第10話 偽りの旅支度
ダンジョンでの人命救助依頼を達成して三日後。
ハルクさんから「時間がある時にギルドに顔を出してくれ」と通達があった。
行きたくないなぁと思っていたら、ぬいぐるみのラミンが俺を家から叩き出して、無理やりギルドに向かわせた。
「ねぇ、俺行きたくないんだけど。」
「呼び出しを無視する冒険者がどこにおるのだ!」
「ここにいるだろ。」
「貴様は本当に情けない……」
「へぇへぇ。」
頭の上にいるラミンは、毎日のように「竜族の自覚を持て」だの「鍛錬に行くぞ」だの、そればかり言う。
今日だって「ギルドからの呼び出しなら依頼だろう」とケツを叩かれ、家から追い出された。
スローライフするって言ってるのに、全然分かってくれないんだよな……
なんてラミンへの不満を心の中で延々と呟いているうちに、ギルドに到着。
扉を開けると、そこにはハルクさんと、王立治癒院の制服を着た見知らぬ治癒士が一緒にいた。
嫌な予感がしたんだよ。だから来たくなかったのに。
「オリオン。すまないな。こちら、王立治癒院のローランド・シンクレアさんだ。
ローランドさん、こちらが話していたオリオンだ。」
「初めまして、オリオン君。
私は王立治癒院所属、王廷治癒師をしているローランド・シンクレアと言います。
気軽にローランドと呼んでください。」
「はぁ……えっと、俺はオリオン。
――オリオン・カムエルと言います。」
「あ?オリオン、ファミリーネームあったんか!」
「最近できた……」
「ああ?」
「えっと……それよりローランドさん、ハルクさん。俺に何か用でしょうか?」
突然現れたこの人は、王立治癒院に所属しながら、王廷治癒師を兼任していると言っていた。
つまり、王立治癒院の治癒師の中でもトップの治癒師ということだ。
王廷治癒師は、難病や特殊な傷、治癒院に持ち込まれた魔法的な毒の解明と治療を担当。
王族や国の中枢を担う人物の治療も行うとされ、この国ではたった一人しかいない。
そして、その下にいるのが宮廷治癒師。
王族や高位貴族の日常的な健康管理や、王廷治癒師の補佐を行う治癒師で、五人しかいないと聞いたことがある。
そんなローランドさんが俺に用事…?
絶対に、あの人を治療した時の話だよな?!そう警戒していた。
「先日君が助けた男性。あ、彼はヘクターという男性なのだが、
そのヘクター君を治療した時の話を、私にも聞かせてくれないだろうか?」
「はぁ……」
「君が行ったと話した治療を聞いた時は、正直信じられなかったんだ。
そんなことができる人間がいるはずないってね。
だけど、実際に彼を診た時、体の中に精霊石があった痕跡が見つかって、
治療方法の話は本当なのかもしれないと思ったんだ。
だから今日は、どうしても君に会って話がしたくてね。」
「話すも何も……」
俺の嫌な予感は的中した。
やっぱり、俺の治療方法についての話がしたいっていう、何とも面倒な展開になった。
思わず、頭の上にいたラミンをギュッと抱きしめると、頭の中にラミンの声が響いた。
【良い機会ではないか。貴様の竜族としての能力を伝える時ぞ!】
(バカじゃないの!俺はスローライフを送りたいのに、説明したら絶対面倒なことになるって!)
【バカとは何だ!貴様の能力は、他人が知りたいと思うほどの力だぞ!】
(だからそれが嫌なの!んもう!!どうにかしてよ!)
【はぁ……情けない男だ……】
(いいから!!お願い!!お父様!!)
【……これからダンジョンに光の精霊石を探しに行くから、今度にしてくれとでも言えば良かろうが。】
(ああ!そうする!)
頭の中でのラミンとの会話。
ラミンはやたら俺の能力をひけらかそうとするけど、それだけは絶対に嫌な俺。
どうにかしてくれと頼むと、光の精霊石の話題を振ってくれて「それだ!」と思い、口にした。
「あのー、大変申し訳ないのですが、
これからダンジョンに光の精霊石を探しに行くので、お話はまた今度でもいいですか?
急がないと、ちょっと面倒なことになるので……」
「ああ、そうだったのですか。それは申し訳ないことしましたね。
では、日を改めるとしましょうか。
いつ頃こちらに戻ってこられそうですか?」
「最上階まで行く予定なので……2週間後とかですかね。」
「2週間ですね。
では、戻られましたらハルクさん経由で連絡をいただけますか?」
「……分かりました。」
「ハルクさん、オリオン君。今日は突然すみませんでした。
君といろいろ話せる日を楽しみにしています。それでは、失礼します。」
「はぁ……では。」
ラミンの提案のおかげで、ひとまず俺は面倒な説明をせずに済んだ。
そして「最上階まで行く」と嘘をついたことで、2週間は追いかけられずに済む。
そう思って、ひとまず安堵した。
「オリオン、すまなかったな急に。どうしてもお前に会わせろってうるさくてな。」
「やっぱりそうでしたか。いやぁ、前に説明した時にギョッとされてたので、
治癒院の制服を見た瞬間、絶対そうだろうなって。」
「また2週間後に来るぞ?ちゃんとどうするか考えておけよ。
それより、本当に行くのか?ダンジョン。」
「えー……」
【行くからな。】
「……はい。俺が精霊石を壊してしまったので。
可能であれば、見つけたいなって。」
「そうか……分かった。
帰還石を渡しておくから、危なくなったら戻ってこいよ。」
「ありがとうございます!助かります。
それじゃあ、準備したら行ってきます。」
「ああ、気をつけてな。」
ローランドさんがギルドを出て行ったあと、ハルクさんはすぐに「悪かったな」と声をかけてくれた。
あの手の人は絶対に諦めないだろうから、ちゃんと対策を考えておかなきゃな。
なんて思っていると、「ダンジョンに行くのか?」と訊かれ、少し迷ったけどラミンの圧力もあり頷いた。
もしまた精霊石が見つかれば、あの人……ヘクターさんだったか?
彼の願いと、彼女にとっての希望になるだろうから。
それに、俺自身もずっと罪悪感があった。
精霊石が見つかることで、この引っかかっている感じも、少しは消える気がしていた――
いつも読んでくださってありがとうございます!
登場人物たちのキャラクター紹介ページを作りました。
まだ未完成ではありますが…
AIイラストと一緒に、物語の世界を少しでも感じていただけたら嬉しいです。
https://note.com/sorariaru_17/m/m8f8c24816dc4




