朝礼 2
肩を叩いたのは、大人しい性格の夢沢ケンだった。
長い前髪の隙間から、狐目がこちらを見下ろしている。
「分かるわけないでしょ」
私はうっかり悪態をついてしまった。
「そうだよね」
ケンはため息混じりに微笑み、服の襟を整えた。
かけているメガネのレンズが、きらりと反射する。
「……」
「問題、難しいのかな?」
「分かんない」
私は前に向き直った。
「問題ってなんですか…?」
大人しい性格の女子が、おそるおそる手を上げた。
担任は無表情のまま女子に目を向ける。
「うち何も対策してない」
「間違えたら死ぬってやばくない?」
女子の一言を皮切りに、また生徒たちが口々に話しだす。担任は少し困った表情を見せた。
「問題用紙を配布します」
担任は紙の束を生徒たちの机に置き始めた。
「校内地図?」
誰かが口走る。
(2023年6月2日、2024年9月8日……)
担任が置いたのは1枚の校内地図だった。
ところどころに赤いバツ印がつけられ、その横には日付が書かれている。
(答えを求めなさい……)
校内地図にはその一文だけが載っていた。
「意味分かんねーよ。めんどくさ」
隣の席の西条カケルが呟いた。
「どういうこと?」
カケルは私に顔を向ける。カケルの右手には、ぐしゃぐしゃになった校内地図が握られている。
「西条、やめなさい!!!!!!!」
担任がカケルを諌める。
担任の表情はどこか強張っていた。
「こんなもん、くだらねー」
カケルは担任に挑発的な笑みを浮かべた。
机に乗り、カケルは校内地図をビリビリに破いた。
「西条!!!」
担任の鬼気迫る表情とほぼ同時だっただろう。
「ぐああああああああああああああああ」
教室前方から黒い影が複数表れ、カケルの首を締め上げた。カケルはあっという間に持ち上げられ、顔はみるみる青白くなっていく。
「タス……ケ……」
カケルは担任に目を向ける。
担任は困った顔のまま立ち尽くしていた。
教室内は静けさを帯びる。
カケルの断末魔だけが教室に響いた。
しばらくして、カケルは動かなくなった。
カケルの亡骸は床に落とされ、カケルの瞳は傍観者の私を見据えていた。恨みのこもったカケルの瞳から、私はすぐにそらしてしまった。
ピンポンパンポンというチャイムが鳴る。
ジジッという音とともに、校内放送が入った。
「「問題を放棄してはなりません。必ず最後まで解くように」」




