〈02〉王立学院1年生・野外演習
ブリス様と出会ったのは、王立の学院に入って間もなくのことでした。
騎士を志す男性生徒たちの初めての野外演習に、看護の単位のため同伴したときのこと。
演習後の彼らの手当てをしようとした時に、偶然私のお相手がブリス様だったのです。
「はい、これでよいと思います。
他に、痛む場所などはありませんか?」
「…………」
「あの、大丈夫でしょうか……?」
ブリス様はなぜか私が手当てを始めたときから呆然としていました。
返事がない彼と視線があった瞬間、夢から覚めたようにいきなり私の手を握りこんできました。
「あなたはなんて美しいんだ! しかも俺のケガをそんなに心配してくださるなんて!」
いえ、別に心配なんてしていません。
私が彼の手当てをしたのは、あくまで看護演習の一環ですから。
でも彼の眼はうるんで、見る間に頬が紅潮していきます。
そして、感極まったというように大声を上げました。
「クラリス嬢、どうか俺と、付き合ってください!」
看護実習に来ていた他の女生徒たちも、騎士科の皆様も、先生さえ、彼の声に何事かと一斉に振り向きました。
それがブリス・ド・カルタン様の恋物語の始まりであり、なんの因果か、その相手にわたくしクラリス・ド・ジスカールが選ばれた瞬間でした。
いまだに私は後悔しております。
あの時、なぜ自分は、
「そ、そうですか。あの……困ります」としか答えられなかったのでしょう。
いえ、分かっています。
本当に、予期していなかったのです。
周りの人が後から語ったことですが、彼は私に見とれていたそうです。
その様子は、はたから見て丸わかりだったそうです。
でも私は彼の変調には気づいていませんでした。
だって、初めての看護実習の緊張で、それどころではなかったのですもの。
最初は包帯をきつく結びすぎて、指導の看護師に注意され、動転して器具をひっくり返し、拾った先から再度落としてしまい。
余計に増えた消毒の手間にアタフタして頭は真っ白。
ようやく処置が完了したと思ったら、実習の相手をつとめてくださった方が血迷ったとしか思えないことを叫びだしたのです。
あの時、もう少しわたくしが平常心だったら、言葉を尽くすことができたでしょうか。
彼の、舞い上がり切った心に届く会話ができたでしょうか。
そうしたら、こんな結果を迎えずに済んだでしょうか。
<主人公> クラリス・ド・ジスカール
<求愛者> ブリス・ド・カルタン
王立学院には15歳から17歳の3年間通います