すと、どういうわけか「これでいい」と言い始めた。

さすがにこの汚れ具合はまずいだろうと何度も言ったけど、

ラミンは「これでいい」の一点張りで譲ろうとしなかった。

だったらせめて洗った方がいいに決まってるのに、

ラミンは「必要ない」と言い、スッと俺の中から出ていき、そのままぬいぐるみの中に入ってしまった。


ラミンがぬいぐるみの中に入ったその瞬間、ぬいぐるみの胸元の星が、激しく瞬いた。


すると、色褪せていた藍色の布は鮮やかな藍色へと変わり、ほつれていた片耳や失われていた片目、

そして縫い目の綻びまでもが、まるで時が巻き戻ったかのように修復されていき、

頭には2つの角まで生えて、元々角があったのかと驚かされた。


そして――体中に散りばめられていた小さな星たちは、無数の金色の光となって瞬き始め、

最後には胸元の星がひときわ大きく輝き、トクン、トクンと脈打っているように見えた。


その姿はもう、色褪せた粗末なぬいぐるみではなく、

まさに生きた小竜のように変貌していた。



「……うわぁ!やばっ!何これ!」


「だから洗う必要がないと言っただろう。

我が宿った瞬間、どんなに汚れ穢れたものも浄化され、かつての姿を取り戻すのだ。」


「うわ、本当に喋った!!こわっ!」


「何が怖いだ!投げようとするな、バカたれ!」



ぬいぐるみが新品同様になっただけでもかなり驚いたのに、

そこからラミンの声が聞こえた瞬間、俺は思わずぬいぐるみをポイッと放り投げそうになった。

けど、寸前で踏みとどまった。

これ、今俺の親代わりが宿ってるんだよな……危ない、親を投げるところだったぜ。


そう思いながらそっとテーブルの上に置くと、ぬいぐるみがふわっと浮き上がった。

これが竜の力か!?と思っていると、表情がないはずのぬいぐるみの顔が、

どこか呆れたように見えた。



「魔力だ、魔力。我の魔力で浮いておるだけだ。竜の力でも何でもないわ。」


「あ、そうなの?へぇ。まぁ、自由に動けるなら良かったじゃんか、ラミン。」


「そうだな。それじゃあ、これからダンジョン――」


「行きません!今日はもう行きません!今日は!もう!家でゆっくりさせてください!お父様!」


「何を腑抜けたことを……」



俺がアホな考えをしていたのを見抜いたように、ラミンは「ただの魔力だ」と言い、ダンジョンに行こうと誘ってきた。

どうしてこうも鍛えたがるんだ、この竜は。

絶対に今日はもうダンジョンへは行かない!

そう強く訴えると、ラミンは大きなため息を吐いた。


ダンジョンで会った時は、あんなに大きくて神々しい光の竜だったから迫力もあったけど、

今俺の目の前にいるのは、可愛らしい小竜のぬいぐるみ。

何をされても、何を言われても、迫力も威厳もあったもんじゃない。

それをラミンは分かってやっているんだろうか?


なんて思っていたけど、内心では、このやり取りすら何だかいいなと感じていた俺。

独り暮らしに戻ったと思っていたところに、過去の記憶が詰まった贈り物に命が宿り、

一緒に暮らすことになるなんて、おかしな話だけどな。


だけど、これから始まるスローライフの相棒としては……100点かもしれないな。

そう感じていた――

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