〈19〉王立学院3年生・詮議②
「お姉さまとリシャール様は、7年も前からお互いの未来を望みあいながらも、諸々に邪魔をされ秘めたままにするしかありませんでした。
そこに横槍を入れる形になったのが、ブリス・ド・カルタン様です」
10名以上が集まった空間に、緊張感に満ちた静寂が訪れました。
ブリス様は、私を苦し気に見て、それからぎゅっと目をつむりました。
「そんな、そんな事知らなかったわ。
言ってくだされば良かったのよ」
思わずというように、一人の女性がつぶやきました。
「どなたですの?」
「ブリス・ド・カルタンの……母でございます」
妹の容赦ない追求に怯えたように、彼女は上体をのけぞらせました。
「私たちの関係を、証明する術がなかったのです」
視線が吸い寄せられるように、口を切った私に集まりました。
「リシャール様は王太子殿下のグランドツアーに付き添い、国から国へと旅を続けられていました。
手紙は何通も送りましたが、送った数の半分も返事がございませんでしたわ。
おそらく、大半は届かなかったのだと思います」
「クラリス嬢は手紙にナンバリングをしていましたが、飛び飛びでした。
彼女の予測通り、半数は届いていないと思います。
私から送った手紙も、全部は届いていないでしょう」
リシャール様の言葉に、私は『やはり』と納得しました。
3年生になって、つまりブリス様に武技大会での求婚を暗に示されてから、私はすぐにリシャール様に手紙を送りました。
彼からも私たちの関係を説明してほしいと要望しましたが、夏になっても返事はありませんでした。
「それで、わたくしは口頭でリシャール様とのことを説明するしかなかったのです。
結局、ブリス様も両親も、私の言葉を信じてくださいませんでした」
私は、深くため息をついて己の膝を見つめました。
「クラリス、私は信じなかった訳ではない」
「そうですね。
お父様は、私がリシャール様以外と結ばれるつもりはないと知っても、面倒がって問題を放置しました。
ブリス様が大会で優勝するなどありえないから、彼の決意が実行に移されることもないだろうと笑っておりましたね」
改めて、父は不実だったと思います。
このいい加減さが、問題を完全に拗らせたのは間違いありません。
驚いた様子のブリス様から、私は視線をそらしました。
「そして、ブリス様は私の気持ちを一切考慮されませんでした」
「違います!
私は、私がどれだけ真剣なのかを知っていただきたかったのです!
あなたを平気で何年も放置するような男に、私の気持ちが負けるはずなどない!」
悲鳴のようなブリス様の否定に、私は眉が寄ってしまいます。
「ほら、こんな風に。
ブリス様は、私の言葉を受け入れません。
私にたいして特別な思いがあると言いながらも、私の気持ちを無視して、自分の意見を押し付けるばかりなのです」
マチュー様が、それまでのにこやかな笑みを引っ込めました。
「でもでもだって」で人の言葉を封じるのはよくないと思います。
1話1話、17時40分に投稿予定です。