〈21〉王立学院3年生・詮議④
「ここまでが、クラリス嬢とリシャールの事情ということですね。
それで、学院に入学してからのなにがあったのか、あなたの視点でお伺いできますか」
「はい」
私は、マチュー様の言葉にうなずきました。
そうは言ったものの、胸の内を言葉にするのにためらわれて、不自然な沈黙が生まれました。
「これは、男性には伝わらないかもしれませんが」
そう、前置きをして、私は会話を切り出しました。
「遠征実習でお会いした次の日に、まずは友達として自分のことを知ってほしいと言われたとき。
あの時、複数の男性に、しかも騎士科の方々に囲まれて詰め寄られるのは、とても怖かったです」
ブリス様が、え、とこぼしました。
マチュー様とリシャール様は、視線を交わして頷きあっていました。
そして、マチュー様が妹に話しかけました。
「アラベル嬢、君はよく知らない男性数人に取り囲まれたら、どう感じる?」
「少なくとも警戒します。
仮に、同じ学院に所属する騎士科の方と分かっていたとしても、身構えてしまうでしょうね」
きっぱりと言い捨てた妹に、ブリス様が動揺したのか私たちの間でなんども視線を往復させています。
「確かに、あの時俺は友人たちと一緒にあなたと話をしましたが。
危害を加えようとは、神に誓って思ってもいませんでした!」
マチュー様は、手元の紙になにかを書き付けてから顔をあげました。
「それは、第三者であるクラリス嬢には分かるはずもないことだ。
それにブリス君、女性は男性に力でかなわないんだよ。
しかも、君たちは騎士科で、体を鍛えていて、剣を使う方法を心得ている。
か弱い乙女には脅威に思えても仕方ないだろうね」
「そうだなぁ」と、リシャール様がつぶやきました。
「ブリス君、たとえば君が街中で歩いているときに、抜身の剣を持っている男性を見かけたら、どう思う?」
思わぬ質問に、一瞬沈黙を作ってから、彼は返答しました。
「それは、当然警戒します」
「そうだよね、女性から見た男性って、そういう存在なんじゃない?
だからこそ、騎士として規律を守り力におぼれず、弱い人への配慮を忘れずにいないとだめだよね」
室内に、沈黙が流れました。
すがるような眼で、ブリス様が私を見ます。
「では俺は、まずはクラリス嬢と知り合いになりたいと行動した時点で、すでに怖がらせていたのですか」
気まずい思いをしながら、私は頷きました。
「そんな」
悲鳴のような声で、ブリス様は頭を抱えていました。
「そんな、一番最初の時点で、俺は間違っていたというんですか!」
苦悩する彼に、妹が冷たい視線を投げています。
「それで、まだありますよね、クラリス嬢」
ショックを受けているブリス様をよそに、マチュー様が次を促しています。
この方、割と容赦がないのですね。
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1話1話、17時40分に投稿予定です。