第二話
俺はエルフィス領に隣接する魔物たちの住む森で、盗賊たちを鏖殺していた。
ここで説明しておこう…魔物や魔力の存在を。えっ?説明するのが遅いって?それについては本当に申し訳ない。
魔力の起源はとっても昔…それこそ神が地上にいた時代まで遡る。神代の時代…人と神が共に暮らしていた時代。そんな平和な世界にある一つの、歴史上唯一たった一人で世界を滅ぼしかけた災厄が顕れる。
その災厄は魔神。
たった一人…しか人知を超えた力を持つ神々を次々と滅ぼしていった。魔神により何千、何万といた神々が百体未満といったところまで減ってしまった。
だがその魔神はいかにもあっけない形で消滅する。それはエネルギー過多による自然消滅だ。おそらく圧倒的な力に身体がもたなかったのだろう。
しかし魔神は最期に持てる全てを使い、世界に自分の力をばら撒いた。それが魔力だ。やがて魔力は人間の身体に馴染み、人間は魔力を使って魔法という魔神の使っていた技術を使えるようになった。
といっても魔神のような魔法を使えるような存在はこの世には存在しないんだけどな。
話を戻そう。魔神が魔力をばら撒いて、人間が魔力に馴染んだところまでは良かった。しかし人間だけではなかったのだ…魔力に馴染んだのは。
いろいろな動物たちが魔力に馴染み、魔法を使える個体が出てきたのだ。そんな魔法を使える動物たちのことを魔物と呼ぶ。
ちなみにだが魔神の魔の手から生き残った神々は、世界が創造される前に住んでいた天界へと戻っていった…と言われている。
これで魔法について分かっただろうか?ん?属性とかはないのかって?あるにはあるんだけど、説明って必要かな?まぁ一応しておこうか。
魔法は基本五属性に希少属性、そしてすでに喪われた古代属性というものがある。古代属性を使える人間は、神代から受け継がれてきた血筋の持ち主。または天魔族のような、超常的な生物の血を引いている人たちしか使えない。
基本五属性は無属性、火属性、水属性、風属性、土属性だ。無属性は身体強化や、探査などをする魔法が分類される…ちなみに誰でも使える。他の4つは普通に、文字通りのことができる。
次に希少属性だが、この属性で代表的なのは光属性と闇属性だ。希少属性に関しては、該当する属性が多すぎて、説明できない。ちなみに光属性の代表的な使い手は勇者、闇属性は魔王である。
最後に古代属性だが、知られているのは3つしか存在しない。それが氷属性、雷属性、時空属性だ。氷と雷はそのままだが、時空属性は時とついているが時間が操作できるわけではない。
簡単にいうと空間に作用するのだ。例えば自分の位置と相手の位置を入れ替えたり、空間の重力を無くしたり、空気を無くしたりなどできる。だがそれをやったりするやつはいないと断言できる。なぜなら自分もその影響を受けるからだ。やるとしても位置の入れ替えぐらいだろう。
まぁあんまり強くなさそうだが、その理由は時空属性の使い方次第だ。時空属性はそもそも武器などに付与することによって、真価を発揮する。
例えば剣に時空属性を付与したとしよう。するとなんでも斬れるのだ。なぜなら剣に時空属性を付与すると、空間ごと斬れるからである。俺の説明で分からなかった人もいると思う。でも大丈夫。俺もよくわからん。
まぁ時空属性は武器に付与するものだと覚えてもらえればそれでいい。
ちなみに俺の魔法適性だが基本属性は水と火属性だ。次に希少属性だが光と闇、幻属性であった。
光属性と闇属性に関しては、当然といえば当然だったかもしれないに。勇者は天使の血をほんの少し与えられた存在で、魔王は悪魔の血をほんの少し与えられた存在だ。そして俺は天使と悪魔のハーフである。これで光属性と闇属性が無ければ、逆に怖い。
幻属性についてだが、これは霧のようなものだ。目眩ましぐらいにしか使えないと思ったのだが、肉体を霧に変えることも可能なのだ。しかもこの技術がかなり便利で、致命傷を負うような攻撃も、身体を霧化すれば防げるのだ。
まぁ前座はこれくらいでいいだろう。えっ?さっきまでのでお腹いっぱいだって?じゃあ古代属性について聞かなくて良いの?予想はついてる?まさかまさか。俺はそこまでチートを持ってないよ。って、すでにこれだけチートを持っている俺に言われてもか。
まぁ聞いてください。俺が持ってる古代属性は氷属性です。えっ?2属性以上持っていないのかって?だから言ったでしょ?俺はそこまでチートを持ってないって。まぁでも古代属性を持ってるだけでチートかもね。
さて、魔法とかの説明はこれくらいにして、俺が盗賊を鏖殺している理由を説明しよう。
時は1時間ほど前に遡る。
俺はオーガ討伐を無事に終えて、ギルドへと戻ってきた。そこで俺を待ち構えていたのは、ヒンセル支部長と、その補佐をしている副支部長のユフィさんであった。
2人は俺を馬鹿みたいに強い力で掴むと、そのまま応接室まで連れて行った。ここで逃げておけば良かったと、今の俺はとてつもなく後悔している。
応接室で俺たちを待っていたのは、この領内で最も高貴な御方…エルフィス公爵家現当主セイル・エルフィス様であった。
見間違いであったら良かったのだが、ヒンセルさんとユフィさんが膝を床につけて、最上位の貴族や王族にする礼をしたのだ。もうこの時点で公爵様なのは確定した。
この時はまだ、俺がここに呼ばれた理由をわかっていなかった。冒険者以外の人間とこの部屋で話すことなど、一つしかないのに。
俺もヒンセルさんたちと同じように、膝を床につけて礼をしようとするが、公爵様に手で制される。
「ふむ、たしかに最低限の礼儀はあるようだな。君が推薦しただけはある。」
「そう言ってもらえると、ありがたいです。」
そう言って頭を下げるヒンセルさんとユフィさん。だが俺は一人話についていけず、頭の中で考えるが結論は出てこない。
「礼儀作法の方は申し分ないだろう。だが実力の方は問題ないのか?」
「はい。問題ないです。シェルはこのギルド支部で一番強いので。」
「それならば問題ない。ではシェルよ。ついてこい。」
そう言って、座っていた椅子から立ち上がり、公爵様は部屋から出ていく。俺はどうしたらいいのか考えていると、ヒンセルさんに目線でついていけと言われる。
状況が分からなかったので、仕方なく公爵様の背中についていく。ギルドを出ると、そこには1台の馬車が停められていた。
その馬車は素人の俺が一目見ただけでも分かるほどの、美しい馬車であった。馬車の扉の部分には、大々的にエルフィス公爵家の家紋が書かれていた。馬車の中に先に公爵様が入り、公爵様はそのまま俺にも馬車に乗るよう言う。
「シェルよ。乗って良いぞ。」
「ありがとうございます。」
そう言って、俺は馬車に乗る。いや、まじでなんでこうなった?たしかに最上位の貴族と同じ馬車に乗るのは、栄誉あることなのかもしれないけどさぁ、俺はちょっとこの後打ち首にされないか怖いよ。
俺と公爵様が座ったのを見て、御者の人は馬車を出発させる。
「さて、まず依頼について話しておこう。」
(えっ?はっ?依頼?一体何のことだ?俺、公爵様からの依頼を受けた覚えがないぞ。)
内心はめちゃくちゃ動揺していたのだが、それを全く表情に出さず、平然と対応する。
「依頼というのは一体なんでしょうか?俺はなにも聞いていないのですが。」
「はっ?」
公爵様から呆けたような声が聞こえた。いや、なんでやねん。アンタが俺に依頼したんやろ。っと、申し訳ない。ついエセ関西弁が出てしまった。
「いや、すまないね。ヒンセル君から聞いていると思ってたのだが、説明されてなかったのか。」
なるほど、ヒンセルさんのせいか。今度会ったら絶対殴る。心の中でそんなことを決めていると、公爵様が依頼について説明してくれる。
「今回私、いや公爵家からの依頼は、我が息子で次期エルフィス公爵家当主のアドル・エルフィスの師匠になってほしいのだ。」
なるほど。お貴族様の師匠か。結構簡単だな…って言うとでも思ったか?たしかに俺は強いし、そのアドルとやらに教えることもできるだろう。だが貴族社会に絡むのだけは、絶対にしたくない。男爵家などの低位貴族なら別に良いが、公爵家は最上位だ。そんなところの跡継ぎを弟子にするなんて、面倒くさいに決まっている。だが俺が弟子を取りたくない理由はもっと別のところにある。
俺が答えを出し渋っているのを見て、公爵様は意外そうな顔をする。
「ふむ…普通だったら貴族の跡継ぎの師匠になれと言われたら、ほとんどの人間が喜んで食いつくのだがな。なにが不満なのだ?金か?そんなものいくらでもやるぞ。それとも女か?そうだとしたら、それこそ我が息子の師匠になったほうがいい。」
「いえ、違います。」
というか公爵様がそんなことを言っちゃっていいのか?まぁこの場で口止めなどをしないということは、大丈夫なのだろう。
なにも言わない俺に痺れを切らした公爵様は、ついに直接なにが欲しいのか聞いてきた。
「それではなにが欲しいのだ?」
「とくに欲しいものなどはありません。」
その言葉に一瞬、面食らったような顔をするが、すぐに表情を直す。
「安全面ならば、公爵家に勝る家などそうそうないと思うぞ。」
「いえ…それもあるのですが、もっと別のところです。」
「それならば申してみよ。不敬とは言わないからな。」
ふむ、不敬と言わないんだったら別にいいか。
「では言わせていただきますが、アドル様とやらが俺の指導に耐えられると思えないからです。俺の指導に耐えられるとしたら、世間一般でいうところの天才と呼ばれる人間と同じ程度には才能を持っていなければいけません。」
「それはなぜだ?天才でなくとも、強くなることはできるはずだ。」
「それは剣の素振りや模擬戦での話です。たしかにそれでも強くなれます。でもそれではいつか命のかかった場面で、致命的な失敗を犯し、なにかを失ってしまう。そう、自分、または大切な人の命…とかね。」
そう言って少し間を空け、三本の指を立てる。
「三年…この数字の今が分かりますか?」
そう問うが、公爵様は首を横に振る。
「俺がいつ死ぬかも分からない、人外魔境で過ごした時間です。俺は冒険者登録をする前まで、師匠とともに、弱肉強食の世界で暮らしていました。時に師匠に魔物の巣の中に放り込まれたり、魔物の群れを殲滅したりしました。」
公爵様の顔を見ると、とてつもなく暗い顔をしていた。
(いくらなんでも暗い話をしすぎたな。ちょっと反省しよう。)
「まぁでも、俺がもし師匠になるとして、そんな場所には送りません。せいぜい魔物相手に実戦を行うくらいです。当然、アドル様を見殺しにしたりすることもありません。なので問います。公爵様の息子に才能はありますか?」
これは公爵様の親としての覚悟の問題だ。ここで生半可に天才だと言うのは別に構わない。俺が問いたいのは自分の息子が挫折するのを見る覚悟があるのか、どうかというだけだ。
公爵様は大きく息を吸って、瞑っていた目を開く。
「あぁ、大丈夫だ。私の息子は天才だからな。」
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<三人称視点>
かくして物語はもとの軌道から脱線する。特異点は、水たまりに落ちた石のように世界へと波紋を広げていった。
この波紋が後にどのような影響を出すかは、まだ誰にも分からない。ただ一つ言えることがあるとすれば、もうこの世界はゲームのようにいかないということだ。
世界最強と悪役令息の邂逅の時はすぐそこまで迫っている。
この出会いに意味があるのかどうか…それは後に分かること。