2:超高級ステーキ肉を堪能する。
「ひぎょえっ!?」
「ん…………うる……さい…………寒い」
「ちょっ!」
なんか暖かいなと夢現で掛布を捲りつつ目蓋を押し上げた。目の前に肌色の雄っぱいがあった。
そりゃ、湯殿係りだから竜王陛下の全裸は見るけどさ……こんな間近で見るのはちょっと違うというか、同じベッド内にいるのは流石にビビる。
てか、いつの間に帰って来てたのよ。
「つい……さっきだ…………うるさい。ねろ」
寝ぼけた様子の陛下に掛布ごと抱きすくめられ、陛下の雄っぱいに顔を埋めるような格好になってしまった。
暑苦しいし、ちょっと汗臭いし、もぅなんなのよ。
何時間経ったのか分からないけど、太陽は天高く昇っているし、尋常じゃなくお腹が減っているのでお昼だと思う。
そろそろ抜け出したいなと思った瞬間だった。雷か何かかというほどの重低音でゴギュルルルルと鳴った。私のお腹が。
「ぶっ…………ぶははははは!」
「っ――――!」
頭の上のほうで物凄い爆笑が降ってきている。今のは仕方ない。というか陛下のせいだと思うんだけど。
腕の力が抜けたので、少し体を離してじろりと睨むと、更に吹き出しながら涙が滲んだ目を擦っていた。
「昼食を用意させよう。少しベッドに隠れてろ」
「え? なぜですか?」
「…………初心かよ。一応、初夜明けの昼だぞ?」
「あっ!」
意味を理解して掛布を被って隠れたものの、たぶん顔が赤くなっていたのが見えたのだろう。また笑われてしまった。
そもそも、耳年増なだけで何の経験もないのだから、そりゃ『初心』ですよと文句を言いたいけれど、執事のシモンさんが入ってきているのが分かったので、必死に息を殺して待った。
「ウィスタリアさんはご無事ですかな?」
「あぁ、ベッドで寝ている」
「陛下、人間と竜族では構造も体力も違いますので……」
「ぶくくくく……分かってるよ!」
構造ってなんだ。見た限り普通の……いや、かなり鍛え込まれた身体だけども、頭があって手足があって、大差ないだろうに。
「飯を用意してくれ。少し多めでいい」
「承知しました。準備は出来ていますので、すぐにお持ちします」
「ん、お前以外が運ぶのなら、隣の部屋まででいい」
「承知しておりますよ」
シモンさんがクスリと笑う声が聞こえた。ドアが閉まったので掛布から顔を出すと、陛下がにやりと笑って多めに頼んでやったぞとドヤ顔をしてきた。
「っ……ありがとうございます」
悔しいものの、お礼を言うしかない。本当にお腹が減ったから、二人分くらい食べられそうだし。
届いた昼食を本当に二人分は食べてしまった。陛下が足りないのか? と言いながらフォークに刺した鶏肉を口元に差し出してくるので、ついついハムッと食べてしまったら、何が楽しかったのかニコニコしながら次々に差し出してくるようになった。
「ぷはぁ。おなかいっぱい」
「ん。夕食も頼んでおいたから、届いたら勝手に食ってろ。俺はまた行ってくる」
陛下はそう言うと、またパシュンと消えてしまった。
お部屋でゴロゴロしたり、陛下が用意してくださっていたらしい本を読んだりして暇を潰した。夕方に扉がノックされたものの、扉の向こうで「食事を置いておきます」との声掛けだけされた。
念のため、一〇分ほど置いてから取りに行くと、夕食はぶ厚いステーキだった。
「っ、マジでこれ食べていいの!?」
明らかに高級なステーキ肉。ぶ厚いのにナイフがスッと通るほどに柔らかい。断面から肉汁がジュワリと溢れ出てくる。
期待に胸を膨らませながら口に入れると、まず鼻から抜ける豊潤なお肉の風味に襲われた。そして数回噛んだだけで舌の上で溶けていくお肉。
「消えた…………え?」
美味しいお肉は一瞬にして消えた。私の口腔内に強烈な旨味だけを残して。
無我夢中でお肉を頬張り、時々ライ麦の丸パンを食べ、またお肉。
ペロリと陛下の分として用意してあった二枚のステーキを食べてしまった。
もう一枚は私の分だろう。でも流石にお腹いっぱいだ。スープさえも入らない。大量のお肉と少しのパンだけでお腹を満たしてしまった。
このままでは残りが全部廃棄になってしまう。それはさすがに嫌なので、夜食を作っておけばいいんじゃないかと気付いた。
丸パンを横にスライスする。そして、ステーキも薄くスライスしておく。パンの間にサラダを挟み、ステーキ肉をその上にのせる。ステーキソースをしっかり掛ければ、ステーキサンドの完成だ。
お肉たっぷりのステーキサンドが二個出来たので、お皿に入れて布巾を被せて、壁面ソファの前にあるローテーブルの上に置いた。あとで食べよう。
他は大変申し訳ないが残すことにし、隣の部屋に出しておいた。
夜ものんびりと過ごした。夜食にと取っておいたステーキサンドはしっかりと食べて、大きなベッドの真ん中にどーんと寝転がったら、あまりにもふかふかだったのですぐに眠りにつけた。