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4:抱き枕とペット。

 



 ◇◇◇◇◇




 昨晩の体調不良から一転。今朝の竜王陛下は随分と落ち着いている。というか、なんか抱き枕として完全に気に入られていそう。

 早急にシモンさんに抱き枕を発注したいけど、まだ蜜月期なので、外部接触不可だろう。

 メモを書いて伝言すればいいのだろうが、それをするとたぶん変な空気というか、なぜ必要なのかとかの疑問が生まれ、陛下に確認が行きそうだ。そうすると、陛下に却下されそうな予感がヒシヒシとしている。


 どうしたものかと考えるも、何もいい案が浮かばない。

 とりあえず、陛下の腕の中から抜け出したい。首筋をスンスンと嗅がないでほしい。絶対に寝汗はかいているのよね。

 

「……陛下、そろそろ起きませんか?」

「もうちょっと」

「今日は番様を探しに行かれないのですか?」

「…………ん。行かない」


 珍しいこともあるものだ。あんなにも躍起になって探していたのに。

 もしかしたら、昨日何かあって体調不良になっていたから、今日はお休みにしたいのかも。

 

「とりあえず、食事はしましょう」

 

 食事は大切だ。一日のエネルギーになるのだから、しっかりと食べておかなければならない。決して、高級食材ヒャッホイとなっているわけではない。毎回ちょっと思っているけど、今は違う。たぶん。


「栄養を摂って、体調を整えましょう?」

「ん……体力つけないとな」

「はい!」


 前向きになってくれてホッとしていた。

 隣の部屋から朝食のワゴンを引き入れ、テーブルに並べて向かい合っての食事になったのだが――――。


「ほら、これも食え」

「んむっ、ふむむむっ!」

「ん?」


 人の口にドシュドシュと食べ物を突っ込んでくる竜王陛下。

 最初、フォークに刺したプチトマトを差し出してきたので、嫌いなのかな? 美味しいのに。と何も考えずにパクリと食べてしまった。

 食べたあとで、使用人仲間たちとの癖であーんしてしまったなと反省。また差し出されたので、今度はお皿にとお願いしたのに、まさかの却下で「口を開けろ」と物凄い目力で言われた。


「もぉ! 陛下の分のご飯ですよ。ちゃんと食べてください」

「体力をつけないとだろ」

「なんで私なんですか!」


 全く意味がわからない。私の体調は万全というか、この一週間ほぼ運動していないので、ちょっと危機感を覚えている程に栄養過多なのに。

 

 結局、陛下はほとんどの食べ物を私の口に入れてしまった。お腹がはち切れそうだ。




 よいしょぉ。どっこいしょぉ。よっ、ほっ! といった感じで、現在脱ぷにぷにのためにスクワットや腹筋をしているのだが、竜王陛下はソファに座ってそんな私をにこにこと見つめている。

 何が楽しいのかわからない。何か用かと聞くも、気にするなとしか言われないし。

 体調が良くなったんなら番様を探しに行けばいいのに。


「ふぅ、疲れた。あつー」


 程よく汗をかき、いい感じの運動ができた。パタパタと顔を仰いでいると、陛下がソファのところに来いと手招きするので何か用事かなと近づくと、右手首をパシッと掴まれて、引っ張られた。


「おあっ!?」


 なぜか竜王陛下の膝の上にストンと座らされた。

 後ろから陛下がギチギチと抱きしめてくる。圧死するぞとか思っていたものの、陛下の身体がひんやりとしてきて、何やら魔法を使ったようだった。


「おお……おぉぉぉ。涼しいぃぃ」

「んっ」


 今朝から何かに目覚めたのか、また人の首筋の臭いをスンスンと嗅いでくる。完全に汗をかいているから臭い。また体調不良になるんじゃないかと聞いても、大丈夫しか言わない。


 ――――なんなのよ?


 結局、陛下は一日中ずっとずーっと、私の側にベッタリとひっついて過ごしていた。

 あれかな? 一週間もいろんなところに一人で行ってたからちょっと淋しくなっていたのかもしれない。番様を見つけられないことで、不安になっているのかもしれない。

 仕方ないなと甘えさせてあげることにした。


「ほら、食え」

「そんなに入りませんよ! お腹いっぱいです!」


 餌付けするが如く、夕食もあーんラッシュだった。私が食べるたびに陛下が楽しそうにしているので、ペットでも欲しいのかもしれない。この件もシモンさんにお願いしないと。

 あんまり匂いの強くない動物って何がいるのかなぁ。 

 そもそも陛下ってペットのお世話できるのか問題がある。まぁ、竜王なんだからお世話係くらい雇えるだろうけど。


「ほら、アイスなら入るだろう?」

「…………食べます」


 まぁ、アイスに罪はないし、陛下が食べないなら溶けてしまう訳で…………あぁ、濃厚チョコアイス、最高だ。

 

  


 竜王陛下が体調不良で戻られて以来、陛下は番様を探しに行かなくなった。行かなくていいのかと聞くも、毎回言葉を濁される。まぁ、何か理由はあるのだろうが、私には言いたくないのか、言う必要がないだけか。後者だろうな。

 蜜月期の後半、日中は陛下のお世話、夜から朝に掛けては抱き枕役に徹した。


「はぁ。今日から仕事か……」

「はぁぁぁ! やっと外に出られる!」


 蜜月期開けの朝。どんよりな陛下と、晴れ晴れしい気持ちの私。

 うーんと背伸びして解放を喜んでいたら、陛下にジトッと睨まれた。


「…………となりの私室までだからな?」

「え?」

「番だぞ? 部屋から出すわけがないだろうが」

「あーそうでした! 偽装妻なことすっかり忘れてました」


 そうだった。陛下のお世話係じゃなかったんだった。


「偽そ……」

「あっ、シモンさんとかには会っていいんですよね?」

「………………なぜだ」


 抱き枕やペットの件を直接つたえたかったのだけど、陛下の雰囲気があまりにも剣呑なものになっていて、何も言えなかった。

 溢れ出る魔力でなのか、赤い髪はふわりと浮き上がり、目つきは鋭く瞳孔が開いていて怖かった。

 恐怖でなのだろう、喉が詰まったようになり、息が上手くできない。


「っあ! すまないっ」


 陛下がいつもの雰囲気に戻り、慌てたように抱きしめてきた。陛下の肌の温かさとゆっくりと背中を撫でてもらったおかげで、硬直しかけていた体から余計な力が抜けた。

 

「怖がらせたな」

「いえ……」


 でも、なぜ陛下はあんなにも怒ったのだろうか。シモンさんにもう止めたいと言うんじゃないかと疑われたのかな?


「あの、別に偽装妻を辞めたいとかじゃなくて、ちょっと欲しいものがあっただけなんで、安心してください」

「…………色々安心できないが、何が欲しいんだ」


 なぜ安心出来ないんだ。そして、欲しいものは言いづらい。抱き枕はなんか却下されそうだから。あ、でもペットくらいはいけるかも。


「可愛らしくて、よく食べて、あまり匂いのしないペットが欲しくて」

「淋しいのか? 俺を愛でればいいだろうが」

「…………はい?」


 意味がわからない。よく食べるだろうし、匂いはわからないけれど、可愛くはない。あと、私じゃなくて陛下のためのペットだし。


「は? 俺? ウィスタリアがいるのに別の何かを可愛がるわけがないだろうが」

「えぇ?」


 衝撃的事実。そもそも、私がペット枠だった。

 

「ペットは却下! 戻るまでここと私室以外は行くな。いいな?」

「はぁい」

「ん」


 仕方ないか、と諦めて返事をすると、陛下が柔らかく微笑んだ。そして、頬にキスをすると「行ってくる」と言い、部屋を出ていった。


 ――――なぜに!?




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