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26話 受け取らなかった感謝

「ふはははっ!!この馬車は当たりだな!さっさとやっちまえ!!」


「へいっ!!」


「女は売り飛ばすからな!傷つけんじゃねぇぞ!男は不要だから殺せ!」



馬車を走らせていると、とてつもなく下品な叫び声が耳に届き、思わず眉をひそめた。

俺はすぐさま遠隔魔法を発動することに決め、敵味方が認識できる位置まで近づいたところで魔法を放った。



「拘束のチェイン・オブ・バインドでいっか。」



攻撃魔法も考えたけど、まずは拘束して動きを止める必要があると判断。

意識を集中させ、手を前に突き出す。

そして、盗賊たちが馬車の扉をこじ開けようとした、その瞬間――



ドオォンッ――!



盗賊たちをめがけて拘束の鎖を発動。

思いのほか威力が強く、大きな音を立てて魔法の鎖が彼らの体に巻き付き、一度宙へと浮かせた。

盗賊たちは驚いて目を見開いたあと、何が起きたのか理解する間もなく、地面に叩きつけられた衝撃で全員が気絶した。



「あらぁ。オリオン君、やっぱり強いのねぇ。ハルクさんの言った通りねぇ。」


「いや、これ攻撃魔法じゃないんです……

怪我させるより拘束した方が早いと思って。」


「うんうん。オリオン君らしいねぇ。」


「よくやったオリオン。ではラミン殿、行くぞ。

コハクはドロシー殿の側にいてやりなさい。」


「はーーいっ!」


「オリオン。何故攻撃魔法ではなかったのだ。」


「え?だってドロシーさんがいるし、血を見ない方がいいと思って。

あ、ドロシーさんはコハクと待っていて下さいね。何かあったらコハク頼むよ!」


「ふふ。ありがとうね。」


「任せるでしゅ!ご主人さま!」



拘束の鎖のおかげで事なきを得ると、ライオネル王はすぐさま馬から下り、コハクに残るよう指示して現場へと向かった。

俺はラミンに「なぜ攻撃しない」と詰められそうになったけど、ドロシーさんがいる手前、血を見せるのは良くないと説明し、なんとか納得させた。


近づいていくと、後ろの荷馬車は既に荒らされており、護衛の人たちは切りつけられて怪我を負い、馬たちも傷つけられていた。

慌てて全員にハイ・ヒールをかけて応急処置を施した。俺の魔法は馬にも効果があったのは幸いだったな。


そして今回、死人が出ていなかったのが唯一の救いだな。

そう思いながら、まだ手を出されていなかった少し装飾の派手な馬車の扉を開けると、同い年くらいの女の子と、その侍女らしき女性が怯え切った目でこちらを見ていた。



「もう大丈夫だ。怪我はしていないか?」


「あ……はいっ……あのっ、一体何が?」


「ああ、盗賊だ。後ろの荷物は多少壊されているかもしれないが……

君たちの護衛も馬も皆無事だ。怪我をしている者は治しておいた。」


「そ、そうですか……盗賊、この辺りでも出るのですね……」


「この辺りは基本的には安全なんだけどな……たまにはこういう輩も出る。

気を付けて向かってくれ。」



事情を説明すると、二人はひとまず安心した表情を見せた。

その無事を確認した俺は、ライオネル王と話している隊長らしき人物の元へ向かった。



「先ほど話したオリオンだ。オリオン、こちらは護衛隊の隊長殿だ。」


「オリオン殿、危ないところを助けていただき誠にありがとうございます。

今回我々は最少人数での護衛、奴らに不意を突かれ正直どうにもならないかと……

部下だけでなく馬たちの命まで救っていただき、なんと感謝すればよいか。」



ライオネル王が俺を紹介すると、隊長は姿勢を正し、深く頭を下げた。

俺はそんなことをされる立場じゃないと思い、少し気恥ずかしくなって視線を泳がせた。



「いえ…皆さんが無事で良かったです。

もう大丈夫かと思いますので、あとはお願いしてもいいですか?

拘束はあと2時間くらい解けませんが、念のため眠らせておきますね。

可能でしたら荷台の馬車に乗せて、近くの町で引き渡しをお願いします。」


「それは助かります。色々とお心遣いありがとうございます。

ライオウ殿にお伺いしたのですが、我々と同じ場所に行くと聞きました。

今回の件、ぜひともお礼をさせていただきたいのですが。」


「あー……大丈夫です。お気遣いなく!俺たちちょっと急いでまして。

お気持ちだけいただきます。ありがとうございます。」



盗賊が万が一暴れてはいけないと思い、念のため催眠魔法をかけて眠らせておいた。

すると隊長さんは「ぜひお礼を」と言ってくれたけど、

そこで俺の「スローライフ・センサー」が警報を鳴らした。

ここでお礼なんて受け取ったら、また別の依頼や面倒に巻き込まれるかもしれない。

そう思った瞬間、やんわりと断りを入れると、隊長さんはあからさまに残念そうな表情を浮かべた。

何だか悪いことをしてしまった気もしたけど…俺は深入りしたくないんだ。



「そうですか……それは残念です。

……皆さんは王都に住まわれているのですか?」


「ああ。私たちは気ままに冒険者をやりながら王都で過ごしているよ。」


「そうでしたか。よく見たら……そのプレート、オリオン殿はSランク冒険者でしたか。

あの強さも納得です。」


「え?あ。いやぁ。俺の場合はおまけって言うかなんというか。

……それじゃあ、道中お気をつけて!」


「はい!ありがとうございます。」



隊長さんの視線が俺の胸元で光るプレートに止まった瞬間、しまった、と焦った。

冒険者は常にランクに応じたプレートをぶら下げているから、一目見ただけでその人のランクが分かってしまう。

だけど、このプレートを外した状態では冒険者を名乗れない決まりになっているため、仕方なく付けているんだけど…。こうなるのが嫌なんだよ……

俺は顔を引きつらせながら曖昧な笑みを浮かべ、いそいそと自分の馬車へと戻った。



「ご主人様、終わったでしゅか?コハク、何かしましゅか?」


「コハクはドロシーさんを護ってくれただろう?それがお仕事だよ。ありがとな。」


「へへへっ!褒められたでしゅ!」


「コハクちゃんは私が怖がらないように一生懸命だったよ。偉いねぇ。」


「コハクのお仕事でしゅ!護るでしゅ!」



馬車に戻ると、コハクが何かしたそうに構えていたので「ありがとう」と言って頭を撫でてやると、嬉しそうにはしゃいだ。

その姿に癒されながら再び出発し、足早にその場を離れた。


隊長さんと部下たちは深々と頭を下げ、馬車の中からは先ほどの少女と侍女がペコリと頭を下げてくれていた。

どこかの貴族様なんだろうけど、俺に頭を下げてくれるなんて、俺の嫌いな高飛車な貴族とは違うのかもしれない。

そう思いながら、馬車はグロリアへと向かった。



「オリオン、貴様は欲が無さ過ぎるのだ。何故礼を受けなかった?」


「気持ちは有難いけど、別の騒動に巻き込まれたくないじゃん。」



再び走り出した馬車の揺れに身を任せていると、俺の頭に乗ったラミンのお説教が始まった。

言い訳をすると、その小さな体から苛立ちがひしひしと伝わってくる。



「はぁ……貴様は本当にダメだな……

ああいう時は相手の面子も立てて、きちんと対応せんかバカたれ。」


「えー?だって絶対あれは貴族とかじゃん!

それにSランク冒険者って言われちゃったし、すぐ帰れないかもしれないんだぞ!」


「情けない……おい、ライオネルも何とか言ってやれ!」



そう言いながら、ラミンはぬいぐるみの短い前脚でポカポカと俺の頭を叩き、俺は思わず首をすくめた。

何でそんなに怒るんだよ……一応「ありがとう」って伝えたのに。

そう思っていると、ライオネル王は優しく俺に言った。



「うーん、そうだなぁオリオン。次回からはなるべく礼は受けておいた方が良いぞ。

確かに面倒ごとに巻き込まれる可能性もあるが、自分の周りにああいう貴族がいることで生活しやすくなることもある。

それに、今回のように純粋に感謝されていることもあるのだから、その気持ちを見極めて受け取ってやりなさい?

相手にとっても、救われた恩を返せないのは苦しいものなのだよ。」


「う……ライオネル王に言われたら何かもう“はい”としか言えなくなる!」



ライオネル王の言葉を受けて、さすがは建国の王だと感じた。

俺がぐうの音も出ずに頷くと、隣でラミンが「解せぬ」と言わんばかりに跳ね上がった。



「何故?!我の言う事は聞かぬのだ!!」


「だってラミンは親だしー。ライオネル王はじいちゃんだし王様だからなぁ。」


「親の言う事を訊けーーー!!」



ラミンに「親だから」と返すと、いよいよ限界を迎えたようにバタバタと暴れ出した。

走行中の馬車の中で、ぬいぐるみの竜が俺の頭を掴んで揺さぶるというシュールな光景が広がる。

そこにクスクスとライオネル王、そしてドロシーさんの笑い声が響き、俺は「痛い痛い」と言いながら、それでも何だか楽しくて笑えた。


まぁ、もし次に同じようなことがあった時は、ライオネル王とラミンの意見を聞いてからどうするか決めよう。

そう心の中で思いながら、一生懸命ラミンをなだめていた――……



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