第4話 世界最強?いや、のんびりでいい
「はぁ、はぁ……さすがにさ…ずっと階段上がるのはキツいって……
もう足上がんないんだけど!」
地下から階段を上り始めて約1時間。ようやく地上へとたどり着いた。
出口を抜けると、そこはいつものダンジョン1階奥にある湖のすぐそばだった。
ここに繋がっていたのかと思いながら、思わず湖に駆け寄った。
この湖には癒しの効果があるんだけど、それを知る者は意外と少ない。
俺がそれに気づいたのは、冒険を始めたばかりの頃、死にかけてよろけて湖に落ちた時だった。
魔物が近づいてこなかったこと、傷が自然に治っていたことから、初心者用に作られた聖水の湖なんだなと密かに思い、よく利用していた。
【オリオンよ。これからどうするつもりだ?】
「え?あー、最初は今日もレベル上げしようと思ってたんだけど、なんか一気に疲れちゃってさ。
今日はもう帰ろうかな。
それにさ、よく考えたら俺、何のために頑張ってるんだろうって思わない?
もう無理して頑張る必要もないじゃん?誰からも必要とされてないわけだし。
気が向いた時に鍛錬すればいいかなーって。」
湖の聖水を少し飲んで疲れを癒したあと、少し迷ったけど一度外に出ることにした。
皆のために頑張ってきた日々も、今日で終わり。
無理してレベルを上げる必要も、もうない。
そう感じていた俺がラミンにそう伝えると、何だか不服そうにしているのが感覚で分かった。
「なんか怒ってる?」
【“なんか”ではないだろう。人のために頑張るのは悪いことではない。
だが、貴様がこれから生きていく上で、強いに越したことはない。
見返してやろうとは思わんのか?】
「えー……まぁ、そうだね。いつか後悔してくれたら嬉しいかもって気持ちがないわけじゃないけどさ。
見返したところで戻れるわけじゃないし、疲れるじゃん?
俺はこれから、ここで気ままに依頼を受けて、好きな時に寝起きして、のんびり暮らすんだよ。
それでいいんだよ。」
【たわけが!!良いわけがなかろうが!貴様は竜族の血を引く唯一の存在なのだぞ!
鍛錬を重ね、より一層強くなり、世界最強を目指すのが道というものだろうが?!】
「なにそれ!やだよそんなの……それに俺、竜族とか言われてもまだピンとこないし!
もう今日はゆっくりさせてくれよな!お・と・う・さ・ん!」
【ぬぐぐぐっ……何がお父さんだ、バカたれ!】
「はは、とりあえず今日は帰ろう。王都、案内してやるからさ。」
【はぁ……】
ラミンは、俺にもっと強くなるために頑張るべきだと説教してくれたけど、
今の俺には、そこまでの気力はない。
急に職を失って、急に竜族の末裔だと言われて、急に父親ができた。
この事実を受け止めるだけで、もう精いっぱいなんだよ。
そう思いながら、ラミンの意見には耳を貸さず、俺は一度外へ出て、王都の門を再びくぐった。
「オリオン、今日は休みもらったのか?皆もう出かけちまったぞ?」
「え?あー……そうなんだ?
俺、パーティ抜けたんだ。もう関係ないんだ、ごめんな。」
「ええ?なんで急に?」
「Sランクパーティにお荷物は必要ないってことだよ。
俺はこれから、自分にできることをしながら、ゆっくり暮らすさ。」
「そうなのか……なんか悪いこと聞いちまったな。」
「いいや、大丈夫だよ。じゃあ、またな!」
門をくぐってすぐ、仲の良いおっちゃんに声をかけられた。
暁の翼について聞かれたので、抜けたこととその理由を素直に答えた。
すると、おっちゃんは何とも言えない表情になった。言い方が良くなかったかな?
なんて思ったけど、本当のことだから仕方ない。
この王都でSランク冒険者のパーティは2組だけ。
王都なのに何で?って思うけど、他にもSランク冒険者は存在しているけど、
王都を離れてそれぞれ好きな場所を拠点として活動している。
俺が居た暁の翼は王家から直属の依頼が来ることも多かったから、王都から離れられなかった。
もう一組の冒険者も大体が同じ理由。
そんなSランク冒険者のうちの1組に俺がいたことは誰もが知ってるし、
クビになったことは隠したってすぐにバレるだろうからな。
そう思いながら歩いていると、何度も同じようなことを聞かれ、
そのたびに同じ説明を繰り返した。
全員が全員、同じような顔をするのがちょっと面白かった。
【有名なのだな、貴様がいた冒険者パーティは。不愉快だ。】
「何が不愉快なんだよ?俺が非力なのは事実だろ?」
【非力なわけあるか、バカたれ。
まずはギルドで魔力測定と正式なレベルを登録してもらわんか。】
「えー?今?観光しないの?」
【今だ。】
「分かったよ……」
俺はラミンに王都を案内しようと思っていたのに、ギルドに行けとうるさいラミン。
別に今日じゃなくてもよくないか?と思ったけど、頭の中でうるさいから従うことにした。
親からうるさく言われるのがうざいって話、よく聞いてたけど、こういう感じか。
俺の場合は頭の中で言われてるから、うるささ倍増だな。
なんて思いながら、再び冒険者ギルドに向かい、アリアに魔力測定とレベルの再登録を依頼した。
通常のヒューマンのレベルは1から始まり、50くらいでストップする。
というより、レベル30〜50あれば冒険者としてやっていける力は十分。
ランクで言えばCランクからBランクまでは行ける。
それ以上を目指すなら、高レベルの討伐対象を選んだり、ひたすら鍛錬するしかない。
でも、そこまでやろうとする人は少ないし、生活に困らなければその辺で止まるのが普通。
ちなみに、Sランクに認定されるには最低でもレベル70以上が必要。
魔力(MP)は100〜500程度が一般的。
有能な魔法使いや回復士なら700くらいはあるらしいけど、
普通のヒューマンなら500あれば立派なものだ。
暁の翼のメンバーは全員がレベル80オーバー。
魔力も最低でも1000は超えていた。
特に魔法使いのリンと回復士のラリッサは、10000を超える魔力を持っていたな。
「それでは、まずはレベルから見ていきましょうか。この水晶に手をかざしてください!」
ヴィンッ――
「……あれぇ?おかしいですね。エラーが出てます。
ここ最近、新人冒険者さんを多く鑑定したから壊れちゃったのかなぁ?」
「……」
「もう一回いきますね!」
ヴィンッ――
「やっぱりエラーですね………ちょっと先に魔力測定から行きましょうか!」
「ああ、そうしてくれる?」
水晶玉に手をかざすと見えるレベル。
ここで使われているものはレベル100までしか判定できないから、一生エラーだろうな。
俺の現在のレベルは365だし。まぁ、これで測定するのは無理だ。
と、最初から分かっていたけど、一応やってもらった。結果は予想通り、エラー。
「それでは、こちらの水晶に手をかざしてください!」
「はいよー。」
ヴィンッ――
「あれー?!こっちもエラーですか?おっかしいなぁ……」
「ははは……」
レベル測定器がダメなら、当然魔力測定もダメだろうなと思っていたけど、やっぱりそうだった。
今の俺の魔力は59000。
この測定器は確か30000くらいまでしか反応しないから、そりゃ測れない。
ということは、ここに来た意味なかったね……?
そう思ってため息を吐いていると、二階から階段を降りてくる足音が聞こえた。
視線を動かすと、ギルド長のハルクさんが人差し指をクイックイッと動かして俺を呼び寄せた。
そのまま後をついて二階へ行き、ハルクさんの部屋に通されると、
ドカンッと目の前に古臭い測定器らしきものが置かれた。
「ハルクさん?これは?」
「それはもう使ってねぇ測定器だ。昔は魔力とレベルを同時に測ってたんだ。
しかもそれは上限の設定がされてねぇから、レベルが高くても測定できる。かざしてみろ。」
「へぇ。じゃあ、いきます。」
ヴォン――
「……なっ?はぁ?!」
「……ハルクさん?」
「レベル365……魔力59000……オリオン、本当にお前か?」
「はははは……」
ハルクさんが持ってきた古い測定器。
言われた通りに手をかざすと、眩い光を放ったあと、俺の数値が確定された。
その数値に、ハルクさんは目を見開いて固まっていた。
冒険者は定期的にギルドで、自分のレベルや魔力値の測定を行い、データを更新する。
ギルド側が冒険者の能力を正確に把握するため、またランクアップの条件として数値を確認するためにも、データ更新は必須だった。
俺は暁の翼のメンバーでいるために、皆がギルドに頭を下げて、無理やりSランクに上げてもらった。
それもあって、定期的なデータ更新の必要はなかった。というより、測定しないようにしていた。
そして1年前、最後に測った時の数値はレベル55、魔力値が600程度だった。
あの時から比べると、何もかもが上がっていた。
地道な努力が報われた瞬間だった。
そんな俺の数値を見たハルクさんは、少し渋い顔をしながら言った。
「なぁ、ないとは思うが……違法な薬使って数値上げたりしてねぇよな?」
「ええ?俺がそんなことわざわざするようなタイプに見えますか?」
「すまん。1年前のデータとの差が激しすぎたもんでな。」
「俺、ダンジョンに潜ってたんで。その影響ですよ。」
「ん?ああ、暁の翼でだろう?」
「いえ。単独で。」
「単独……単独って、お前が?!」
「ええ、実は俺――」
俺のあまりの変貌ぶりに、薬物使用を疑われてちょっと笑ってしまった。
そんな薬があるなら、一度飲んでみたいもんだよ。
なんて思いながら、暁の翼での立ち位置、気持ちの変化、そしてこの1年の努力について話した。
もちろん、ラミンとの出会いについては触れなかったけど。
俺の話を聞き終えたあと、ハルクさんは右手で俺の肩をガシッと掴み、もう片方の手で乱暴に頭を撫でてきた。
「Sランクパーティで居続けるってのは、本当にしんどいからな……
そうかそうか…。お前は本当に影で一生懸命努力してたんだな。泣けるぜ。」
「でも、結局こうなっちゃいましたけどね。」
「まぁ……な。アイツらなりの優しさってやつだろう。
アイツらはこれから魔物や魔族とやり合うことが増えてくるだろう。
そこにお前を連れて行って、死んだら…って思ったんだろう。」
「優しさなのは分かってるんですけど、クビはクビですから……
でもまぁ、俺はこれからは無理に頑張る必要もないし、
気ままに依頼を受けてスローライフを謳歌しますよ。
俺にできそうな依頼があったら、声かけてくださいね。」
「オリオン……」
ハルクさんは見た目に反して、とても優しい人。
俺が努力してきた結果に涙してくれた。
そして、暁の翼の皆の気持ちも理解していて、とても複雑そうな表情をしていた。
ハルクさんも元々はSランクの冒険者。
数々の修羅場を潜り抜けたのち、当時ずさんな管理がされていて、闇取引のようなことも行われていたこの冒険者ギルドのギルド長を叩きのめし、
「ちゃんと冒険者の支えになりたい」と、このギルドを引き継いだと聞いた。
そんなハルクさんには、最初からずっとお世話になりっぱなしだった。
だからこれからは、もしハルクさんに何か頼まれごとをされた時くらいは、役に立てるように動けたらなと思っていた。
「あ、あの……ハルクさんにお願いがありまして。
俺の今のレベルとか、内緒にしておいてほしくて……
変に期待されても、役に立てる自信なんてないですし、
こういうので振り回されたくないので……」
「ああ。まぁ、そうだな。今回の測定の記録は登録しないでおく。
俺だけが知っていればいいことだしな。」
「ありがとうございます!助かります!
それでは今日はこの辺で失礼します。なんだかえらく疲れちゃって。」
「そうか。分かった。また近いうちに顔出しな?飯でも食べよう。」
「はい!それじゃあ、失礼します!」
ハルクさんの役に立てたらとは思ったものの、
この数値のせいで変なことに巻き込まれたりするのは避けたかった。
もう誰にも必要とされなくていいし、俺が俺のままでいられる状況下で、静かに生活したい。
だからもう、誰かと組んだりはせずに、のんびり暮らす。
そう思いながら、俺は冒険者ギルドをあとにした――……




