二十六
「硝煙反応は陽性。でも、やってないと言うんだな」
斎藤孝(警視庁捜査一課・警部)は、前田に向かって困った顔をわざとしてみせた。
「二人共、やってねーと何回言えばわかるねん!」
うんざりだと言わんばかりの前田に腹立ちを覚えた。
取り調べの基本であるラポール形成が、嘘つきの前田とでは難しい。虚偽供述なのは分かりきっている。
「それはクラッカーを! 何回、同じこと言わせるんや」
「クラッカーをね。いつの時代の」
いつの時代の通じるやり方だよ、と言いかけたが斎藤は言葉を呑んだ。発射残渣の成分として、科捜研はクラッカーによるものと、銃弾によるものとを相対的に特定を完了していた。金属元素などクラッカーにはない成分と、反対にクラッカーにしかない成分といった具合に、両方が特定されている。
つまり前田がクラッカーを鳴らしたことが事実なことも、銃を使ったことが事実なことも、共にわかっていた。
犯行に使われた二発の弾は精密に比較され、弾についたライフルマークの幅、深さ、角度、螺旋のパターンは一致。
二人の殺害に使われた銃は、見当たらないとはいえ同じだとして、前田の着ていた服の袖に多く付着した発射残渣は、物的証拠として犯行を裏付けた。
前田の発砲によるものと報告は受けてはいたが、そこはあえて斎藤はまだ黙っていた。
「オレがやった証拠なんてないやろが?」
「どうだろうな、今そこを調べてる」
発射残渣という手持ちの証拠を伏せることで、証拠の有無を知りたい前田の欲求にはまだ応えないことにした。
「じゃあ、これが最後にもう一度聞くけど、二人共、鉢平が殺したと言うんだな?」
「そうや」
「あのね、共犯の鉢平が逃げ回ってる以上、このままいけば前田、二人殺してんだから極刑もあるよ」
「殺してへん」
「前田、三島組に義理立てして口閉じてるとかないよな?」
「三島組ってヒドイとこだな」
「自分とこの人間を、坂本組に売り渡しちゃって。その話聞いた時はびっくりしたよ」
「共犯は鉢平の他にもいないんだな?」
「おらん」
「思い出すこと、もうない?」
「ない」
「じゃあ話、変えようか。全部OK・スーパープレミアムコースについてまた聞きたいかな」
口をつぐむ前田に斎藤は話題を変えた。
「前田、お前、天才だよ。そんなコースあったらオレが行きたいくらいだよ」
斎藤は笑って言った。




