13話 もう一つの器探し
何とか無事に王都へ帰還し、ようやく安堵した。
外はもう日が暮れ始めていて、今日も良く戦ったなぁと一人自分を褒めていた。
それにしても、王都に向かうこの道中ずっと騒がしかったな。
この二つの魂たちは、「この景色はこうだった」とか「この場所の魔物はどうだった」とか、もううるさい。
そもそもラミンは卵だったんだろ?!
まぁ、ドラゴンは古の記憶を受け継ぐらしいから、昔話にも対応できるんだろうけどさ。
よそでやってほしいわ……
【我が国の王都は、随分と栄えたものよな。約3000年前からすれば、発展もするわな。
私は魂だけになった時、あのダンジョンに入り、ずっと上位階層で彷徨い続けていたからな。
外の景色を見ることなどなかったから、とても新鮮だ。
唯一の楽しみは王家の発展。不思議なことに魂になっても王家の情報だけはこの身に刻まれ続けたからな。】
「そういえば、この国って建国されてから3000年くらい経つんだよなぁ。
何でライオネル王が初代の王に選ばれたんですか?」
【誰もやりたがらなかったんだよ。この大陸がまだ誰のものでもなかった時代だった。
仲間内で始めた“国創り”というやつだな。】
「ええっ、そうだったの?
でも、王族の血が始まりじゃないんですか?
てっきり、誰か特別な血筋だったから選ばれたのかと……」
ライオネル王は景色を見るなり、驚いたような声で話しかけてきた。
3000年も経てば、そりゃ変わるよな……
なんて思っていた時に、ふと「なぜ初代王になったのか」が気になって訊いてみた。
すると、まさかの答えが返ってきて驚いた。
国の始まりって、てっきり“選ばれた血統”の人がなるものだと思っていたけど……
まさかの消去法だったとは。
【フフッ。当然の疑問だ、オリオン。
私が選ばれたのは、聖魔法を最も強く扱え、火の精霊イグニスの存在を感じ取れた唯一の人間だったからに過ぎん。
当時の私に、特別な血などなかった。
そして、我々が建国をした時に出会った竜族の連中と気が合ってな。
いろんな話をするうちに、この種族は我が国にとって必要不可欠だと判断した。
それで、彼らを国の導き手として指定したのだよ。】
「へぇ……なんだか意外な始まりなんだなぁ。」
ライオネル王が聖魔法に長けていたという記述は、この国の歴史にも書かれていた。
それが本当だったんだなぁと思うと同時に、精霊を感じ取れる力があった時点で、
実際には特別な才能を持っていたんだろうなとも思った。
だからこそ、竜族とも気が合い、ずっと一緒に歩んでいく存在になったんじゃないかな。
そう思いながら、この国の最初の歴史の真実に触れた今日は、なんだかえらく特別な日に感じられていた。
「オリオンよ。結局1日で帰ってきてしまったではないか。
2週間と言っていたのに、どうするつもりだ?」
「あ……本当だ!ちょっと家で引きこもるか!そうしよう!」
「バカなことを言うな。その前に、せめてライオネルの器を探さんか。
そうしなければ、そのうち貴様の体に負担がかかるぞ。」
「え?それはいや。じゃあ、ちょっと器を探そうか。
ライオネル王、どんな器がいいですか?」
【そうだな……ところでラミン殿は、なぜそのぬいぐるみに?】
「これは、こやつが捨てられていた時に持たされていたぬいぐるみのようでな。
見た目が気に入って入ったのだ。割と入り心地も良いぞ。」
【そうなのですね。
というかオリオン……そなたは孤児なのか?】
「あー、うん。実はそうなんだよね。」
無事に王都に帰ってこられたことに満足していた俺だったけど、
ラミンに今朝の約束を思い出さされて、ガクッと肩を落とした。
そういえば、王廷治癒師のローランドさんに会わなくちゃいけないんだった。
あと2週間、どうにか隠れて過ごさなきゃ……
と思っていたところに、ライオネル王の器を探せと怒られた俺は、どんな器が好みなのか確認した。
すると、ライオネル王はラミンに質問をし、その流れで俺の孤児の話題になってしまった。
歩きながら話すことでもないと思い、ひとまず家に戻って俺の生い立ちを説明した。
最初はきっと家族がいたこと。
気づけば貧民街に捨てられていて、10歳の時に暁の翼に拾われたこと。
そして、自分が未熟なこともあって、追放されたというところまですべて話すと、
しばらくの間、無言の空気が続いた。
もうその辺は、ラミンがいてくれる時点でだいぶ気持ちは落ち着いてきてるから、大丈夫だよ。
そう言ったけど、二人とも何か言いたそうな雰囲気だった。
この話を長引かせたくなかった俺は、ライオネル王に別の話題を振ることにした。
「ライオネル王、明日お店が開く時間になったら器を探そうと思うので、
それまでにどんな器がいいか考えておいてくださいね。」
【……ああ、そうだな。ちゃんと考えておく。】
「よろしくお願いします。んじゃあ、ひとまずお風呂の準備しますかねー。」
【……うむ。】
器の話題を振って、無理やり俺の過去の話は終わらせた。
あんまりしんみりしたくなかったからな。今日は疲れたし、もうおしまいおしまい!
なんて言いながら、俺は風呂の準備に取り掛かった。
本当、疲れたよ今日は。レベル上がったのに怒られるし、突然初代王様に出会うし……
だから今日はもう、何も考えずに寝よう。
そう思いながら、小さなため息を吐き出した――……
◇
翌日――
「行きますか。」
【よろしく頼むぞ、オリオン!】
「さっさと決めて、ダンジョンか依頼を受けに行くぞ。」
「何も聞こえなーい。じゃあ、ライオネル王よ、行きましょうね。」
【行こうぞ!】
「ぬぐぐっ……」
今日はライオネル王の器となる何かを探すために出かけるわけだけど、
ラミンは相変わらず鍛錬の鬼と化しているので、聞こえないふりをした。
それに今日は、王立治癒院の連中に見つかりたくなかったのもあって、
黒いローブに身を包んで一応変装してみた。
早いところライオネル王が気に入る器を見つけて帰りたい。
誰かに見つかったら何を言われるか分からないからな。
そう思いながら、まずはライオネル王の希望を聞いてみた。
【私は今まで騎士の鎧の中に入っていたからな。居心地は良いかもしれないな。】
「鎧かぁ。でも、あれ高そうな鎧じゃなかったですか?」
【私の代で使用していた騎士団の鎧だな。】
「え?!それってすごい貴重なんじゃないの?置いてきて良かったんですか?」
ライオネル王が今まで器として使っていた鎧が、まさか年代物の騎士団の鎧で、かなり貴重なものだったとは知らなかった。
持って帰ってくればよかったかなぁ……
でもまぁ、あそこに行く人はあまりいないし、今度行ったときにまだ置いてあったら引き取って帰ろうかな、なんて思っていた。
あれには絶対敵わないけど、いい器を用意するから!
そう思っていた矢先、ライオネル王が精霊石について口を開いた。
【オリオンよ。光の精霊石だがな、先に誰かに預けた方が良いのではないか?
もし一刻を争う事態であれば、先に病気の民に届けてやった方が良い。】
「あ、確かにそうだよな。
じゃあ、先に冒険者ギルドに行って、ハルクさんかアリアに預けてから器探ししましょうか。」
【そうしろ。その方が賢明だ。】
このまま二週間も隠れて過ごしている間に、彼女さんに万が一のことが起きては元も子もない。
俺はライオネル王の助言に従い、急いで冒険者ギルドへ向かった。
ちょうど外に出ていたハルクさんに精霊石を手渡し、「ローランドさんには俺が帰ってきたことは内緒で」と念を押してから、防具屋へと向かった。
店に入ると、数ある防具の中に鎧も飾られていて、どんな種類の鎧があるのか見てみようかなと近づいてみた。
【3000年もの時間が経てば、こうも変わってくるものなんだな。】
「この鎧は、割と一般的なタイプで、防御力と機動性のバランスが良くとれてるらしいです。
あ、でも顔が出るからダメか……」
軽装系から一般的な鎧を見てみたけど、どれも顔が出るタイプばかりで、魂であるライオネル王には不向きすぎる。
そう思いながらフルプレートアーマーの方へ向かうと、ライオネル王の魂がキラッとときめいたのを感じた。
【あれは何だ?透明な箱に入って、やけに黒光りしておるな。】
「え?ああ……あれねぇ。あれはセルリアで作られた特注アーマーですよ。
セルリアで作ってるんだけど、夜光石を溶かして一緒に精製したら黒光りするんだって。
角度によってちょっと青くなったりして、すごく綺麗なんですよね。
でもセルリアだから、すっごい高いよ。5000万ガルドだって。ってことは金貨500枚か…」
【うむ。セルリア製か……
私はあれが気に入ったが、セルリアでは購入は無理だな。】
「あれが気に入ったのかぁ。んー……」
ライオネル王は、どうやらセルリア製のフルプレートアーマーが気に入ったらしい。
セルリアと言えば、どこの国でも特定鉱石として扱われ、発見した場合は必ず国に献上することが義務付けられている特別な鉱石の一つ。
極めて希少なため、一般人が使用することはなく、貴族・王族・Sランク冒険者など、選ばれた者にしか与えられない。
今の俺には「暁の翼」というネームバリューもなくなったし、欲しいと言ったところで購入できるはずもない。
【オリオンよ。別に良い。違う器を探しに行こう。私はラミン殿と同じぬいぐるみでも構わぬぞ。】
「ええ?ぬいぐるみぃ?
……じゃあ、一応雑貨屋さん行ってみよっか。恥ずかしいけど……」
どうしようかと悩んでいると、ライオネル王は「無理しなくてもいい」と言ってくれて、ラミンと同じぬいぐるみでも構わないと言った。
俺は防具屋を出て、ぬいぐるみが多く売っている雑貨屋へと向かった。
雑貨屋という場所は、なんとなく女性が多いイメージがあって、俺一人で入るのはちょっと恥ずかしいなぁと感じていた。
「オリオン、貴様、恥ずかしいとか言っているが、既に我を頭に乗せておるではないか。
今さら恥ずかしいも何もないだろうが。」
「あ……まぁ、そうだな。この時点で俺、おかしい奴だったわ。」
「おかしくはないわ、バカたれ。
我が入った時点で、このぬいぐるみは気高き竜の姿となったのだ。
何も恥ずかしくも、おかしくもないわ。」
「はは、それはそれは。とてもポジティブな父親でいいですなぁ。」
「はぁ……」
俺が恥ずかしいやらおかしいやら思っていると、それが分かったのかラミンは「何も恥ずかしいことはない」と言い切った。
ぬいぐるみさんはいつだってポジティブだなぁ。
なんて茶化していたら、大きなため息を吐かれてしまった。
これがもう一つ増えると思うと、ちょっと大丈夫か?と思ってしまうけど……
まぁ、しょうがない。
そう思いながら、俺は雑貨屋を目指して歩いていった。




