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〈24〉王立学院3年生・詮議⑦

その時、彼の隣に座っていた小柄な女性が立ち上がって、ブリス様の頬を張りました。

「お前は、お前はなんてことをしてくれたの!」

彼女の握ったこぶしが、高まった感情をあらわすようにブルブル震えています。

私は、その様を「何をいまさら」と思いながら眺めました。


彼女は、先ほど「長年想いあっていたリシャール様との仲に割り込んだのはブリス様だ」と妹が証言したときに、「じゃあそれを言えばよかったじゃない」と口をはさんできた人です。

ブリス様を挟んだ反対側に、貴族にしては日に焼けた男性が座っています。

「母上、申し訳ありません」と、小さな声でブリス様が謝罪しました。

彼女が母親なら、男性がおそらくカルタン男爵……でしょう。



なおも彼女が口を開こうとした瞬間、硬質な声が場を支配します。

「息子を怒る前に、言うべきことがあるのではありませんか?」

思わず私は、発言した妹を制止しようとしました。

アラベルは頭がよく弁がたつのですが、だいたい直球に過ぎます。

そのせいで要らぬ敵を作ってしまうことが多く、今回の発言もその危険性を感じました。

しかし彼女は昂然と頭をあげて、カルタン夫人を見詰めています。

夫人は、一瞬眉をあげて抗議か、怒りの言葉を口にしようとしました。

しかし、妹の隣に座る私を認めた瞬間、勢いを失いました。


「クラリス嬢、この度は息子が大変ご迷惑をおかけいたしました。

許されぬことをしでかしたことは承知しております。

親として、謝罪をいたします」

夫人の礼は、頭を深く下げ、謝意を示すものではありました。

しかし、彼女が礼を終えた後も、私はなにも発言しませんでした。

カルタン男爵は、表情の変わらない人です。

日に焼け、眉尻に深いしわを刻んだその顔は、この詮議の場でなんの感情も示さず、今私がこうして見つめるのにも、なんの反応も返してきません。


この方、もしかして自分の息子が何をしたのか、この段階になっても理解されていないのかしら?

男爵夫人は、私の視線の向きを見て、「あなた」と男爵に小さく声掛けをしました。

のっそりと立ち上がった彼は、のっそりと頭を下げます。

とてもではないですが、貴族のマナーにそぐいません。

「クラリス嬢、申し訳なかった。

息子には、あとでよく言って聞かせる」

くぐもった声は聞き取りにくく、その声から感情もくみ取れません。


男爵は、黙って椅子に座りなおしました。

その後は視線を膝に落とし、顔をあげようともしません。

場が静まりかえっているのは、彼の謝罪にまったく誠意を感じられないからなのですが、本人はそれを分かっているのでしょうか。

マチュー様が眉をひそめて、なにやら考え込んでいるご様子です。


「ひとつ、カルタン夫妻にお聞きしたいことがございます」

ポロリと私の口から言葉が滑りでてきました。

反応したのは、夫人のみです。

「なぜ、ブリス様の行動を放任されたのですか?」

それは、私がプロムナードでペアを申し込まれた時からずっと疑問に思っていたことです。


婚約者ではない女性にプロムナードのペアを申し込むというのは、一歩間違うと醜聞になります。

武技大会での優勝を引き換えとした申し入れというのも、婚約をしていない相手に行うには暴挙です。

「今に至るまで彼の行動を放置されたのは、なぜなのです?」

私が追加で質問し続けるのにも、男爵夫妻はうつむいたり視線を泳がせるだけでまともな返答がありません。

マチュー様は、そんな夫妻をじっと観察していました。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


1話1話、17時40分に投稿予定です。

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