第1話 突然の解雇通知
「オリオン。ここからは危険だ。荷物持ちはもう必要ない。今日でお別れだ」
俺はSランクパーティ【暁の翼】所属の荷物持ち、オリオン。
そして、たった今そのパーティをクビになった。
「……やっぱり、俺は何の役にも立たなかったんだな」
皆の荷物をまとめる手を止め、深く頭を下げる。
顔を上げると、彼らは優しい笑顔を向けてくれた。
「今までありがとう、オリオン。少しだが、これはこれまでの報酬だ」
「……ありがとう」
「それじゃあ、またな」
暁の翼のリーダー、エドのその言葉に、少しだけ胸が痛んだ。
“またな”……なんて、もう二度と来ないというのに。
長い間、俺はこのパーティで荷物持ちを務めてきた。
だけど、所詮は荷物持ち。
これからの冒険には“お荷物”は不要ということなんだろう。
そして、足手まといの俺が死なないための、最後の優しさ。
俺はそう思った。
「はぁ……家に戻るか」
自分の荷物だけを持ち、暁の翼の拠点を後にした俺は、小さな自分の家へ戻った。
いつもは拠点で生活していたけど、今日からは一人の夜。
静かな部屋の中、背負っていた荷物を下ろす。
「明日からどうしようかなー……単独で依頼受けてのんびり暮らすかな」
ベッドに寝転がった俺は、無職になった事実を改めて受け止め、明日からの生活を考えた。
当分の間、誰とも組む気は起きないし、いつものように一人でダンジョンに潜るかな。
「……まあ、何でもいいや」
色々と考えてみたものの、面倒になってきた俺はまた明日考えようと放り投げた。
まずは明日、冒険者ギルドに行って、ソロの冒険者になったと報告して……
ちまちま依頼を受けて……平和にのんびり暮らそう……
そう思いながら、急な睡魔に襲われて瞼は閉じていった——……
◇
翌日——
「というわけで、今日から俺はソロでやることになったよ」
「そうだったのですね……なんだか切ない話ですが、
暁の翼の皆さんの優しさなんですよね、きっと……」
翌朝、俺は一番に冒険者ギルドへ向かい、受付のアリアに昨日のことを報告した。
アリアとは俺が10歳で暁の翼に入ってからの付き合いだから、もう8年になる。
メンバー共々いつも世話になっていたから、きちんと報告しなきゃと思っていた。
「そうだな。きっとそうだと思う。
それで、これから一人でやるけど、今のままSランクで大丈夫なのかな?」
「一度決まったランクは、降格でもない限り変わりませんので、そのままSランクです。
ですが依頼を受ける際は、自分で行けそうだと思ったものを選んでもらって大丈夫ですよ」
「そっか。ありがと、アリア」
これからはソロになるけど、ランクの状態が気になって確認すると、何も変わらないと分かった。
いいんだか悪いんだか……
俺のランクは、他のメンバーのおこぼれで上げてもらったものだったからな。
そう思いながら、アリアに言われた通り、
俺にできそうな依頼だけを受けていこうとギルドを出た。
向かった先は、森の中にあるダンジョン。
あのダンジョンは、俺が暁の翼に入ってから夜な夜な通っていた場所だ。
荷物持ちとはいえ、少しでも皆の力になりたいと思っていた俺は、
依頼が終わった後も毎日のようにダンジョンに潜って、自分のレベルを上げ続けていた。
俺たちは、冒険者ギルドや教会などで情報提示をしてもらわなければ、
自分のレベルなどを確認することは出来ないらしいけど、
何故か俺は自分のステータスが確認できていた。
ここ1年ほど冒険者ギルドで正式な測定はしてもらっていないけど、
自分のステータスが見えていた俺は、とにかく必死になってたくさんのことを覚えた。
最初はすぐに死にかけて、何度もダンジョンをリタイア。
だけど、少しずつレベルが上がっていき、探知系スキルはレベル30で習得。
回復系をはじめとする支援魔法は、レベル50からそれぞれ覚えた。
さらにレベルが上がると、少しずつ遠隔魔法も使えるようになった。
これで俺も、皆の役に立てるかもしれない。そんな淡い期待を胸に秘めていた。
——だけど俺は荷物持ちだから、何もしなくていいと何度も言われていた。
だから、暁の翼として依頼を受けた時は、
こっそりバレないように皆を支援して強化して、時には遠隔で事前に魔物を倒したり。
俺は俺なりに、皆のために必死に戦っていた。
……つもりだったけど。
やっぱり俺は、皆の足手まといという結果は変わらなかったんだな……
「さてと……今日も少しでもレベルを上げましょうかね」
考えても辛くなるだけだからと、俺はいつも通りダンジョンの最上部を目指して歩き始めた。
ここにいる時は、自分が少しずつレベルアップして、
自分という存在が認められるような気がして落ち着く空間だった。
気づけば孤児だった俺は、独りには慣れている。
だけど、あの日暁の翼の皆に拾われて、独りの時間から皆で過ごす時間が増えて、
人生ってこんなにも変わるのかと喜んでいた。
それが今じゃ、すべて夢だったんじゃないかとすら思う。
「はぁ……俺ってこんなに女々しかったか?」
突然の追放にナーバスになるのは分かるけど、
幼かったあの頃から今日までのことが頭に浮かびすぎて嫌になる。
もう全部忘れろ、俺。いくら考えても、あそこには戻れないんだ……
そう自分に言い聞かせながら、トボトボと歩いていた時だった。
ガラガラッ……
「ん?」
ピキッ ピキピキッ
「え……ええええええええ?!」
何てことない、ただの地面。
いつも歩いている地面は、そう簡単に穴が開くつくりではない。
それなのに突然鈍い音を立てはじめ、気づけば俺の周りの地面に大きな穴が開き、
避けるすべもなく真っ逆さまに落ちていった——
普段ならこんなミスはしない。
ピキッと割れ始めた時点で、なんで避けなかったんだよ俺!
それもこれも、突然の解雇通知のせいだ……
気持ち新たに始めようとした矢先にこれかよ!
このまま俺は穴の底で死んでしまうのだろうか……
そう思うと、何ともあっけない人生だな。
まぁ……孤児だった俺には、お似合いの最期かもしれないな。
そう思い、何もかも諦めて、そのまま落ちるところまで落ちていった——……




