23話 あの子の器
王都に戻った俺たちは、まず冒険者ギルドに顔を出すことにした。
シグナスの様子も気になっていたし、クリスタルフラワーも渡しておきたいからだ。
ギルドの扉を開けると、タイミングよくアリアとハルクさんが一緒にいてくれて助かった。
「アリア、ハルクさん、お疲れさまです。」
「オリオン!もう帰って来たのか?!」
「ちゃんと最上階まで行って討伐してきましたよ。
シグナスの二人、どうですか?大丈夫でしたか?」
「ああ。ちゃんと治癒師に診せて、もう何ともねぇってよ。
オリオンがいなけりゃ死んでたって泣きながら言ってたわ。
ありがとな、オリオン。」
「大丈夫なら良かった。あの時、正直死んだと思った。
でもどうにか治せて良かったです。」
ハルクさんにシグナスの状態を尋ね、無事だと分かりホッとした。
俺の治癒魔法がちゃんと機能していなかったら……と少し不安だったから。
「ハルクさん、これをシグナスに渡してくれますか?
多分、この依頼であのダンジョンに潜ったんですよね?」
ドサッ――
「おまっ……めっちゃ採って来たな、クリスタルフラワー!」
「30階層から最上階層までいっぱい生えてたんで、ついでに。
クリスタルフラワーは枯れないですから保管しておけばいいかなって。
また怪我人が出たら困りますからね……」
「まぁ、確かにな。この依頼は常に来てるから、うちから渡すようにするか。」
「そのほうがいいかもしれませんね。
それじゃあ、俺これから雑貨屋に行くので!また来ます。」
「おう!ありがとな、オリオン!」
シグナスの無事も確認できたところで、摘んできたクリスタルフラワーをハルクさんに手渡した。
驚いていたけど、正直こんなもののために命を懸ける必要なんてない。
冒険者として生きる上で必要不可欠なアイテムならまだ分かるけど……
ただの装飾品で、貴族の見栄のために命を落とすなんて馬鹿げている。
俺たちは貴族のために生きているわけじゃない。そう心の中で思っていた。
「さーて。コハクはどんな器がいいんだ?」
【コハクはラミンパパと同じものがいいでしゅ。】
「なっ……パパとはなんだ小童!」
「いいじゃないのー。子供が二人になったねー。良かったねー。」
【ラミンパパと、じぃじでしゅ!】
「私はじぃじなのか?うむ。良いだろう。我が孫コハクよ。」
「あはは、なんか一気に本当に家族になったんだけど。まぁ、別にいいけどな?」
【ご主人様、ラミンパパと同じやつがいいでしゅ!】
「んー、同じものはないから似たようなぬいぐるみにしようか?」
【そうしましゅ!】
ギルドを出た俺たちは、コハクに意見を訊きながら雑貨屋へと向かった。
その道中で「パパ」と「じぃじ」と言い始めてどうしようかと思ったけど、
何だかんだで二人とも受け入れていて、思わず笑ってしまった。
これでコハクもぬいぐるみに入ることが決まったわけだけど、
できれば生前の姿に似た狐のぬいぐるみがあればいいなと思っていた。
思っていたんだけど、残念なことに俺が思うようなぬいぐるみは雑貨店には置いていなかった。
コハクは「ご主人様が選んでくれたなら何でもいい」と言ってくれたけど、それじゃあ面白くない。
だから別の店に行こうかと外に出た時、コハクが俺たちに言った。
【あの……ご主人様、コハクの体にはもう入れないでしゅか?】
「え?コハクの体にかぁ……
んー、どうだろう。さすがに亡骸に魂をっていうのは俺には出来ないよなぁ…」
【そうでしゅか……それが一番ご主人様が気に入ると思ったんでしゅ……】
「そうだなぁ……うん、それは間違いなんだけど……」
まさかコハクが自分の亡骸に入れないのかなんて言うとは思わなかった。
だけど、それって死者蘇生の魔法を使うってことだよな?
存在はするのかもしれないけど、絶対に禁忌魔法だと思う。
そう考えて悩んでいると、ラミンが「剥製にしたらいけるのではないか?」と呟いた。
確かに、コハクを剥製にして器にすれば動かせる可能性はある。
だけど、王都に剥製専門店なんてあっただろうか…。
「オリオン殿ー!」
「ん?あ、ローランドさん。こんにちは。」
「この前、シグナスの怪我を見事に治していたね!私は感動したよ、オリオン殿。」
「あ、ローランドさんが診てくれたんですか?
あの時は必死だったんで、ちゃんと治って良かったです。」
コハクの剥製について悩んでいると、後ろからローランドさんに声をかけられた。
あの時のシグナスをローランドさんが診てくれていたと知り、少し安心した。
ローランドさんは俺を褒めてくれたけど、俺からすれば最終的にローランドさんが診てくれたから大丈夫だったんだと思っていた。
「ところでオリオン殿たちはこれから何を?」
「あ、実は剥製にしたい動物がいまして。
でも剥製の専門店なんてないから、どうしたものかなって。」
シグナスの話をしていた時、これからの予定を訊かれたので剥製のことに触れた。
ローランドさんなら情報通だから何か知っているかも?と少し期待していたら、まさかの答えが返ってきた。
「剥製でしたら、私が作れますよ?
動物の生態だけでなく、骨格などの勉強も兼ねて剥製を作っていましたから。」
「え?本当ですか?!じゃ、じゃあお願いしたいです!
ローランドさんのお時間がある時にでも是非!」
「大丈夫ですよ。ではこれから剥製にする動物をお預かりしましょうか。
ひとまず一緒に私の研究室に行きましょう。」
「ありがとうございます!」
ローランドさんが剥製を作れるなんて思いもしなかったから、さすがに驚いた。
人だけじゃなく動物についても学んでいるなんて、やっぱりすごい。
そう思いながらローランドさんに付いて行き、研究室へと向かった。
正直、コハクの体はどうにかして残したいと思っていた俺には、
剥製という案だけでもありがたかった。
コハクを剥製にしてもらえるのは本当に嬉しい。
それで、もしコハクの魂が剥製を器として受け入れられるなら言うことなしだ。
死者蘇生の魔法が使えないのは申し訳ないけど……
コハクの魂とコハクの体がもう一度一つになれたら。その思いだけで胸がいっぱいだった。
「オリオン殿、こちらの台に置いていただけますか?」
「分かりました。ライオネル王、お願い!」
「うむ。」
「さすがライオウ様。空間収納をお持ちとは……感服いたしました。」
「なに、私は父より受け継いだスキルなだけよ。」
「譲り受けるというのも才能と言います。ライオウ様だからこそでしょう。」
「……そうかのう?」
ローランドさんにコハクを出すよう言われ、ライオネル王が空間収納を開くと、ローランドさんは「さすがです」と言いながら妙に感動した瞳をしていた。
事情を話してからというもの、この人は本当にライオネル王を尊敬しているようだ。
そもそもこの手の話を馬鹿にせず、きちんと訊いて受け止めてくれたことに驚いていた。
最初は少し鬱陶しい人かと思っていたけど、こうして関わってみないと分からないこともあるんだなと感じていた。
「それより、ほれ。この子だ。名をコハクと言う。」
「コハクちゃんで……白銀の狐ですか。それも双尾のとは珍しい。
しかし、まだ幼いのに……
この子は皆さんの家族だったのですか?」
「いや、そうではないのだ。」
「ん?どういうことですか?」
「コハクは何故かダンジョンの最上階層で力尽きていたんだが、オリオンが魂を拾ってしまってな。
それで家族に迎え入れることになったんだが、気に入った器がなくてな。
それなら剥製にしてもらい、その中に入れば本来の体で動けるのでは?という考えに至ったわけだ。
さすがに死者蘇生の魔法を使うわけにはいかぬからな。」
ライオネル王は褒められるのが恥ずかしいのか、コハクを話題にして話を逸らした。
そして、ダンジョンで見つけた話をさらりと口にするライオネル王。
まぁ、この人とハルクさんには既に話してあるから今更隠す必要もないんだろうけど、ちょっと笑ってしまった。
「そうだったのですか……
相変わらず規格外の体質ですな、オリオン殿は。」
「いやいや…っていうか俺の方がだいぶ年下なのに、この前から急に“殿”って呼ぶのは何でですか?
呼び捨てでいいのに……」
「それは貴様に敬意を払っているからだろう?
まだ子供には分からんかもしれんがな?」
「俺もう18だけど……」
ずっと疑問だった。
なんで突然「オリオン殿」と呼び始めたのか。最初は「君」付けだったのに。
思わずその疑問をぶつけると、頭の上のラミンは「はあ」とため息を吐き、敬意を払っているからだと教えてくれた。
「子供にはまだ分からない」と言われてムッとしていると、その様子を見ていたローランドさんは優しく笑って言った。
「あはは、オリオン殿はオリオン殿ですよ!
では、剥製が出来るまで2週間ほど時間をいただけますか?」
「分かりました!よろしくお願いします!」
何だかよく分からないけど、ローランドさんにとって俺は尊敬に値する人だと受け取ってもいいのかな?
そうだとしたら、何も出来なかったあの頃の自分に言ってやりたい。
努力すれば、多少は報われる瞬間が来るって。
そんなことを考えながら、ローランドさんにコハクの体を預けて王立治癒院をあとにした。
2週間で剥製が出来るものなのかと驚いたけど、ローランドさんの魔法力なら可能なのかもしれない。
【ご主人様、早くコハクの体が出来るといいでしゅね!】
「そうだな。ローランドさんなら安心して任せられるし、楽しみだな?」
【でしゅ!】
治癒院を出てからコハクとそんな話をした。
この王都にも野生の動物たちが時々入り込んで街を駆け回っているけど、コハクもそうなれるといいなと思っていた。
あとは、コハクがどういう状況でああなったのか。
そのことについても訊かなければいけないとも思っていた。
あまり変なことに首を突っ込みたいとは思わないけど…
家族になったコハクのことは、きちんと知っておきたい。
そう思いながら、2週間だけでもコハクが入れる仮の器を探しに、別の雑貨屋へと向かった――……




