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〈16〉王立学院3年生・詮議

「さて」

部屋を変えた私たちの中で、一人の男性が立ち上がりました。

「私は王太子殿下の側近を務める、マチュー・ド・レスピナスと申します。

殿下よりこの問題の解決を依頼され、本日の集いを企画いたしました」

ニコリと人好きのする笑みを見せて、彼は集まった私たちを見まわします。

おそらく私と同じように、何も知らされていない人が多かったのだと思います。

なぜ王太子殿下が関わってきたのかということも含めて、ひそやかな動揺が広がりますが、彼の言葉にまた静まり返りました。


「今回の件は、ささいな出来事が一大事になってしまったものです。

関係者の中には、全体像が把握できていない者もいるでしょうから、まずは全てを詳らかにいたしましょう」

そう言いながら、彼は私に頷いて見せました。

「とはいうものの、別に込み入った事情はありません。

ブリス・ド・カルタン、君が嫌がるご令嬢を追い回した結果、全てがこんがらがってしまったのだ」

「追い回してなどいません!」

マチュー様の言葉に、ブリス様が鋭い声で返答しました。

いくら未来を嘱望されているブリス様とはいえ、王太子殿下付きの側近を務める方を遠慮なく糾弾するとは豪胆ですこと。


「ふむ、認識に齟齬があるようだね。

だがまぁいい、時系列をまとめよう」

マチュー様は、そういって紙の束を手に取りました。

「まずは、王立学院に君たちが入学した直後だ。

騎士科が日帰りの遠征実習を行い、そこには普通科で看護実習を選択していたクラリス嬢も同行していた。

そこで、ブリス・ド・カルタン、君は一目ぼれしたといきなり彼女に告白をする」

さっとブリス様の頬に朱が散りました。

このような場で、無遠慮に自分の想いを周知されて彼はどう考えたのでしょう。


「その後、君の付きまといは次第にエスカレートした。

2年次のプロムナードでは、学院の生徒が大勢いる中でペアを申し込み、結果、クラリス嬢の意思は無視されてご両親はそれを受諾した」

母は目を吊り上げて私を睨みつけ、ちらりと視線があった兄はわざとらしく私から顔をそむけます。

父は、何を考えているのでしょうか。ただ腕組みをして瞑目しています。


マチュー様はその後も言葉を続けます。

「3年生に上がると、ブリス君はまたしても衆目の集まる中でクラリス嬢に宣言をした。

武技大会への出場と、『優勝したら自分の想いを受け取っていただきたい』と言ったそうだね」

私は、オレリーが大きく頷くのに気づきました。

そう、この集いには彼女も招かれています。

「ずいぶんと、『派手な演出』だ」

私の隣に座るリシャール様が、そうポツリとこぼしました。


「その後、君は武技大会で優勝した。

一念岩をも通すとはいうが、並みいる強豪を下した君の実力は確かに素晴らしかったと思うよ。

だが、君の級友は大会前に積極的に君のことを言いふらしていた。

そのため、君が何のために大会に出場するのかは、学院生を越え騎士団とその関係者に広く周知されていたそうだね。

大会の見学にきていた人の半数は騎士の雄姿などではなく、世紀の恋の結末を見届けたいという俗な好奇心が理由だったかもしれないね」

マチュー様が淡々と事態を説明していき、なんだかお茶に口をつけるのもためらわれる雰囲気です。


「異議があります!

武技大会は騎士の実力を見定めるための大事な大会で、国王陛下が開催されるものです。

まるで娯楽に供されたような言い方はおやめ下さい」

「そうかな?

今回の大会は、君が赤い薔薇の花束を手に跪いた瞬間が、もっとも盛り上がっていたと聞いているがね」

ブリス様の反論を、マチュー様は取り合おうとはされませんでした。


「さて、これが大体の事のあらましだ。

ただしクラリス嬢、あなたから見た事情はまた異なるのではないかな」

マチュー様の言葉に、私の隣に座っていた妹がさっと右手を挙げました。

「アラベル・ド・ジスカールと申します。

お姉さまの代わりに、わたくしから事情を説明してもよろしいでしょうか」

マチュー様は、説明が正確であれば発言者は問わないと、あっさり妹の発言を許可しました。

ブリス君の言っていることが割りととっちらかっています。


次のお話からは、1日1話の投稿とさせていただきます。

17時40分で投稿予定です。

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