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〈20〉王立学院3年生・詮議③

マチュー様は、いったん室内を見渡しました。

「少し、まとめてみましょうか。

クラリス嬢は、王立学院に入学する前から、リシャールとお互いの気持ちを確認しあっていました。

ただし状況が厳しかったため、二人はその思いを他者に明らかにはしていなかった。

そしてリシャールは王太子殿下のグランドツアーに同行して不在になる。


学院に入学後、ブリス君はクラリス嬢に懸想して積極的に求愛し始めた。

君は人目をはばかるということを全くしなかった。

なのでその行動は学院に広く知られ、味方を大いに得るところとなった。

戦略としてはなかなか素晴らしい、最終的にクラリス嬢の家族さえも味方にしたのだから。


だが、どれほどブリス君が努力しようとも、そもそもクラリス嬢の気持ちはリシャールにあった。

そして、それを知っても君はクラリス嬢を追いかけることを決してやめず、最終的には武技大会で衆目の圧力のなかでクラリス嬢に決断を迫った。

これはなかなかの非道ではないかな」


「非道だなんて、そんなことありません!

ブリス様は、クラリスのことを純粋に想っていただけです!」

それまで黙っていたオレリーが、いきなりマチュー様の言葉に嚙みつきました。

マチュー様は、片眉をあげてオレリーを見ましたが、彼女の声を黙殺しました。

オレリーは悔し気に、両の握りこぶしをふるわせていました。


「続けるよ。

クラリス嬢は、極度のプレッシャーにも負けず、きっちりと断わりの言葉を返した。

その後、魔女の薬によって眠りにつき、半年ほどが経過した」

大会の後、妹は状況を説明する手紙を作成して、魔女様のご助力のもと、魔法鳩によってグランドツアー中のリシャール様に騒動の詳細をお伝えしたそうです。


「そう、リシャールはその時点までこの状況を全く知らなかったのだ。

しかしツアーは大詰めになっていて、とてもじゃないが帰国はかなわず今となった。

クラリス嬢、君の眠りを長引かせることになってすまなかった。

王太子殿下より、謝罪の言葉を預かっている」

私は驚きで思わずリシャール様の手をギュッと握りしめてしまいました。

「王太子殿下のグランドツアーは、今後殿下が王として立つための大事な社交期間です。

わたくしごときの事情でお手を煩わせるなどあってはいけません。

こちらこそ、ご配慮いただき心から感謝しております」

そう返すのが、精一杯でした。


「しかし、リシャールの不在がクラリス嬢の抱えた問題を悪化させたのは確かだ。

グランドツアー中ではあるが、殿下は問題の解決を望まれて、随伴団に所属していた私とリシャールを担当とされた。

魔女殿の助力をいただけたので、帰国後最短で日程を組むことができて、それが今日となった」

マチュー様は、私をじっと見つめました。

遠い海の向こうで、リシャール様と、王太子殿下やその側近の皆様がお心を砕いてくださっていたのを知って、胸が暖かくなります。

実際、グランドツアーから帰還してまだ10日も経っていないのに、こうしてリシャール様と、マチュー様が事態の解決にいらしてくださったのですから



「魔女様は、姉の眠りを魔法の影響と見定められました。

武技大会の騒動で、ブリス様への拒絶を伝えてなお魔法が続くのならば、それを解くきっかけはおそらく想い人の存在にあるだろろうと。

実際、どなたが面会にいらしても姉は眠り続けました」

妹はいったん言葉を切って、私とリシャール様の顔を見比べました。

「そして、リシャール様がいらしたことでそれまでの長期の眠りが嘘のように、姉は目覚めました。

ね、お姉さま?」


アラベルの微笑に、私は頬が熱くなるのを感じます。

こんな詮議の場で、誰ともしれぬ他人相手に自分の想いを明らかにするというのは、なかなかに拷問です。

それでも、両親と兄、そしてブリス様や周囲の人々から「ないもの」として扱われた自分の気持ちが明らかになるのは胸のすく思いがします。

そっと隣のリシャール様を見上げると、優しく微笑えまれて、思わず胸があつくなりました。


私は、政略結婚の必要はないと父から言われています。

リシャール様と内緒で図書館でお会いするようになってから、つまり彼との未来をつかみ取れるよう努力するようになってから、確認したからです。

今は国内も海外情勢も、落ち着いています。

ジスカール家は、跡取りの兄こそ政略に近い婚約をしましたが、私と妹は家に不利をもたらすような結婚でない限りは好きにしなさいと言われました。

あの頃の私は、リシャール様が官職を得られれば問題のすべては解決すると思っていました。

まさかこんな、恋愛が引き起こす痴情のもつれのきっかけに私がなるなんて。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


1話1話、17時40分に投稿予定です。

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