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〈15〉王立学院3年生・詮議の前

「クラリスお嬢様、晩餐の用意が整ったとのことです」

メイドのドロテが私を呼びにやってきました。

リシャール様との涙の再会から、湯を使い、自宅で着るには豪奢なドレスに着替えてようやく私が落ち着いた後でした。

日が落ちて明かりの灯った屋敷は、どこか異様な雰囲気に包まれていました。

その理由は、ダイニングルームに入った途端に分かりました。


思っていた以上の人数が、そこに集まっていました。

私の家族と、リシャール様と、ブリス様。それ以外の残りの半数は見知らぬ方々でした。

共通点が全くないように思える奇妙な人選で、その夜の晩餐会が始まりました。



「クラリス嬢、お待ちください!」

ディナーを終え、部屋の移動を告げられた私は、出口で呼び止められました。

「ブリス様、なんのご用でしょうか」

居並ぶ人々の視線が集まる中、私は仕方なく彼に向き直りました。

私からすれば、武技大会はつい昨日の出来事です。

ですが実際は季節が変わるほどの時間が経っており、その間に彼はずいぶん印象が変わっていました。


あの大会で優勝した時は、名誉と高揚で太陽もかくやと輝かんばかりだった彼は、少し面立ちが変わっていました。

心なしか痩せたように見えますが、それ以上に眉をしかめて私を見つめるさまに余裕がないように思えました。

「クラリス嬢、目が覚めて良かったです。

お体に問題はありませんか?」

「ありがとうございます、魔法によるものだったからでしょう。

体に不調は一切ありません」

「そうですか、それは良かった」


思わずというように小さく笑んだ彼は、改めて真剣な表情になりました。

「身分の低い私が分不相応なのは承知しております。

ですが、どうしても私はあなたを諦めきれないのです。

どうか、私の何が悪かったのか教えてください!

全て、すべて直しますから!」

思わず一歩後ずさった私を追うように、彼は身を乗り出して私の腕を捕まえました。

振りほどこうとしますが、騎士の力にかなうはずがなく、二の腕が痛いほどに握りしめられます。

彼の瞳がギラギラと光り、いささか常軌を逸しているように見えます。

なぜ、この方はこれほどまでに私に執着するのかしら?


彼の気持ちを推し量れないことが恐怖につながるのに、呼吸をするほどの時間しかかかりませんでした。

言葉を失った私のかわりに、足元から黒い植物が生えてきます。

それが、武技大会のときにブリス様を拒絶した「魔女様からいただいた私の魔法」なのだと気づいたときに、第三者の声が私たちのあいだに滑りこんできました。


「そこまでにしていただきましょう」

リシャール様が、私と彼の間に立ちはだかりました。

私を捕まえるブリス様の腕をほどこうと試みましたが、文官には騎士の腕力はかなわなかったようです。

私が自由になったのは、私の魔法で生み出された植物が、ブリス様の手をはじいたからでした。

「クラリス嬢のことを私は心から想っています。

あなたなどには決して負けない」

ブリス様はリシャール様にそう言い捨てて、案内に導かれるまま部屋を出ていきました。


私は、思わず場に残った彼を見上げました。

苦笑した彼が、小さく肩をすくめます。

「リシャール様、守ってくださってありがとうございます」

「いや、私はなにもできなかった」

「彼は優れた騎士ですから、男性でも力ではかなわないと思います。

助けようとしてくださった、ということが何よりも嬉しいのです」

そう彼に微笑みかけると、リシャール様は柔らかく目を細めて私を見つめてくださいました。





「さて」

部屋を変えた私たちの中で、一人の男性が立ち上がりました。

「私は王太子殿下の側近を務める、マチュー・ド・レスピナスと申します。

殿下よりこの問題の解決を依頼され、本日の集いを企画いたしました」

ニコリと人好きのする笑みを見せて、彼は集まった私たちを見まわしました。

しつこい男はあかんのです。


もう一話、1740に投稿予定です。

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