〈04〉王立学院1年生・野外演習後
ブリス様は、初めての遠征演習で、私にいきなりお付き合いを申し込んできました。
反射的にその言葉を断った私に、彼は見るからに落ち込んでいました。
けれど、次の日には私を呼び止めて言ったのです。
「クラリス嬢、昨日はぶしつけに申し訳ございませんでした。
ですが、一晩考えてもやはり俺は自分の気持ちをあきらめるなんてできません。
どうか、俺を知ってください!
まずはそこからお願いしたいのです!」
顔を真っ赤にして言い募る様は少しかわいそうなくらいでした。
しかし私は貴族の子女として、「貞節たれ」と教えられてきたので、とてもそんな申し出は受けられません。
「ブリス様、お気持ちはありがたいのです。
とはいうものの、私はその申し出を受けられません。
どうか、今のお言葉はなかったことにしてください」
「クラリス嬢、そんな……!
お願いします、あなたと俺は出会ったばかりではないですか。
お互いに何も知らないのですから、ここで切り捨てないでください!
まずは、学院の生徒として、知り合うところからではいけませんか?!」
その時、おそらく彼の友人と思われる男性が会話に入ってきました。
「クラリス嬢、ブリスもこう言っています。
それに、学院に通うものとして友誼を交わすことは推奨されています。
どうです、まずはブリスと友人になってはくれませんか?
こいつとはまだ知り合ったばかりですが、いい奴ですよ、俺が保証します!」
ブリス様とその複数のご友人は、声を揃えて私に頭を下げました。
「「「どうか、お願いします!」」」
同年代の男性複数に囲まれるなんて、私はその時生まれて初めて経験しました。
しかも騎士科の彼らは体を鍛えているし、声も大きいのです。
私の前に立ちふさがって、きっとこの申し出を受けなければ彼らは絶対に納得しないのだと思いました。
ほとんど泣きそうになりながら、「友達、としてなら」と答えることしかできませんでした。
きっとあの時、最初のボタンの掛け違いがあったのです。
当初はどうなることかと思っていたのですが、当時のブリス様は極端な行動にでることはありませんでした。
月に一回くらい、放課後に「お茶にしませんか」と誘われるくらいです。
それ以外では、廊下ですれ違った時にわざわざ立ち止まって挨拶してくるくらいで、クラスを越えた知人といえる程度でした。
私は普通科で、彼は騎士科です。
クラスが違い、履修内容も異なっていたため、意外と出会う機会はありませんでした。
看護の実習は続いていたので、そのたびに彼に話しかけられたりはしましたが、私はあからさまに彼を避けていましたし。
なので、私のなかで彼の告白はすでに過去のものとなりつつありました。
それが思い違いだと知ったのは、2年の半ばのプロムナードがきっかけでした。
プロムナードとは、本来フランス語で「散歩」とか「散歩の場所」を意味する言葉だそうです。
今では様々な意味のある単語です。