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14話 王の新たな器

王都で一番大きな雑貨屋さんに到着した俺たちは、ライオネル王に合いそうなものを見て回った。

動物や魔物のぬいぐるみがたくさん並ぶ中、またしてもライオネル王の魂がときめいたのを感じた。



【オリオン!これは何だ?!】


「あ、ライオネル王にはピッタリかもしれない、それ。」


【イグニス……か?】


「そうそう。

王都では、歴代の王と契約した精霊をモチーフにしたぬいぐるみがあるんです。

これが、ライオネル王と契約していたイグニス。可愛いですよね。」



ライオネル王がときめいたぬいぐるみは、炎の形をしたマスコットだった。

素材は見た目にも温かそうな、ふかふかと起毛した柔らかな生地でできていて、オレンジ色がとても可愛らしい。

頭には王冠が乗っていて、くりくりとした丸い黒い瞳が愛らしく、口元にはどこか自信に満ちた微笑みを浮かべていた。

首元には細工の凝った小さな金の鎖が飾られていて、中央には小さな王冠のチャームが揺れていた。

何だか、ライオネル王にピッタリな気がしていた。



【私はこれにするぞ、オリオン。】


「いいね!イグニスはライオネル王と深い繋がりがありますし。

じゃあ、これ買っちゃいましょう!」



無事にライオネル王のお気に入りのぬいぐるみを見つけることができた俺は、パパッとお会計を済ませて店を出た。

人気のない場所に移動し、早速ぬいぐるみの中に魂を移動させる。

大丈夫かな……と様子を伺っていると、右手、左足と動き始めて、無事に魂が馴染んだようでホッとした。



「どう?ライオネル王。」


「うむ。ぬいぐるみの中というのは、実に落ち着くな。気に入ったぞ。」


「良かった良かった!それじゃあ、家に帰ろうかなぁ。」


「何を言うか、オリオン!これから貴様には鍛錬があるだろうが。ダンジョンに向かわんか!」


「向かわないですからー。

っていうか、ぬいぐるみ2匹連れて歩く俺、だいぶヤバそうだけど大丈夫?」


「ぬいぐるみのお兄ちゃんとでも言われておるかもしれんな?」


「だよねー。変な意味で有名になりそう!」



ぬいぐるみの中は落ち着くようで良かったけど、外から見たら俺は絶対におかしな奴確定だよな。

なんて思いながらガラスに映った自分を見てみると、やっぱり笑ってしまうような姿だった。

そんな自分がおかしくてクスクス笑いながら歩いていると、先ほど見に行った防具店の前を通りがかった。

お金を貯めて、いつかあの鎧を購入できたらいいな。


なんて思っていると、中にいた店主とバチッと目が合った。

すると、店主はハッとしたように慌てて店の外まで出てきて、俺に声をかけてきた。



「オリオン君!君に相談があるんだけど、今時間いいかな?」


「え?俺にですか?まぁ、時間あるんで大丈夫ですけど。」


「良かった!じゃあ、ここじゃあれだから中に入って!」



何を言われるのかと思えば、俺に相談があると言ってきた店主。

おかしな依頼でもされるんじゃないだろうか……?

なんて少し不安を抱えながら、店主の後に続いて店の中へ入った。


その瞬間、ライオネル王の魂がまたときめいているのを感じた。

よっぽど、あの鎧が気に入ったんだなぁ……

なんて思っていると、店主はあの鎧の前に俺を連れて行った。



「このセルリア製の鎧なんだけど、誰かもらってくれる人、知らない?」


「え?!な、なんで?」


「実はね、セルリアと夜光石を組み合わせた特殊加工が、着用者に強烈な負担をかけるらしいんだ。

着ると体力が急激に消耗したり、着用者を選ぶみたいに拒絶反応を起こすこともあるらしくて、

誰にも着こなせないんだよ。

オリオン君なら、こういう鎧でも着こなせる人を知らないかなって。

元々譲り受けて店に置いてたものだから、もうお代はいらない。

引き取ってくれるだけで助かるんだ……」


「ああ……なるほど。」



店主にこの鎧の貰い手がいないかと訊かれたとき、正直ドキッとした。

いつか自分で買おうと思っていたものだっただけに、突然なくなるのかと思って焦ってしまった。

でも、手放したい理由を聞いた瞬間、「これは誰ももらわないだろうな」と確信した。

重いだけならどうにかなるけど、体力を消耗して拒絶反応まで起こす鎧なんて、リスクが高すぎる。

さすがに誰も引き取らないだろう……

そう思ったとき、頭の中にラミンの声が響いた。



【チャンスだ、オリオン。今ならタダでもらえるぞ。

召喚獣がいるから、そいつならこの中に入れるとかなんとか言って譲り受けるのだ。】


「あー」



ラミンは、まるで悪魔のささやきのように俺に提案してきた。

そんな嘘をついて呪われたりしないだろうかと悩んだけど、

ライオネル王が本当にこの鎧を気に入っていたことを思い出すと、さらに迷った。

どうしようか。そう思いながらも、一応店主に話をしてみることにした。



「あのー……俺、今、召喚獣を取り扱ってまして。

その子なら、この中に入って動かせるかもしれないです。」


「え?!オリオン君、召喚獣が扱えるようになったの?!」


「実はそうなんです。このぬいぐるみたちの中に召喚獣が入ってて。

普段はぬいぐるみとして過ごさせてるんですけど……

このイグニスの中に入ってる召喚獣の子は、元々騎士のようなタイプで。

その、あの鎧に合うかもです。」



口から出まかせがポンポン出てきて、自分でも驚いた。

こんな嘘っぽい話、店主が信じてくれるだろうか?

そう思いながら反応を待っていると、店主はポケットから鍵を取り出し、

鎧の入っているガラスケースにかけられていた南京錠を開けてくれた。



「……どう?その子、入れるかな?」


「え?いいんですか?」


「どのみち廃棄処分になりそうだったからね。

それなら、オリオン君の召喚獣が動かしてくれる方がずっといいと思って。」


「ありがとうございます!

じゃあ、ちょっと入ってみて。ライオネル王。」


「ああ。このまま失礼するぞ。鎧を動かすには何か媒体が必要だからな。

ちょうどイグニスのぬいぐるみが良き媒体となってくれる。」


「わわわっ!ぬいぐるみが喋った!

本当に召喚獣を飼ってるんだね、オリオン君、すごいよ!」


「ははは……」



店主は、鎧が廃棄処分になりそうだったからと、すんなりとライオネル王を受け入れてくれた。

さすがにぬいぐるみが喋り出したときは驚いていたけど、

初めて見るその姿に、どこか楽しそうでもあった。



「どう?合いそう?」


「うむ……少し待っておれ。」



ガチャン……



鎧の内部から微かな金属の擦れる音が響いたかと思うと、ユラリとマントが揺らめいた。

そして次の瞬間、ゆっくりと、しかし確かな意志を持って右足、左足と動き始め、ガラスのケースから出てきた。



「うおお!動いた!本当に召喚獣が動かしたのか、オリオン君!」



動くはずのない鎧がゆっくりと動き始めると、

店主は目を丸くして、驚きと興奮が混じった声を上げた。

本当に動かせるんだ……

すげぇ、ライオネル王。そう思いながら、俺はもう一度尋ねた。



「どう?着心地は?」


「ふむ。体力の消耗も拒絶反応もない。

しかし、この鎧が求めていたのは、確かに“生命力”や“魔力”だったようだな。

だが、私には関係ない。私は魂のみの存在。それに、魔力も無限だからな。

これほど快適な依代は久しぶりだぞ、オリオン。

イグニスと共に動かせている感じがして、とても心地よい。」


「良かったー。あの、本当にこの鎧、いただいても大丈夫なんでしょうか?」


「もちろんだよ!良かった!これでもう、この鎧を廃棄せずに済む。

僕、この鎧、結構気に入ってたんだ。だから本当に嬉しいよ。

オリオン君、君の召喚獣が動かしてくれるなら、ぜひ引き取ってくれ!」


「ありがとうございます!大切に使わせていただきますね!」



まさか、こんなにも早くこの鎧を手に入れられる日が来るなんて思わなかった。

“呪われたセルリア製フルプレートアーマー”だけど、

ライオネル王やラミンには、そういう類の呪いはまったく関係ないらしくて安心した。

それに、自分が気に入った器に入ることが一番いいことだしな。

ちゃんと用意できて良かった。

そう思いながら、店主に何度もお礼を言って店を後にした。



「良かったですね、ライオネル王。」


「ああ。これで私も、何かあった時は戦えるな。私は剣術もそれなりにできるぞ。」


「そうなんだ。じゃあ、今度は魔法が使える剣を探しに行きましょうか。」


「それがいいな。では、武器屋に向かうとするか。」


「そうしよー。

それはそうと、ラミンは本当にそれでいいの? あんなにカッコいい器があるのに。」


「しつこい。我はこの器で良いのだ。何度も言わせるでない。」


「へぇへぇ。分かったよ。ありがとな、ラミン。」



ライオネル王が剣術も扱えると分かり、それならと武器屋に向かうことにした俺たち。

その道中、ラミンに器について改めて確認したけど、今のままでいいと言ってくれた。

俺の思い出だからなのか、気を使ってくれているのかは分からないけど、

ラミンのその気持ちは素直に嬉しかった。

ぬいぐるみと歩くのも、ちょっと面白い。

でも、俺の隣にセルリア製の鎧を纏った騎士がいるなんて、違和感しかない。

……とはいえ、見た目がカッコいいし、まぁいいか。


そう思いながら、そっと鎧に触れてみると、

ライオネル王の嬉しそうな気持ちが、ほんの少しだけ伝わってきた気がした――



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