18話 精霊との契約
あれからひたすら喋り続けるローランドさんを押しのけて、俺たちは王立治癒院から逃げ出した。
部屋を出る前に、もう一度ヘクターさんとカノンさんに「良かったね」と声をかけ、バイバイと手を振って急いで退散。
俺たちが出て行くと、ローランドさんが追いかけてきたものだから、慌てて王都を飛び出し、そのままダンジョンへ向かった。
ローランドさんって、見た目はすごくカッコいい系なのに、治癒魔法のことになると人格変わりすぎじゃない?
普段のローランドさんは、金髪の長髪が特徴的で、その長い髪を高い位置でひとつにまとめている姿がカッコよすぎると女性にとてつもなく人気だ。
それが、なりふり構わず治癒魔法について語り続けるあの姿は、正直ちょっと引くレベル。
まぁ、だからこそ国でただ一人の王廷治癒師なのかもしれないけどさ。
「はぁ……走ったらめっちゃ疲れた。
それにしても、ライオネル王って、かつての魔法が使えるの凄いな!」
「そうだな。私も本当に使えるとは思わなんだ。
あの魔法はイグニスと私の魔力が合わさって初めて使える魔法だからな。」
ひとまず追ってこないのを確認して、ようやく走るのをやめて歩けるようになり、肩で息をしながらライオネル王の先ほどの魔法について話した。
すると、ライオネル王は「自分でも使えるとは思わなかった」と言い、この人やっぱりすげぇなと思った。
出来るか分からないのに、あんなに自信に満ちた様子で最高位魔法を使ってしまうあたり、王の風格というか何というか…改めて凄い人だなと感じた。
そんな俺たちのやり取りを見ていたラミンは、少し呆れたようにライオネル王へ告げた。
「ライオネルよ。イグニスは貴様の剣に先ほど宿ったぞ。
見ておらぬのか?何も感じなかったのか?」
「なんと?!いつ?!」
「貴様がイグニスに声をかけた時だ。その呼びかけに反応したから、剣の精霊石に命が宿ったのだぞ。」
「そんな奇跡が……しかし、ラミン殿。イグニスは私と共に……」
ラミンがライオネル王にイグニスの存在について話すと、ライオネル王は本当なのかと疑っている様子だった。
実際、彼はイグニスと共に命を終えたのだから、そう思うのも当然だろう。
そう考えていると、ラミンは上位精霊の特性について語り始めた。
「貴様は知らぬかもしれないが、上位精霊は使命のために自ら命を絶った場合、
生まれ変わるのではなく、その想いを永遠にするために新しい精霊にならぬという二つの選択肢が与えられるのだ。
先ほど精霊石が輝いた瞬間、記憶が見えたが……
イグニスは貴様が魂となり浮遊を始めた時から、世界樹ユグドラの中でずっと見守っていたようだ。
もしかしたら、貴様が再び表に出る時には、共に歩もうと思っていたのだろう。」
「そうだったのか……イグニスの奴め、変わらぬな。
では、またイグニスに会えるのか?」
「あれから3000年もの時が経過しておる。今はまだその姿を現せるほどの力はない。
先ほどは、貴様にもう一度きちんと名を呼ばれた嬉しさで、突発的に力が溢れただけだろう。
今は精霊石の中で静かに眠り、いずれその姿を見せてくれるはずだ。」
「そうかそうか……イグニスよ、また一緒に歩めるのだな。私は嬉しいぞ。」
ラミンからイグニスがどのように過ごしていたかを聞いたライオネル王は、腰に下げていた聖剣を抜き、埋め込まれている精霊石を愛おしそうに優しく撫でた。
まさか3000年もの時を越えて再び会える日が来るなんて、誰が想像しただろう。
それもこれも、二人の間にある深い絆が奇跡を呼び起こしたのだと思うと、何だか胸が熱くなる。
時を越えての友情と絆か。
俺には無縁の話ではあるけど、心がポカポカと温かくなるのを感じていた――……
◇
ダンジョン内――
「なぁなぁ、そういえばさっき何で二人ともびっくりしていたんだ?」
「何のことだ?」
「いや、俺が精霊と契約した時の話。ルミエールと契約できた時さ、二人とも固まってなかった?」
「ああ……あれか。」
ダンジョンに入り、魔物を討伐しながら最短ルートでライオネル王の鎧を取りに向かっていた途中、精霊契約の時に気になったことを二人に訊いてみた。
すると二人は目を合わせ、ため息を吐いたあと、ラミンが口を開いた。
「そうだな。貴様は精霊契約のことをほとんど知らぬから仕方がない。
まず、精霊石で契約できるのは下位の精霊のみとされている。
しかし、稀に上位、最上位精霊がその呼びかけに応えることがある。」
「へぇ、そうなんだ?何でそんなことが起きるんだ?」
「精霊と契約できるのは素質と運と言われているが、実際は世界樹ユグドラが認めた者のみが契約できるのだ。
契約の儀を交わすための詠唱は、その者が持つ言霊の強さを測る、いわば精霊界の測定器のようなものだ。
詠唱した瞬間、世界樹ユグドラが判定し、契約者に合う精霊を与える。
そして、ライオネルや貴様のように精霊と強い結びつきを持つ血の者が現れた時、ユグドラはこの世界と世界樹を護らせる目的も兼ねて、上位、または最上位精霊の契約を許すのだ。
とはいっても、精霊本人がその気にならなければ、下位でも契約はできないがな。」
「そうなのか……そんな風にして契約者を選んでるなんて知らなかった。
ってことは、精霊契約ってのは“ユグドラの面接試験”みたいなもんなんだな。」
精霊契約は、正直ただ素質と時の運くらいにしか思っていなかった。
だけど、その裏には世界樹が絡み、自分たちは完全に「選ばれる側」だという事実に驚かされた。
しかも、上位精霊との契約には「ユグドラを護らせる」という目的があるなんて。
うまいこと利用されてるんだなぁ…なんて思った。
でも俺たちも精霊を使って色々やっているわけだから、お互い様なんだろうけど。
「あ、じゃあ今回俺が契約したルミエールって、上位精霊?」
「そうだな。光の上位精霊の一人だ。ライオネルが契約しているイグニスは最上位精霊。
上位、最上位精霊と契約できる者は、この地では王族か竜族のみ。
貴様が竜族である何よりの証拠になったな。」
「竜族ねぇ……恐ろしい種族だな……」
俺が契約したのは本当に上位精霊だったらしく、驚いた。
だけどラミンは「竜族なら当然だ」と言わんばかり。
今まで竜族の証が俺に現れることは何度かあったけど、今回のことでさらに自分の血統が普通じゃないことを実感させられた。
まぁ、それが悪いってわけじゃないけどさ。
俺の人生、転落したと思ったら突然こんな風に好転していくから、不思議なもんだ。
「オリオンよ。精霊はそなたの意思次第で善にも悪にもなりうる存在。
契約した以上は、しっかりと正しい道を歩むのだぞ。」
「正しい道か……俺は“頑張らない毎日”を送ることが正義だから。
そんな悪の道には進まないだろうから大丈夫ですよ、ライオネル王。」
「オリオンはそこはブレないんだな?」
「そう!今の俺はもうSランク冒険者じゃなくて、ただの冒険者ですからね。
せかせかしなくてもいいかなって。それにラミンとライオネル王が一緒にいてくれるから、二人がいてくれる人生を謳歌したいんです。」
「ならば余計にでも鍛錬が必要だな?」
「ラミンはそればっかり!」
ひょんなことから精霊と契約したとはいえ、その責任は重たいと語るライオネル王。
正しい道を行けと言われても、何が正しいのか俺にはさっぱり分からない。
だけど、今歩いているこの道は悪には繋がらないと思う。
だって、常に「鍛錬鍛錬」とうるさい父親と、そっと背中を押してくれる初代王が一緒なんだから。
この二人がいる限り、悪の道に進む要素なんてまるでないよな。
だから今は、こんな感じでゆるーく過ごしていきたい。
ルミエールにとっては活躍の場があまりなくて不満かもしれないけど……そこはちょっと、ごめん。
そう心の中でそっと謝罪した――……




