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16話 彼女の病

「オリオン、どうだ?」


「いい感じです!ライオネル王!!」


「久々に畑仕事をしているが、気持ちが良いな!」


「そうでしょう!朝からやる畑仕事は健康的ですよね。」


「そうだな。私は今、とても爽やかな気持ちだ!」



鎧を身に着けた翌日。

朝食を食べ終えたあと、ライオネル王は俺と一緒に畑仕事をしてくれていた。

ラミンは「やめておけ」と言ったけど、

久々にいろんなものに触れたいという、ライオネル王の希望を叶えた。

表情は見えないけれど、楽しそうな気持ちが伝わってきて、やっている俺も自然と楽しくなった。

ラミンは俺の頭の上で不服そうにしていたけど無視だ無視!

そう思いながら一通りの作業を終え、のんびりしていた時だった。



「オリオンよ、ライオネルが以前憑代にしていた鎧を取りに行かぬか?」


「あ、本当だ。あれ、絶対価値があるから誰かに取られる前に回収した方がいいよな。」


「よし。ではこれから支度をして出かけるぞ。」


「はぁ……好きだねぇ本当。ライオネル王、いいですか?」


「ああ、私は構わんぞ。」



ラミンはどうしても俺をダンジョンに連れて行きたいらしく、

もっともらしい理由を突きつけてきた。

仕方なくライオネル王に訊くと、大丈夫だと言ってくれたこともあり、

俺たちは準備をして出かけることにした。

だけど、不運にも出くわしてしまった。



「おや?!オリオン君ではないですか?!まだ数日しか経っていませんが……

まさか何か危険な目に遭ったのですか!?」


「い、いや……まぁ、ちょっと色々とあって戻ってきたんです。」


「そうだったのですね。

……そちらの方は?新しいお仲間ですか?」



あと一週間くらいは隠れていようと思っていたのに、

ローランドさんと遭遇してしまい、何とも気まずい。

ライオネル王に視線を向けたローランドさんに「新しい仲間か」と聞かれ、

頷いたものの本名を言うわけにもいかず、咄嗟に名前を考えた。



「えーっと、ライ……ライオネ……あ、ライオウです!」


「ライオウさんというお名前なのですね。」


「うむ……そうだ。私の名はライオウと申す。」


「初めまして、ライオウ殿。

私は王立治癒院所属、王廷治癒師をしているローランド・シンクレアと言います。

ローランドと呼んでくださいね。」


「ほう。ローランド殿は王廷治癒師もしているのか。それは優秀な治癒師だな。」


「ありがとうございます。」



ライオネル王の名前をギュッと縮めて「ライオウ」と答えると、

すぐに状況を理解してくれて自ら名乗ってくれた。

そして、ローランドさんが自己紹介をすると、その肩書に興味を持ったライオネル王は、

色々と質問を始めてしまい、すっかり盛り上がってしまった。



「オリオンがそのような治療を成し遂げたとは知らなかった。

さすがだな。オリオンよ。ダンジョンに出かける前に治療院に寄っていかぬか?」


「ええ?……まぁ、ライオネル王は専門ですもんね。

ちょっとだけですからね。」



元々ライオネル王は聖魔法の専門家だったわけだから、

今の聖魔法がどうなっているのか興味を持つのも無理はない。

そう思いながら、仕方なく俺たちはローランドさんと一緒に王立治癒院へ向かうことになった。

ラミンは「ダンジョン、ダンジョン」とブツブツ言っていたけど、

ライオネル王の願いということで渋々了承していた。



「ところで、あのヘクターさんはもう大丈夫なんですか?」


「ええ。無事に回復していますよ。ギルドから届いた光の精霊石もお届けしました。

ただ、精霊とは契約が出来なかったようですが……」


「そうでしたか……」


「ヘクターさんが契約できなかっただけという可能性もあるので、

今日は診察も兼ねて彼女を呼んでいるのです。

良かったらお立会いいただけると嬉しいです。」


「立会いって……俺、治癒師じゃないんだけどなぁ。」


「良いではないか、オリオン。一度診てやりなさい。」


「ええー?じゃあ、ライオネ、ライオウも一緒に診て下さいよね!」


「ああ、良いぞ。ではそうしよう。」



治癒院の施設を見るだけだと思っていたのに、どうしてこんなことになったのか。

俺は治癒師でもなんでもないのに、診たって何も分からない。

頭の上のラミンに目で訴えたけど、ラミンは小さく首を横に振り、すっかり諦めモードだった。


そんな俺たちとは違い、ライオネル王は何だか楽しそうにしている。

まぁ、今日はライオネル王の久々の王都探検記念日みたいなものだと思って、受け入れることにした。

そう考えながら、ローランドさんの後について行った。



「ライオウ殿、ここがウィンエバー王国が誇る王立治癒院です。」


「何と……このような大きな建物で経営しておるのか?」


「ええ。ここには地方の治癒院からの紹介状を受けてやってくる者もいますし、

貴族の皆さんが通う治癒院ですからね。

見た目も中身も、治癒師も一流ばかりなのです。」


「なるほどのう……そうか。

あの頃は分け隔てなく患者を診ておったが。

やはり身分によって受けられる治療は変わるのだな……」


「え?」


「いや、何でもないぞ。病気の女性の診察は今からか?」


「ええ。これから向かいます。皆さん、よろしくお願いしますね。」



王都で一番大きな治癒院というか、この国で最大規模の建物で運営されている治癒院だから、

さすがのライオネル王も驚いていたようだった。

だけど、彼がポツリと呟いた言葉が何だか切なかった。

きっとライオネル王は、身分なんて関係なく誰にでも手を差し伸べてきた人なのだろう。

それが時代と共にきっちり身分で分けられてしまったことが、仕方ないとはいえ悲しいのだと思う。



コンコンッ――



「失礼します。皆さんも、どうぞ。」



王立治癒院には何度か来たことがあるけど、相変わらず綺麗で大きい。

さすが、基本的に貴族が通う病院だな…なんて思いながら、

ローランドさんに促されて部屋に入ると、

入院着を着たヘクターさんと、その彼女と思しき人が並んで座っていた。



「あっ!あんたはあの時のSランク冒険者の!」


「……オリオンだ。」


「オリオン君、本当にありがとう。俺を助けてくれただけじゃなく、精霊石まで探してきてくれて。

自分のためにここまでしてくれる人なんて初めてで…

最初からオリオン君個人に依頼を出しておけばよかったよ。」


「あーいや、俺は何もしてないですから。体の調子はどうなんですか?」


「俺は全然平気!ここの治癒師さん達は皆優秀だからさ、もうすぐ退院も出来るって。

だけど……俺が光の精霊石と契約できなかったから、彼女の病気を治してやれなくてさ。」


「そうか……」



座っていたヘクターさんと目が合うと、何度も頭を下げられて参った。

俺は大したことはしていないと伝えても、

「自分のために動いてくれたことが嬉しかった」と言われ、何だかすごくくすぐったい。

そう思っていると、精霊石で契約できなかったことを悲しそうに口にし、表情を曇らせた。

こればかりは精霊の気分や、その人が持つ素質次第だから何とも言えず、俺は俯いた。

すると、ローランドさんがヘクターさんの肩をポンッと叩き、彼女へと視線を向けた。



「初めまして。私は王立治癒院所属、王廷治癒師をしているローランド・シンクレアと言います。」


「あ……私は、カノン・リッチと申します。

この度は私の病のことで色々とご迷惑をおかけしてすみません…

王立治癒院で診てもらえる身分でもないのに……申し訳ないです。」


「良いのですよ。これも何かの縁ですから。

では、あなた自身がご存じのことについて教えていただけますか?」


「はい。――私の病は毒素病と呼ばれているそうです。」


「……毒素病でしたか。だから光の精霊石を…」



カノンさんは、この場で診察を受けることを申し訳なさそうに呟きながら、

自らの病を「毒素病」と口にした。

その瞬間、その場にいた皆が何とも苦い顔をした。もちろん俺もその一人だった。


毒素病とは、様々な原因で発生した毒素が体内に付着し、不調を引き起こす病。

その毒素は目に見えないものではなく、花の形で咲き、触れることで花粉が口や鼻を通して体内に侵入する。

赤と青のグラデーションが美しい花弁を持ち、毒々しいといえばそうだけど、その花を見た者はなぜか触れたがるらしい。


初期症状は倦怠感や発熱など、風邪に似た症状で気づきにくい。

だけど次第に呼吸が苦しくなり、手の先や皮膚が青黒く変色し始めてようやく毒素病だと分かる。

しかし、その時にはすでに末期の状態であることが多い。

皮膚は完全に黒くなり、幻覚や痺れの症状が出て、昏睡状態に陥り、最終的に亡くなることも少なくない。


そんな毒素病を完全に取り除けるのは、精霊魔法だと言われている。

だけど、精霊との契約は簡単にできるものではない。

俺や、治癒師が使うヒーリング魔法とは別次元の力。それが精霊魔法。

俺たちの魔法は体内の魔力を源に発動したり、自然の魔素を取り込んで魔力として使う。


一方、精霊魔法の根源は世界の中心にある大樹ユグドラ。

ユグドラの持つ力を利用し、魔法として発動できるのが精霊だと言われている。

その魔法力は俺たちの魔法とは異なり、根治が難しい病でもその根源を破壊できるとされている。

精霊石で契約できる精霊は下級と呼ばれる存在だけど、それでも契約ができれば毒素病の根治は十分に望めるらしい。


そう考えると、この中の誰かが光の精霊石で契約できれば助かるのではないだろうか。

それか、何か他に手立てはないものか…そう考えている自分がいた。


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