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第3話 暁の翼と新しい名前

なぜ、誘ってもらえたのかは分からない。

孤児だった俺の運命が、こんな風に好転する日が来るなんて思ってもいなかった。

それでも俺は、この転機を逃したくないという思いがあったから、あの日、手を伸ばした――


"暁の翼"というSランク冒険者パーティに拾われたのは、俺が10歳の時だった。

当時はまだAランク冒険者だったんだけど。

貧民街で、ただ毎日を何となく生き、彷徨っていただけの俺に、

「荷物持ちでもいいから仲間になれ」と声をかけてもらった。



リーダー剣士のエド。

この人が俺に声をかけてくれて、その手を取った。

誰にでも優しくて、皆が嫌がる依頼も笑って引き受けるような人だった。


攻撃系魔法使いのリン。

口数は少ないけど、魔法使いとしてはとても有能で、いつも臨機応変に対応していた。

エドの彼女だと知った時は驚いたけど、お似合いだと思っていた。


タンクのジョナ。

メンバーの中ではいつも中立的な立場で物事を判断し、常に冷静で正しい選択をしてくれる人。

ダメダメな俺を、さりげなくフォローしてくれていた優しい男だった。


そして、サポート系魔法・回復士のラリッサ。

彼女はこんな俺にも優しくて、「絶対に無理はしないように」と毎回声をかけてくれた。

少しでも怪我をすれば、すぐに治してくれる、そんな人だった。



この素晴らしい仲間に囲まれて過ごした8年間は、辛いことも多かったけど、最高に楽しかった。

そして、終わりが来るなんて、この時は考えもしなかった。



「オリオンは荷物持ちなんだから、何もしなくていいからね」


「俺たちに全部任せておけばいいから」


「私たちの後ろで、いい子にしてなさい」


「俺が護ってやるから、大丈夫だ」



加入当時から、ずっと皆に言われてきた言葉。

それは俺を護るためでもあり、大事な荷物を守るための選択だったんだろう。

俺が下手に動いて怪我をしたり、荷物を盗まれたり失くしたりしたら困るから。


だけど、いつからか俺は、皆の役に立ちたいと思うようになって……

王都近くにあるダンジョンで、黙々と鍛錬を積んだ。

そして、皆には内緒でこっそり援護するようになった。


「余計なことをするな」と言われるのが怖かったから言えなかったけど、

それ以上に、役に立ちたいという純粋な気持ちからの行動だった。

この仲間となら、きっと永遠に一緒にいられるんじゃないか。

そう思っていた。


だけど――それが昨日、あっけなく終わりの鐘が鳴った。

優しさからくる追放、解雇だということは分かっていた。



「ここからは危険だ。荷物持ちはもう必要ない。今日でお別れだ。」



皆と離れたくない。

そう思っていたけど、エドにそう言われたら、何も言えなかった。

「俺は強くなったよ」

そう言えばよかったのかもしれない。

でも、一緒にいたいという気持ちと同じくらい、邪魔になりたくないという気持ちが大きかったから。

俺は反論することなく、黙ってパーティに背を向けた。



【オリオン……貴様は本当に竜族の血を引いておるのか?

なぜそこで自分の力を見せつけぬのだ。】


「いや、無理だろ……俺は別に、あの人たちみたいに強いわけじゃないし。

俺が邪魔で難しい依頼を受けられなかったのなら、申し訳ないだろ?」


【情けない男だ……竜族の血が泣くぞ……】



俺の過去の話を聞いてくれたのは、卵が割れて飛び出してきた光のドラゴン。

どうやらこのドラゴンは、俺のご先祖様のような存在らしい。

出会ったばかりなのに、俺は自分のこれまでの人生を話していた。

すると、ドラゴンは俺の行動が気に入らなかったのか、ため息混じりに「情けない」と言い放った。

……いや、そもそも人間とドラゴンじゃ考え方が違うに決まってるだろ。



「うるさいなー!ドラゴン……って、そういえば名前聞いてなかった。教えてよ。

それとも“父さん”って呼べばいいのか?」


【うむ……そうだな。我は種族名しか持たぬ。卵だったのだからな。】


「あ、そっか。じゃあ俺がつけてやるよ!ファミリーネームくれたお礼にさ。」


【……センスが皆無な気がするが……大丈夫か?】


「大丈夫だって!ちょっと待ってて!」



父親のように振る舞うドラゴンに、名前を聞いていなかったことを思い出して尋ねた。

けれど、ずっと卵だったということで名前はないらしい。

それならと、俺が名前をつけてやることにした。

誰かに名前をつけたことなんて一度もなかったけど、なぜか頭に浮かんだ言葉があった。

気に入ってもらえるかは分からなかったけど、思い切って口にしてみた。



「……ラミン。なんてどう?」


【ラミンか……意味はあるのか?】


「え?ないけど、今パッと頭に浮かんだんだ。……ダメ?」


【いや……そうか、ラミンか。我の名は今日からラミンだな。】


「じゃあ、ラミン・カムエルだなー―」


【うむ……そうだな。】



深い意味なんてなかった。

ただ、じっと見ていたときにふと浮かんだ名前が「ラミン」だった。

その意味も、正しいかどうかも分からない。

だけど、ラミンがいいなって思った。

そう伝えると、少し間があったから焦ったけど、どうやら受け入れてくれたらしい。


なんてホッとしたのも束の間、俺の胸のあたりが急に熱を帯び始めた。



「熱い熱いっ!なにこれ、病気?!ちょっと痛くなってきた!」


【病気ではない。我に名を付けたことで、貴様と我が繋がった。

そして、我ら竜族の血が目覚めたとき、体のどこかに紋章が刻まれるのだ。

その紋章は、たとえ彫師が真似しようとしても決して再現できぬ、特別なものだ。】


「そうなの?!じゃあ俺、本当に竜族の末裔なのか……」


【さっきからそう言っておるだろう。】



軽い火傷を負ったような痛み。

そんなの聞いてない!と思いながらも、必死に耐えていると、

胸のあたりにじわじわと紋章らしきものが刻まれていくのを感じて、思わず服を脱いだ。


そこには、今まで見たことのない竜の絵柄の紋章が刻まれていた。

もう、疑いようがなかった。

俺が……竜族の末裔、ねぇ。

まぁ、だからといって何かが劇的に変わるわけじゃないけど。

そう思いながら、服を着直し、岩の上に腰を下ろした。



「さてと、一つ聞いてもいいか?」


【なんだ?】


「ラミンと俺、ここからどうやって地上に出るんだ?」


【ああ、そのことか。我は貴様の中に入り込む。特に何かする必要はない。】


「ええ?俺の中に入ってくるの?大丈夫?それ。乗っ取りとかじゃないよね?」


【誰が乗っ取りだ、バカたれ。我と繋がったと言ったであろう。

実体を持たぬ我は、ひとまず貴様の中に入らねば出られんのだ。】


「ああ、そうね。うん。で、この高さはどうやって…?」



よく分からない状況ではあったけど、まずはこの場所から脱出するのが最優先。

ラミンは「俺の中に入る」とか言い出したけど、それじゃあ脱出方法の答えになってないじゃん、と思いながら再度尋ねた。



【そこに階段があるだろうが。足を使え、足を。】


「え?!そこはドラゴンの力で翼をくれて……とかじゃないの?!」


【楽して生きられると思うな!】


「はぁ……まぁ、そうだね。分かったよ。」



ドラゴンといえば、翼を広げてひとっ飛び!

そんな展開を期待していたのに、返ってきたのはまさかの“階段”。

とてもシンプルで、足腰の鍛え甲斐がありそうな現実的な選択肢だった。



「何段あるんだよ、これ……」


【さぁな。では、我は貴様の中に入らせてもらう。】



スウッ――



「うわっ!なんか入った!ったく、勝手な親だな――……

まぁいいか……さてと、頑張って上がりますかね。」



上を見上げても、ゴールの見えない階段に思わず悲鳴を上げていると、

ラミンはそんな俺を無視して、スッと体の中に入ってきた。

何も見えないけど分かる。

今、俺の体の中で絶対リラックスしてるだろ……

俺だけが苦労するパターンじゃねぇか!

そう思いながら、俺は階段を上り始めた。


――それにしても、昨日といい今日といい、本当に散々な日だ。

長年一緒にいた仲間にクビを言い渡され、

ダンジョンに入れば穴が開いて地下に落下、

卵に頭をぶつけてコブはできるし、

極めつけは、地下から地上までまさかの階段で上る羽目になるとは……


その中でもまあ、新しい“家族”に出会えたことは、俺にとって唯一の救いだったかもしれない。

すんなり受け入れてる自分にびっくりだけど。

考えてもよく分からないし、ここから出てからゆっくり考えよう。


そう思いながら、俺は一歩一歩、ゆっくりと階段を上っていった――……

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