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〈06〉王立学院2年生・プロムナード


ブリス様が、私の住む邸を来訪しました。

学院のプロムナードでペアを組む際、基本的に保護者からの承諾が要ります。

男性はそれほど厳しく言われませんが、女生徒の場合は両親も相手に対して慎重になりますから。

婚約者ではない男女でプロムナードのペアを組む場合は、まず本人に申し込み、それが受け入れられたら、男性側が女性の両親と面会して、問題ないと判断されてやっと本当の意味でのペアとなります。


私の場合は、お兄様に相手をお願いするつもりなので、彼とペアを組むことを受け入れていません。

なのに、婚約者がいまだいないという一点を強引に突破され、気づいたら両親にブリス様が面会を申し込んでいたのです。


「あらまぁ、では今年の学生武技大会で優勝されたの?!」

母が華やいだ声をあげ、ブリス様が照れたように笑いながら答えます。

「はい、なんとか優勝できました。

といっても出場したのは学院の騎士科と、王都周辺の騎士学校に通っている生徒が中心で、国内規模というわけでもないのでまだまだです」

「なにを言ってらっしゃるの、3年生も出場している中で勝ったのでしょう?

我が家は文官よりですが、騎士のことだって少しは分かりますよ。

素晴らしい成績ですね、そんな方にプロムナードのお相手を申し込んでくださるなんて名誉なことじゃない!」

母は会話の後半に、私に話しかけてきました。


私は曖昧に流して、兄を見ました。

「お兄様、以前もお願いしましたが、プロムナードのペアを組んでいただきたいのです」

紅茶に口をつけていた兄は、「えぇ」と面倒そうに返しました。

「確かに言われたけど、今更妹に付き合うのもねぇ。

こんなに熱心に申し込んでくださるなら、お願いしてもいいんじゃないか?」

「兄様! 約束を破るなんてヒドイです!」

私はその時まで、最終的には兄が防波堤になってくれるだろうと思っていました。

ブリス様にクラスで申し込まれた日の夕食時も、私は改めて兄に念押ししていたのですから。

それが、土壇場になってこんな裏切るような真似をするなんて!


「クラリス嬢、ご安心ください。

私は騎士の卵として、あなたの名誉を傷つけるような行いは決してしません」

言い募るブリス様に、兄さまは「ほら、彼もこう言ってるし」と軽い調子です。

あまりのことに呆然としてしまった私を裏腹に、母はすっかり乗り気のようです。

ブリス様に、当日の衣装の色を尋ねています。


「クラリス、いつまでへそを曲げているのですか。

ブリス様は終始誠実な方でしたよ、それに対してあなたのあの態度はあんまりです」

その日の夕食時、私は母に注意を受けました。

「ですがお母さま、婚約者でもない方とプロムナードでペアになるなんて」

「大丈夫ですよ、私が学生だった頃ならいざ知らず。

今はそこまで厳しく言われていませんし、兄妹で踊るよりずっと楽しめるのではなくて?」


陽気に微笑みながら、母は面会には同席しなかったお父様に話しかけました。

「ねぇあなた、先ほどもお伝えしましたけどブリス様は立派な方でしたわ。

私はこのお申込みを承諾してもよいと思うのですが、いかがかしら?」

「お父様、最近はそれほどうるさく言われないと聞きますけど、周囲の目もあります。

お断わりしていただけませんか?」

私が必死に言い募るのに、父はのんびりワインを味わっています。

ちらりと母と兄を見やると、兄は「私は母上に賛成です」と言い切ります。

お兄様は、自分がプロムナードに出るのが面倒なので他人に押し付けているだけではありませんか!

「ふむ……実際に会っている二人がそういうなら、大丈夫だろう。

クラリス、申込の返信は君から返しなさい」

「そんなっ! お父様、思い直していただけませんか?!」


その後、何度も食い下がりましたが、お父様は結局決断を変えませんでした。

最後には、私のしつこさに辟易としてきたらしく、理不尽にも怒られてしまいました。

どうしてこんな事になってしまったのでしょう。

私の言い分は、けして間違ってはいないはずなのに。


本当は、私もプロムナードを楽しみにしていました。

愛する人と踊ることはかないませんし、成人後は舞踏会をたくさん経験するでしょうけれど、それでも、学生の間のたった2回のプロムナードは特別なものですもの。

たとえ兄と踊るとしても、それはそれで楽しい経験となったでしょうに。


兄は妹の世話が面倒で逃げ出しました。

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